apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
95 / 236
suggestio veri, suggestio falsi

undecim

しおりを挟む
 そのまま目を閉じて眠ってしまいそうになり、上半身を起こした。明日、とはいっても既に日付は変わっているが、学校がある。目覚ましをセットすると、明日の準備と寝る支度を始めた。
 
 天弥は病室のドアを軽くノックするが、何も反応がなく、少し考えたのちドアノブに手を掛け静かにドアを開けた。ゆっくりと室内へと入り、ベッドを見た。斎は寝ているのかと思ったのだが、予想がはずれ病室に居ない事に少し落ち込む。
 ホームルームが終わったあと、少しでも早く斎に会いたくて急いで来たのだった。どこへ行ったのかと考えていると、ドアが開く音がした。すぐに視線を向け、斎の姿を視界に捉える。
 ドアが閉じられると同時に天弥は足を踏み出し、斎に飛びつくように抱きついた。斎は一瞬、驚きの表情を浮かべたが、すぐにいつもの表情へと戻り、天弥の身体に腕を回す。
「悪い、煙草を吸いに行っていた」
 斎の言葉に天弥がその顔を見上げると、すぐに唇が重なりゆっくりと離れた。
「先生」
 天弥がその存在を確認するかのように、斎を呼ぶ。
「どうした?」
 斎の問いに天弥は首を横に振る。今、ここにいるのが夢でも幻でもないと、ただ確認をしたかっただけなのだ。
「とりあえず座れ」
 斎に促され、天弥は渋々と腕を下ろし椅子に座る。そして鞄を床に置き、ベッドへと腰かけた斎を見る。
「明日、退院することになった」
 いきなりの言葉に、天弥は驚きの表情を浮かべて、その端正な顔をじっと見つめた。予想とは違う天弥の反応に、斎は少し考える。喜ぶだろうと思っていたため、その様子に戸惑った。
「もう、大丈夫なんですか?」
 不安と期待が複雑に入り混じったような表情で、天弥が尋ねる。
「ああ」
 斎の返事を聞くと、天也は嬉しそうな笑みを浮かべ、おもむろに椅子から立ち上がった。そして目の前の想い人に抱きつく。
「良かった……」
 安堵を含んだ、今にも消え入りそうな声が斎の耳に届いた。もう大丈夫なのだ。そう思うと嬉しさのあまり、次々と天弥の瞳から涙が溢れてくる。
 斎は天弥の身体を抱きしめる。今までと変わらず自分の腕の中に天弥がいる事に、心中の不安が薄れていく。さらに、以前にもまして離れようとしない天弥に、至福を味わう。
「今日は一人なのか?」
 斎の言葉に天弥が頷いた。
「サイラスくん、今日はDVDの発売日だから行けないって」
「そうか」
 天弥の柔らかい髪を撫でながら、斎は呟くように言った。また夜中にでも来るのだろうかと、月明かりに照らし出されたサイラスの姿が頭をよぎる。
 斎は、自分の膝に天弥を座らせ、その顔を見た。まだ少し涙を溜め潤んだ瞳に、斎の顔が映る。
 今日、看護士や他の入院患者と話をしていて、天弥とサイラスは毎日見舞いに来ていた事を知った。そしてなぜか、二人は周りから恋人同士だと認識されていた。思わずそれを否定する寸前で、慌てて言葉を飲み込んだ。
 斎は天弥を見つめる。確かに、男子の制服を着ていても男には見えない。毎日サイラスと仲良く見舞いに来ていれば、周囲から誤解をされるのも仕方が無いと感じる。
「先生?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

餅太郎の恐怖箱

坂本餅太郎
ホラー
坂本餅太郎が贈る、掌編ホラーの珠玉の詰め合わせ――。 不意に開かれた扉の向こうには、日常が反転する恐怖の世界が待っています。 見知らぬ町に迷い込んだ男が遭遇する不可解な住人たち。 古びた鏡に映る自分ではない“何か”。 誰もいないはずの家から聞こえる足音の正体……。 「餅太郎の恐怖箱」には、短いながらも心に深く爪痕を残す物語が詰め込まれています。 あなたの隣にも潜むかもしれない“日常の中の異界”を、ぜひその目で確かめてください。 一度開いたら、二度と元には戻れない――これは、あなたに向けた恐怖の招待状です。 --- 読み切りホラー掌編集です。 毎晩20:20更新!(予定)

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「46」まで済。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百物語 箱館「怪談」散歩(一話完結・短編集)

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
ホラー
世の中、時々不思議なことが起こります。 ノンフィクション怪談です。 私が子供の頃から大人になるまで、そしてその後も蒐集した これは、と思う実話怪談を書きおこしました。 お楽しみいただければ幸いです。 もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。 大変励みになります。 無断転載・無断使用は不可で、お願いします。

処理中です...