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suggestio veri, suggestio falsi
undeviginti
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神など存在するはずが無い。この二年、何よりも望む事は叶う事はなかったのだ。
「神の存在も、数式の中にはあるのじゃよ」
「数学者が、神の存在を信じているのですか?」
自分に注がれる他の学生たちの視線も気にせずに、言葉を続けた。
「何を言う。数学者ほど神の存在を信じ、かつ身近に感じる者はおらん」
その言葉に、ヴァチカンを総本山とする神の信徒たちの立場はどうなるのかと、思わず考える。男は斎の言葉を待つこともなく、今度は神について講義を始めた。先程までの数学の講義とは違い、朗々と響き渡る声に斎は聞き入る。
確かに、その式の中に世界を見ることが出来るという事は、神の存在も有り得るのかもしれない。確認は出来なくても、計算上は存在するものもあり、永遠ともいえる時間を有する空間もある。理論的には、時間を越える事も可能なのだ。相対性理論における相対的時間差、強い重力下での時間の遅れを利用すれば、片道ではあるが未来へ行く事は出来る。
気がつけば、宗教学ともいえる内容に、熱心に聞き入っていた。その日の約束はすでに頭の中に無く、抗議の電話が来るまで思い出しもしなかった。
それから、自分の学部とは違うキャンパスだというのに、胡桃沢の講義を聴きに通った。ひと時だけ得られる身体のみの快楽よりも、新しく得る知識や世界の方が満たされた。
それでも、広がる空虚は簡単に埋まる事は無く、天弥に心を奪われるまで、それらは斎の大部分を占めていた。
斎は大学の駐車場に車を停めると、胡桃沢の元へと向かった。
ドアを開けたとたん、斎の耳に苦情が飛び込んできた。
「待ちくたびれたのぉ」
そう言いながら自分に視線を向ける胡桃沢に近づく。
「すみません。急いで来たんですが……」
前回と違い、今回は言葉通り真面目に急いで来たのだった。そう謝罪を述べた斎の目の前に、胡桃沢はナッツ入りのチョコレートの箱を差し出した。ハワイの土産として定番となっているものである。
「土産じゃ」
不思議そうにその箱を見つめる斎に向かい、胡桃沢は声をかけた。確かメールには、ボストンへ行っていたと書いてあったはずだが、なぜハワイの土産なのかと少し考え込む。だが、野球チームのグッズよりは良いかと思い、それを受け取る。
「ありがとうございます」
斎は受け取った箱を見ながら、天弥が喜びそうだと考えると、今すぐにでも会いたくなる。
「今日は、一人なのかのぉ?」
斎の背後を確認するかのように視線を向け、胡桃沢が尋ねる。
「そうですが、天弥も一緒の方が良かったですか?」
「いやいや、懐かしいものが出てきたので渡そうかと思っただけじゃ」
斎の問に即答すると胡桃沢は、少し離れた机に向かって歩き出した。何か紙切れのようなものを手に取ると、斎の元へと戻る。斎は自分に向かって差し出されたものを受け取った。
「天弥……?」
それは古い写真で、少し若い胡桃沢と天弥によく似た十代の少女が写っていた。天弥のような凄絶な美貌ではないが、客観的に見て美しい少女だと斎は思う。
「これは?」
「神の存在も、数式の中にはあるのじゃよ」
「数学者が、神の存在を信じているのですか?」
自分に注がれる他の学生たちの視線も気にせずに、言葉を続けた。
「何を言う。数学者ほど神の存在を信じ、かつ身近に感じる者はおらん」
その言葉に、ヴァチカンを総本山とする神の信徒たちの立場はどうなるのかと、思わず考える。男は斎の言葉を待つこともなく、今度は神について講義を始めた。先程までの数学の講義とは違い、朗々と響き渡る声に斎は聞き入る。
確かに、その式の中に世界を見ることが出来るという事は、神の存在も有り得るのかもしれない。確認は出来なくても、計算上は存在するものもあり、永遠ともいえる時間を有する空間もある。理論的には、時間を越える事も可能なのだ。相対性理論における相対的時間差、強い重力下での時間の遅れを利用すれば、片道ではあるが未来へ行く事は出来る。
気がつけば、宗教学ともいえる内容に、熱心に聞き入っていた。その日の約束はすでに頭の中に無く、抗議の電話が来るまで思い出しもしなかった。
それから、自分の学部とは違うキャンパスだというのに、胡桃沢の講義を聴きに通った。ひと時だけ得られる身体のみの快楽よりも、新しく得る知識や世界の方が満たされた。
それでも、広がる空虚は簡単に埋まる事は無く、天弥に心を奪われるまで、それらは斎の大部分を占めていた。
斎は大学の駐車場に車を停めると、胡桃沢の元へと向かった。
ドアを開けたとたん、斎の耳に苦情が飛び込んできた。
「待ちくたびれたのぉ」
そう言いながら自分に視線を向ける胡桃沢に近づく。
「すみません。急いで来たんですが……」
前回と違い、今回は言葉通り真面目に急いで来たのだった。そう謝罪を述べた斎の目の前に、胡桃沢はナッツ入りのチョコレートの箱を差し出した。ハワイの土産として定番となっているものである。
「土産じゃ」
不思議そうにその箱を見つめる斎に向かい、胡桃沢は声をかけた。確かメールには、ボストンへ行っていたと書いてあったはずだが、なぜハワイの土産なのかと少し考え込む。だが、野球チームのグッズよりは良いかと思い、それを受け取る。
「ありがとうございます」
斎は受け取った箱を見ながら、天弥が喜びそうだと考えると、今すぐにでも会いたくなる。
「今日は、一人なのかのぉ?」
斎の背後を確認するかのように視線を向け、胡桃沢が尋ねる。
「そうですが、天弥も一緒の方が良かったですか?」
「いやいや、懐かしいものが出てきたので渡そうかと思っただけじゃ」
斎の問に即答すると胡桃沢は、少し離れた机に向かって歩き出した。何か紙切れのようなものを手に取ると、斎の元へと戻る。斎は自分に向かって差し出されたものを受け取った。
「天弥……?」
それは古い写真で、少し若い胡桃沢と天弥によく似た十代の少女が写っていた。天弥のような凄絶な美貌ではないが、客観的に見て美しい少女だと斎は思う。
「これは?」
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