apocalypsis

さくら

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date et dabitur vobis

tredecim

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 質問の意味を理解していない天弥に向かい、差し出していた手を動かした。一つボタンが外れ、少し露になっている天弥の鎖骨の辺りに斎の人差し指が触れる。天弥は行動の意味が理解できず、その顔を不思議そうに見つめた。
「身体は大丈夫か?」
 斎の言葉と、その指が触れている赤い痕の存在に気が付き、天弥の意識が急激に覚醒する。質問の意味を理解したとたん、急激に体温が上がり、顔が赤くなる。
「……大丈夫……です」
 そう答え、天弥は羞恥の表情を浮かべて俯いてしまう。
「そんな顔されたら、また欲しくなるだろ」
 そう言いながらも、外れている天弥のワイシャツのボタンをかけた。斎の言葉に更なる羞じらいを覚え、耳まで赤くなる。
 再び失うことの不安や恐怖に駆られ、斎は天弥を自分に繋ぎ止めるために抱いた。一刻も早く家に帰さなければならないと、理屈では理解していたが感情が付いていかなかった。
 斎は自分の想いを抑える事が出来ず、天弥を抱きしめる。
「先生?」
 いきなり抱きしめられ、驚きの声を上げた。人通りが少ない住宅街とはいえ、時間的にまだ、いつ誰が通りかかってもおかしくないのだ。
「誰かに見られたら……」
 天弥の中には、このままこの腕の中に居たいと思う反面、斎の立場の心配もある。
「構わない。俺が教師を辞めればいいだけだ」
 天弥は首を横に振る。
「そしたら、先生と会えなくなっちゃうから嫌です」
 どういう理論で展開されたのかまるで分からない言葉に、斎は考え込む。
「なんで、俺が教師を辞めたら会えなくなるんだ?」
 不思議そうに自分を見下ろす斎の顔を見上げた。
「だって、先生が学校から居なくなっちゃうってことだし、お父さんみたいに帰ってくるの凄く遅かったり、お休みの日も仕事に行っちゃったりしたら、全然会えなくなっちゃう……」
 悲しそうな表情で訴える天弥に、その身体を抱きしめる腕を離した。
「そうだな」
 なぜ、そのような極端な展開になるのかと思わず考え込んでしまった。それに教師を続けたとしても、毎日一緒に居られるのは天弥が卒業するまでという期限付きである。だが、自分と共に在りたいと望むその言葉が、とても嬉しいものであり、それが伝わるように返事をした。
 返事に満足そうな笑みを浮かべる天弥を見つめる。家に入るように促さなくてはいけないのは分かっているが、斎の口からは言葉が出てこない。
 互いに見つめ合い、沈黙が支配するこの場を壊すかのように、天弥が俯いた。
「家に帰ります」
 小さな声で、自分に言い聞かせるように言った。
「ああ……」
 短い言葉を何とか搾り出すように、斎は答えた。だが本音は、出来る事なら家に帰したくはない。このまま天弥と一緒に居たいのだ。
「おやすみなさい」
 斎の返事に、その顔を見上げて天弥は笑みを作ろうとする。離れたくはないが、今の状況でそれを望めば迷惑をかけてしまう事になるのは、いくらなんでも理解できる事だった。
「おやすみ」
 無理やり笑みを作ろうとした天弥の表情に胸を痛めながら、応える。そして、玄関へ向かおうとして背を向けた天弥を見送る。天弥の足が踏み出されたとたん、斎は引き止めるようにその腕を掴んだ。
「天弥」
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