apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
126 / 236
nosce te ipsum

undeviginti

しおりを挟む
 天弥の自宅は現在、二十四時間体制で監視を続けている。それに見つからずに家を抜け出せるとは考え難い。連れ出したのが斎ではないとしたら、最悪の状況が考えられる。
 再び斎に背を向け、ドアへと向かう。すぐに、斎の手がそれを止めた。
「説明しろと言ったはずだ」
 言い終わるか終わらないかと同時に、サイラスが振り向きざまに裏拳を斎の顔面に叩き込もうとする。スピードと重さの乗った手加減のない拳を、斎は腕を上げて受けようとした。
 斎とサイラスが同時に表情を変える。サイラスは、一切の手加減なしの拳を叩き込んだ。だが、軽く受け流されてしまった。手合わせしたことがあるため、その実力は分かっている。実力の差を考えれば、いとも簡単に受け流すことは出来ないはずだ。斎自身も驚きの表情を浮かべている。
「どういうことや?」
 どういうことなのか、自分が聞きたいぐらいだと斎は思う。確かに、言葉通り手加減なしの拳を向けてきた。だがそれには何の威力もなく、簡単に受け流すことが出来た。サイラスが弱くなった訳ではない。だとすれば、自分が変化したということなのだろうか。
「分からない……」
 ジッと自分の手を見つめながら、斎は答える。傷の治りが早いことといい、自分の身体に何か特別な現象が起こっているのかと、嫌でも考えざるを得ない。
 サイラスは、愕然とした表情の斎を見つめた。実験データには、斎の変化は二つしか記されていなかった。もう一つ変化があったということなのか、それとも変化の一つ、急速な再生速度に付随するものなのか考える。
 普段なら、強い相手は大歓迎なのだが、今はそんなことをしている暇はないと、判断をした。
「天弥がいなくなったんや」
 ここで無駄に時間を取るわけにも、斎との戦闘で身動きが取れなくなる訳にもいかない。素直に斎の望む答えを口にした。その言葉に斎の思考と表情が切り替わった。
「いなくなった?」
 そこまで思い込むほど、自分は天弥を追い詰めたのかと斎の目の前が暗くなる。どこへ行ったのか、無事でいるのか、そう考えると矢も盾もたまらず、鞄を手にすると部屋の外へと駆け出して行った。
 
 サイラスの言葉の真実を確認しに、まずは天弥の自宅へと向かった。担任から預かったプリントを母親に手渡し、天弥との面会を求めた。だが、前日までと同様やんわりと断られてしまう。いつものように引き下がるわけにもいかず、担任への報告があるからと食い下がる。実際、天弥の担任からプリントを渡された時、ついでに様子の確認も頼まれた。
 母親は、困ったように何かを考え込む。少しして母親は重い口を開いた。そして、天弥は家出をしたのだと告げると、玄関のドアを閉めてしまった。子供が家出をしたにしては、母親の態度が腑に落ちない。普通は、必死になって捜すものだと思う。それとも、実の親子でなかったらこんなものなのだろうかと、悲しい考えが浮かんでしまった。
 閉じられたドアを見ながら、その場で考え込む。今の母親の様子では、天弥がいなくなったのは確かなのか分からない。もし事実だとしたら、サイラスはどうやってそれを知ったのか、親は警察に届出をしているのかなど、あまりにも不明な部分が多い。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖獣大戦

戸影絵麻
ホラー
オンラインゲームの中で突然話しかけてきた大学時代の友人。謎めいたそのメッセージに従った僕は、リアルの世界でやがて想像を絶する戦いに巻き込まれていく…。

【拾話怪異譚】盲目の語り部

凪瀬夜霧
ホラー
「昔々の事でございます」 紙が貴重な世界。世を旅歩き集めた話を語り歩く「語り部」と言われる人々がいる。 語り部は驚異的な記憶力を持つ他、目を見る事で人の心を覗く力があった。 だがここに、盲目の語り部がいた。 瞳の力を失った彼が語るのは世にも恐ろしい怪異の物語。 人の魂が歪み魔物となって災い成す世で、魔物の心を覗きその過去を語り歩く異端の語り部ヨリ。 現を映さぬその眼に映るのはこの世にあらざるモノの悲哀。 愛憎、絶望、嫉妬、憤怒。何故彼らは異形と成り果てたのか? 怪異語りヨリと、その用心棒キョウの怪異物語です。 こちらはエブリスタにて三村薔様主催のシェアワールド「語り部企画」にて書かせて頂いた作品です。 2023年1月31日に同人誌にて頒布予定というのもあり、こちらにWeb掲載分を投稿いたします。 更新は毎日16時を予定しております。 全年齢ですので、怪談がお好きな方はどうぞご覧ください。

バベルの塔の上で

三石成
ホラー
 一条大和は、『あらゆる言語が母国語である日本語として聞こえ、あらゆる言語を日本語として話せる』という特殊能力を持っていた。その能力を活かし、オーストラリアで通訳として働いていた大和の元に、旧い友人から助けを求めるメールが届く。  友人の名は真澄。幼少期に大和と真澄が暮らした村はダムの底に沈んでしまったが、いまだにその近くの集落に住む彼の元に、何語かもわからない言語を話す、長い白髪を持つ謎の男が現れたのだという。  その謎の男とも、自分ならば話せるだろうという確信を持った大和は、真澄の求めに応じて、日本へと帰国する——。

ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜

蜂峰 文助
ホラー
※注意! この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!! 『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎ https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398 上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。 ――以下、今作あらすじ―― 『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』 ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。 条件達成の為、動き始める怜達だったが…… ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。 彼らの目的は――美永姫美の処分。 そして……遂に、『王』が動き出す―― 次の敵は『十丿霊王』の一体だ。 恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる! 果たして……美永姫美の運命は? 『霊王討伐編』――開幕!

不動の焔

桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。 「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。 しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。 今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。 過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。 高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。 千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。   本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない ──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/1/17:『ねえ』の章を追加。2025/1/24の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/16:『よみち』の章を追加。2025/1/23の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/15:『えがお』の章を追加。2025/1/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/14:『にかい』の章を追加。2025/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/13:『かしや』の章を追加。2025/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/12:『すなば』の章を追加。2025/1/19の朝8時頃より公開開始予定。 2025/1/11:『よなかのきせい』の章を追加。2025/1/18の朝8時頃より公開開始予定。

いま、いく、ね。

玉響なつめ
ホラー
とある事故物件に、何も知らない子供がハンディカムを片手に訪れる。 表で待つ両親によって「恐怖映像を撮ってこい」と言われた子供は、からかうように言われた「子供の幽霊が出るというから、お前の友達になってくれるかもしれない」という言葉を胸に、暗闇に向かって足を進めるのであった。 ※小説家になろう でも投稿してます

処理中です...