apocalypsis

さくら

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date et dabitur vobis

septendecim

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 天弥の瞳からあふれ出している涙の意味が変わる。
「誰よりも、何よりも、先生だけが好きです」
 さらに念を押すように、自分の想いを斎へ告げる。最初の切っ掛けは作られたものだったとしても、今は違う。自分の意思で、感情で、天弥は斎を想い欲しているのだ。
「俺もだ」
 斎の表情に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「僕で、いいんですか……?」
 正体を知らなくとも、斎はすでに自分が天弥でない事を知っている。それでも、望んでくれるのだろうかと、天弥の胸が熱くなる。
「相変わらず物覚えが悪いな」
 そう言うと斎はメガネを外した。
「俺は、お前が好きだって言っただろ」
 天弥の表情が笑みへと変わる。
「はい」
 嬉しそうな返事を聞くと、斎は天弥と唇を重ねた。一週間ぶりに感じる熱と唇の感触に、互いに激しく求め合う。
 天弥になりたいと思った。そして、いつまでも斎と一緒に居たいと願うが、それがどれだけ最低な事なのかも知ってしまった。それでも、何を犠牲にしようとも、総てを裏切ろうとも天弥は斎を望む。
 互いの唇がゆっくりと離れると、天弥は斎の胸に再び顔を埋めた。斎はメガネをかけると天弥の身体を強く抱きしめる。
 自分が望んだものが腕の中にある喜びと共に、罪悪感もある。願いのために、確実に犠牲になっている者がいる。
「mihi ignoscas」
 斎は、天弥の耳元に囁いた。この言葉が本当の天弥に届いているのかどうかは分からなかったし、言葉一つで片付く事ではないことも理解している。それでも言わずに居られなかったのは、少しでも罪悪感を減らしたかったのかもしれない。
 理解できない言葉を耳元で囁かれ、天弥は目を閉じる。意味は分からないが、それは本当の天弥へと向けられている言葉だというのは分かった。胸が締め付けられ、斎の身体に回した腕に思わず力が入る。
 斎は、自分にしがみ付く天弥を見下ろした。気にすると思い別の言語を使用したが、余計に不安がらせてしまったかと気がつく。
「懺悔をしていただけだ」
 天弥は斎の顔を見上げた。斎は、本当の天弥を知っている。どちらかを選べば、どちらかが犠牲になることも理解しているはずだ。天弥の表情が曇る。その表情を見て、斎は天弥と軽く唇を重ねた。
「俺が望んだ結果だ」
 唇が離れると斎は、天弥と自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
「amori servando me dedidi」
 斎の口から再び言葉が流れ始めた。それは祈りのようにも聞こえ、天弥は静かに斎を見つめた。
「autem,te quoque amabam……」
 朦朧とした意識の中、耳に届いた言葉を思い出す。なぜ、あの言葉だけラテン語だったのか、それはおそらくこの天弥には知られたくなかったからだと考える。だから、斎もあの言葉の意味を同じ言葉で問い返した。
「quis est illa?」
 だが、その答えを聞くということは、再び本来の天弥と会うという事になる。答えを知りたいと思いながらも、永遠に、この問いの答えを知る事が無いようにと斎は矛盾した願いを持つ。
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