apocalypsis

さくら

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date et dabitur vobis

novem

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 どのような状況で、一人になったのかは分からない。もし捨てられたのだとしたら、会いになど行ける訳が無い。
「薄情なのですね。ご両親は、ずっと貴方のことを捜しておられるのに」
 変わらず笑みを浮かべながら、天弥は淡々と言葉を紡ぐ。
「捜してる?」
 サイラスの中で揺らめき、付き動かされるものが込み上げてくる。
「そうです」
 天弥の言葉を一つ聞く度に、サイラスの中で二つの想いがぶつかり合う。
「せやかて……」
 サイラスの言葉が濁る。もし、家族と会えたとしても、何の記憶もない。そのうえ、十年以上の月日が経っている。それでも、互いに家族だと分かるのかと、不安になる。
「貴方の髪の色は、とても珍しいものなのでしょう? 目印になると思いますし、DNA鑑定で確認も出来ますよ」
 サイラスの中にある不安を読み取ったかのように、天弥はその耳に誘惑を囁く。
「珍しいったって、他に無いわけやないし、DNA鑑定も100%やない……」
 天弥が紡ぎだす誘惑から逃れようと、必死に否定を口にする。
「それなら、祖父の居場所ではどうでしょうか?」
 煮え切らないサイラスに対し、天弥は最高の餌を吊り下げた。
「知っとるんか?」
 思わず声を荒げ、身を乗り出した。天弥は変わらず笑みを浮かべながら、サイラスを見ている。
「はい」
 美しい顔で魅惑的な誘惑を囁く相手を、サイラスは見つめた。
「そんで……、俺は何をすればええんや?」
 その気になれば、笑み一つで相手を捉え虜にする事も簡単なはずなのに、なぜ天弥はわざわざ交換条件を持ち出すのか不思議に思う。
「念のために、保険を掛けておきたいのです」
「保険?」
 素直な疑問の言葉が、口から吐いて出る。
「もし、僕が出て来られなくなったら、元凶を排除して欲しいのです」
 天弥の表情から笑みが消える。
「元凶って何や?」
 何一つ感情の籠もらないその表情が一番美しいと思いながら、サイラスは天弥の返事を待つ。
「御神本 斎です」
 天弥が口にした名前に、露骨にその態度と表情に驚きを表す。
「何でや? 先生は天弥の恋人やろ? 元凶とか排除って、どういう事や?」
 計算されているのか、自然のままなのか、天弥の表情に微かな笑みが戻り、それが愁いを帯びる。
「先程、他に好きな相手がいると言われ、振られてしまいました」
 サイラスは違和感を覚える。先程、斎は天弥を取り戻すと言っていた。だが、目の前に居る天弥は、斎との関係を否定する。今の言葉通り、二人の関係が無くなったのだとすれば、斎は天弥を取り戻す必要など無いはずだ。
「そんなら、保険なんて必要ないやん」
 斎が、天弥に見限られたというのなら、まだ話は分かる。諦めきれずに、恋人と縒りを戻そうとするのは有り得る事だ。しかし、今の言葉によれば斎から別れを告げた事になる。
「ただ単に、備えあれば憂いなしというだけです」
 ハッキリと答えない様子に、事情を探ろうと斎の言葉を思い起こす。斎が、天弥を取り戻すと言った時、他に何かを言っていなかったか、細かく記憶を漁る。
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