apocalypsis

さくら

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suggestio veri, suggestio falsi

tredecim

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 思ってもいなかった言葉に、天弥は困惑する。
「欲しくないなら、ここまでだ」
 欲しい。そう思いながら、ゆっくりとためらいがちに、自ら唇を重ねた。斎は震える天弥の身体を抱きしめる。そして何度も唇を重ねたはずなのに、なぜキスが下手なのだろうかと考える。いつも、一方的に受け入れているだけなのだから、それはある意味仕方がないかと考えた。それでも、天弥が自分を求めてくれていると思うだけで、酔いしれた。
 自身が物足りなくなり、斎は自ら激しく天弥を求めだす。思うがまま求め、その唇を貪る。天弥は斎を受け入れ、その快楽に囚われた。
 欲情を満たし、斎は天弥と重ねた唇を離す。快楽に酔う天弥の表情に、斎の中に新たな情欲が湧く。ここは病室なのだと何度も自分に言い聞かせ、無理やり湧き上がるものを押さえ込む。
「天弥」
 耳元で囁かれる斎の声に、天弥は反射的にその身体に回した腕に力を込めた。少しでも自分の中から不安を拭いたくて、腕の中の天弥の存在を確かめるかのように、抱きしめる。天弥の身体も心も、すべてを自分の物にしたいという欲求が支配していく。
「明日、退院祝いを貰ってもいいか?」
 斎の言葉に、天弥は何も考えずに頷く。頷いた後で、少し意識が明瞭になり、欲しい物は何か、小遣いは足りるのかと考え出した。
「退院祝いは、何が良いですか?」
 まだ快楽に潤む瞳を斎に向ける。
「天弥」
 自分を見つめながら名前を呼ぶ斎を、天弥は不思議そうに見つめ返す。
「天弥が欲しい」
 昨夜のような不安に苛まれ、思い悩むような事は、もうしたくないと願う。少しでも不安に陥る要素を、減らしてしまいたいのだ。
 斎の言葉に天弥は、すぐにその意味を理解できずに、ジッと目の前の端正な顔を見つめた。少しして、その意味を理解すると一気に体温が上昇し、早くなる鼓動と共に頬を染め、小さく頷いた。
 
 サイラスは機嫌の悪さを隠そうともせずに、エレベーターの前で足を止めた。報告など、メールで済ませれば良いと思うのだが、書類にして持参しなければならず、あまりにも不合理だと思う。
 叩きつけるように相手の机の上に報告書を置き、部屋を飛び出してきた。苦情代わりといってはなんだが、文章をすべて英語で書いてきた。後で何かを言われたら、英語も分からないのかと嫌味の一つでも言おうと考えている。
 イラついている時は、どんなことでも不機嫌の対象になり、未だ来ないエレベーターに苛立ちを覚え、何度も目の前のボタンを押す。
 今日は、マジカルミントちゃんのDVDの発売日なのだ。一刻も早くそれを買いに行きたいという思いが、さらに苛立ちを煽る。
 ゆっくりと動く階数表示に、視線を向けた。いつもと変わらないはずだというのに、妙に遅く感じる。やっと自分の居る階の表示が明るくなると、少しだけ気分が浮上した。
 待ちわびたドアが開き、中へと入ろうとした時、人影に気がつく。すぐに横に避け、相手が出てくるのを待つ。少し俯きながら出てきた人物に、思考が一時中断をし苛立ちがどこかへと消えてしまう。
「成瀬花乃……?」
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