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ジッと自分を見つめる斎に向かい、疑問を投げかける。斎は天弥の頬に触れている手を離し、その華奢な身体を抱き寄せた。天弥は、斎の腕の中の温もりと幸福感に包まれながら、目を閉じる。
「とりあえず、昼飯を食うか?」
答えが出ない考えを、自分の中へと押し込めた。
「はい」
嬉しそうな返事を聞くと、その腕を離し立ち上がった。机に向かい、手にした資料や教科書を置くと、鞄から弁当を取り出す。机の上に置いてある煙草の箱も一緒に手にし、ソファーへと戻った。
すでに嬉しそうに弁当を広げている天弥の横へと座り、目前のテーブルに弁当と煙草を置く。
「いただきます」
嬉しそうに、天弥は弁当へと手を付け始めた。斎もその後に続くかのように、テーブルの上から弁当を手に取る。
何かを食べている時の天弥は、とても幸せそうだと思う。特に甘いものだとそれが顕著になる。ふと脳裏に、昨日の天弥の幸せそうな顔と、車中に漂う甘い香りが蘇る。昨日のチョコレートも、水族館への行き帰りの車中で全て食べてしまった。よく、それだけ甘いものを食べられるものだと、いつもながら感心をしてしまった。
自分の弁当のおかずを箸で掴むと天弥に向けて差し出した。
「ほら」
天弥は差し出されたおかずの存在に気が付く。嬉しそうな笑みを浮かべ、それを口に入れる。
「美味しいです」
笑顔を斎に向けてそう言うと天弥は、大好きなおかずである玉子焼きを箸で掴んだ。
「はい」
笑顔と共に差し出された玉子焼きを見て、斎は一瞬ためらうがそれを口に入れた。相変わらず、玉子の味も出汁の味もしない、恐ろしいほどの甘さが口の中に広がる。だが、天弥が一番好きだというものをくれるのだから、喜んでそれを食べる。斎の様子を嬉しそうに見つめると、天弥は再び弁当に箸を付け始める。
「天弥」
名前を呼ばれ、斎へと顔を向けると目の前に端正な顔があり、天弥の心臓が驚きを訴える。
「動くな」
そう言うと斎は天弥の頬に手を置いた。すぐに、天弥は右の口角のすぐ横に触れる斎の唇の感触を感じる。キスにしては位置が変だと考えていると、今度は何か塗れた少しざらつく感じのものが這うのを感じた。ゾクリと背中を駆け抜ける快楽に、それが斎の舌で、唇の横を舐められているということを理解する。とたんに、天弥の心臓が大きな音を立て、一気に体温が上昇した。
「ご飯粒がついていたぞ」
赤く染めた顔をした天弥に向かい、斎は少し意地悪そうな笑みを浮かべると食事を再開した。涼しい顔をしながら食事を続ける斎を、天弥は熱を帯びた目で見つめる。
本当なら土曜日に、斎ともっと深い関係になっていたはずだった。そう考えたとたん、天弥を羞恥が支配する。斎の形の良い唇、少しはだけた胸元、長い指をした綺麗な手、どれもが天弥の中の情欲を掻き立てる。
「どうした?」
いつもと同じ表情と声音の斎に、一人で邪な想いを浮かべている自分を知られたくなくて、天弥は首を横に振ると視線を逸らした。
どう反応してよいのか分からず、とりあえず弁当に箸を付け、機械的に口元に運ぶ。味など少しも分からない。盗み見るように、何度も斎へと密かに視線を向ける。
「天弥、今日は少し遅くなっても平気か?」
「とりあえず、昼飯を食うか?」
答えが出ない考えを、自分の中へと押し込めた。
「はい」
嬉しそうな返事を聞くと、その腕を離し立ち上がった。机に向かい、手にした資料や教科書を置くと、鞄から弁当を取り出す。机の上に置いてある煙草の箱も一緒に手にし、ソファーへと戻った。
すでに嬉しそうに弁当を広げている天弥の横へと座り、目前のテーブルに弁当と煙草を置く。
「いただきます」
嬉しそうに、天弥は弁当へと手を付け始めた。斎もその後に続くかのように、テーブルの上から弁当を手に取る。
何かを食べている時の天弥は、とても幸せそうだと思う。特に甘いものだとそれが顕著になる。ふと脳裏に、昨日の天弥の幸せそうな顔と、車中に漂う甘い香りが蘇る。昨日のチョコレートも、水族館への行き帰りの車中で全て食べてしまった。よく、それだけ甘いものを食べられるものだと、いつもながら感心をしてしまった。
自分の弁当のおかずを箸で掴むと天弥に向けて差し出した。
「ほら」
天弥は差し出されたおかずの存在に気が付く。嬉しそうな笑みを浮かべ、それを口に入れる。
「美味しいです」
笑顔を斎に向けてそう言うと天弥は、大好きなおかずである玉子焼きを箸で掴んだ。
「はい」
笑顔と共に差し出された玉子焼きを見て、斎は一瞬ためらうがそれを口に入れた。相変わらず、玉子の味も出汁の味もしない、恐ろしいほどの甘さが口の中に広がる。だが、天弥が一番好きだというものをくれるのだから、喜んでそれを食べる。斎の様子を嬉しそうに見つめると、天弥は再び弁当に箸を付け始める。
「天弥」
名前を呼ばれ、斎へと顔を向けると目の前に端正な顔があり、天弥の心臓が驚きを訴える。
「動くな」
そう言うと斎は天弥の頬に手を置いた。すぐに、天弥は右の口角のすぐ横に触れる斎の唇の感触を感じる。キスにしては位置が変だと考えていると、今度は何か塗れた少しざらつく感じのものが這うのを感じた。ゾクリと背中を駆け抜ける快楽に、それが斎の舌で、唇の横を舐められているということを理解する。とたんに、天弥の心臓が大きな音を立て、一気に体温が上昇した。
「ご飯粒がついていたぞ」
赤く染めた顔をした天弥に向かい、斎は少し意地悪そうな笑みを浮かべると食事を再開した。涼しい顔をしながら食事を続ける斎を、天弥は熱を帯びた目で見つめる。
本当なら土曜日に、斎ともっと深い関係になっていたはずだった。そう考えたとたん、天弥を羞恥が支配する。斎の形の良い唇、少しはだけた胸元、長い指をした綺麗な手、どれもが天弥の中の情欲を掻き立てる。
「どうした?」
いつもと同じ表情と声音の斎に、一人で邪な想いを浮かべている自分を知られたくなくて、天弥は首を横に振ると視線を逸らした。
どう反応してよいのか分からず、とりあえず弁当に箸を付け、機械的に口元に運ぶ。味など少しも分からない。盗み見るように、何度も斎へと密かに視線を向ける。
「天弥、今日は少し遅くなっても平気か?」
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