apocalypsis

さくら

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suggestio veri, suggestio falsi

viginti

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 写真から視線を逸らさずに、斎が尋ねる。
「羽角由香子さんじゃ」
 胡桃沢の答えに、斎は視線を写真からそちらへと向けた。
「あー、結婚したから成瀬由香子さんじゃのぉ」
 その言葉に斎は、改めて写真の少女を見る。
「天弥の母親……?」
 羽角と成瀬という名字、天弥とよく似た姿に、斎は写真の少女の正体を知る。
「そうじゃ。あの子に渡してくれんかのぉ?」
「分かりました」
 了承の返事を聞くと、胡桃沢は満足そうな表情を向けた。
「さて、本題じゃが」
 胡桃沢の言葉に、斎は視線を向け写真を持つ手を下ろした。
「メールには、バイアキーを見たと書いてあったが、その事かのぉ?」
「はい。それと、十三年前と十七年前に何があったのか教えてください」
 胡桃沢は少し考え込む。
「十七年前の詳細は分からんのじゃが、それでも良いのかのぉ?」
「はい」
 例え僅かでも、情報が手に入るのなら、それに越した事は無い。今の、何も分からない状況よりは遥かにましだ。
「ふむ。では十七年前の事から話そうかのぉ」
 胡桃沢はそう言うと歩き出し、椅子へと座る。斎も、すぐにその後に続いた。
「推測なのじゃが、羽角が召喚しようとしていたのはアザトースなんじゃと思う」
 予想外の神の名を聞き、斎は少し戸惑いをみせる。
「アザトース? しかし、その神を信仰する宗教は無かったはずですが……」
 アザトースは万物の王として、通常の時空を超越した宇宙の中心に存在する神である。だが、この神は信仰に対して見返りを与える事は無い。それどころか、召喚者に対して狂人にしか理解できない真理を与え、その者を狂人へと変えてしまう。
「信仰の結果として、召喚しようとしたのではないんじゃ」
 神を呼ぶ理由が信仰ではないとしたら、それは何の為なのかと考える。
「羽角は、ファウストと同じなんじゃ」
 目を伏せながら、胡桃沢が呟くように言った。
「それは、ゲオルク・ファウストの事ですか? それとも、ゲーテの戯曲のファウストですか?」
「ゲーテの方じゃ」
 ゲーテのファウストは、無限の知識欲を満たす為に悪魔メフィストフェレスと契約をしたドクトルファウストの話である。欲望を満たし、あらゆる享楽に耽り、最後は呪いをかけられ失明して命を失ってしまう。ゲオルク・ファウストは、この戯曲のモデルとなった人物だ。
「羽角の望みは、嫌というほど理解できる。悪魔に魂を売ってでも、あらゆる知識を極め尽くしたいと願ったことは何度もある」
 知識を得る為に、宇宙を創造し、始まりから存在していると言われる神を召喚しようとした事を、今の斎は嫌というほど理解できた。もし今、悪魔でも邪神でも召喚する術があり、それによって知りたい事を得られるのなら、迷わず実行しているだろう。
「それで、召喚は成功したんですか?」
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