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nosce te ipsum
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授業を終え教室を出ると斎は、白衣のポケットから携帯を取り出した。朝、病院へ行ってから登校すると天弥から連絡があった。すぐに、終わったらメールで連絡を入れるようにと伝えた。
四時間目が始まるまで、天弥からの連絡はなかった。授業中に連絡が来ても大丈夫なように、今日はマナーモードに設定をして、携帯を身に着けていた。
待ちわびた天弥からのメールが届いており、急いでそれを確認する。昼休み前には学校へ着くと記されていた。それを読み、教科室へと急ぐ。
昼休みに入り、生徒たちがざわつき溢れる廊下を、ひたすら目的地へと向かう。廊下を歩く生徒の姿が減り、まったく見かけなくなると数学の教科室が見えた。もともとあまり生徒が来ない場所というのもあるが、数学は生徒の嫌いな教科の代表のため、わざわざここに生徒が来ることはほとんど無い。
逸る気持ちを抑えながらドアを開ける。すぐに、ソファーに腰掛けている人影が振り向き、視線を向けた。すぐにドアを閉め、鍵をかける。
「先生」
嬉しそうな笑みを浮かべ、斎を呼びながら天弥が立ち上がった。すぐに近寄り、その身体に抱きつく。斎も天弥を抱きしめようとしたが、教科書や資料が邪魔になり片腕で抱きしめることになってしまった。
「どうだった?」
問いかけられ、天弥は戸惑いを浮かべながらその顔を見つめた。
「とりあえず座れ」
天弥の様子に何かあったのかと思い、とりあえずソファーへ座らせる。天弥のすぐ横に、斎も腰を下ろす。
「あの……、よく分かんないんです……」
少し俯きながら、天弥が答える。
「分からない?」
小さく天弥が頷く。
「お母さんが、良いところがあるっていうから連れて行ってもらったんだけど……」
天弥は少し口を閉ざした後、思い切ったように言葉を発した。
「僕、途中ですごく眠くなっちゃって、気がついたら寝てたんです。だから、よく分からなくて……」
顔を伏せている天弥を見つめた。
「でもお母さんが、特に身体に異常は無いってお医者さんが言ったって教えてくれました」
天弥の話は要領を得ないが、察するところ内科で検査をしたというところだろう。腕に残る針の後が、それを物語っている。
記憶の欠如は、人格が入れ替わっているためだと思われる。本来なら精神科だと思うのだが、たまに記憶が無いだけでは、いきなり精神科へということも考えにくい。
斎は手を伸ばし、天弥の頬に触れる。ゆっくりと顔を上げ、天弥は斎を見つめた。
「特に異常がないなら、良かった」
天弥が少しでも安心できるのなら、それで良いと思い、斎は自分の考えを飲み込む。天弥には人格が二つあると思われる。今現在は、この天弥が主人格だろうが、基本人格は三歳まで存在していたもので、おそらく三度、斎の前に現れた天弥がそうだと推測できる。
目の前にある天弥の顔を、斎は見つめる。同じ顔、同じ身体だが、性格や雰囲気がまったく違う。もし、予想通り人格が二つあった場合、そしてそのどちらかを選ばなければならなくなった場合、自分はどうするのだろうかと考える。
「先生?」
四時間目が始まるまで、天弥からの連絡はなかった。授業中に連絡が来ても大丈夫なように、今日はマナーモードに設定をして、携帯を身に着けていた。
待ちわびた天弥からのメールが届いており、急いでそれを確認する。昼休み前には学校へ着くと記されていた。それを読み、教科室へと急ぐ。
昼休みに入り、生徒たちがざわつき溢れる廊下を、ひたすら目的地へと向かう。廊下を歩く生徒の姿が減り、まったく見かけなくなると数学の教科室が見えた。もともとあまり生徒が来ない場所というのもあるが、数学は生徒の嫌いな教科の代表のため、わざわざここに生徒が来ることはほとんど無い。
逸る気持ちを抑えながらドアを開ける。すぐに、ソファーに腰掛けている人影が振り向き、視線を向けた。すぐにドアを閉め、鍵をかける。
「先生」
嬉しそうな笑みを浮かべ、斎を呼びながら天弥が立ち上がった。すぐに近寄り、その身体に抱きつく。斎も天弥を抱きしめようとしたが、教科書や資料が邪魔になり片腕で抱きしめることになってしまった。
「どうだった?」
問いかけられ、天弥は戸惑いを浮かべながらその顔を見つめた。
「とりあえず座れ」
天弥の様子に何かあったのかと思い、とりあえずソファーへ座らせる。天弥のすぐ横に、斎も腰を下ろす。
「あの……、よく分かんないんです……」
少し俯きながら、天弥が答える。
「分からない?」
小さく天弥が頷く。
「お母さんが、良いところがあるっていうから連れて行ってもらったんだけど……」
天弥は少し口を閉ざした後、思い切ったように言葉を発した。
「僕、途中ですごく眠くなっちゃって、気がついたら寝てたんです。だから、よく分からなくて……」
顔を伏せている天弥を見つめた。
「でもお母さんが、特に身体に異常は無いってお医者さんが言ったって教えてくれました」
天弥の話は要領を得ないが、察するところ内科で検査をしたというところだろう。腕に残る針の後が、それを物語っている。
記憶の欠如は、人格が入れ替わっているためだと思われる。本来なら精神科だと思うのだが、たまに記憶が無いだけでは、いきなり精神科へということも考えにくい。
斎は手を伸ばし、天弥の頬に触れる。ゆっくりと顔を上げ、天弥は斎を見つめた。
「特に異常がないなら、良かった」
天弥が少しでも安心できるのなら、それで良いと思い、斎は自分の考えを飲み込む。天弥には人格が二つあると思われる。今現在は、この天弥が主人格だろうが、基本人格は三歳まで存在していたもので、おそらく三度、斎の前に現れた天弥がそうだと推測できる。
目の前にある天弥の顔を、斎は見つめる。同じ顔、同じ身体だが、性格や雰囲気がまったく違う。もし、予想通り人格が二つあった場合、そしてそのどちらかを選ばなければならなくなった場合、自分はどうするのだろうかと考える。
「先生?」
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