apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
55 / 236
quaecunque sunt vera

viginti unus

しおりを挟む
 天弥は椅子に座り、机の上に広げた参考書を見ると、そのまま上半身を投げ出すように突っ伏した。帰宅後、勉強をしようと思ったのだが、斎との夕食で食べすぎてしまい、満腹で何もする気が起きなくなってしまったのだ。
 少し休んでからと思い、ゆっくりと瞼を閉じた。薄れ行く意識の中で斎の姿が思い浮かび、慌てて上体を起こした。自分の体温が上がり、鼓動が早くなっているのがよく分かる。
 ここ最近、寝ても覚めても斎の事ばかりを考えている自分に、少し戸惑う。こんなにも、自分の総てを捉える相手は初めてだった。
 今まで何度か、誘われるままに女の子とデートのようなものはした事がある。それは手を握る事も無かったようなもので、みな一度きりで終わり、その後には続かなかった。自分でも特に何とかしようとは思いもしなかったし、そう思える相手も今までいなかった。
 男に誘われた事もあるが、それらは総て断った。どのような相手であれ、同性をそのような対象として見ることは考えもしなかった。
 なぜ、斎に心惹かれたのかは分からない。自分でも変だと思いはしたが、それよりも斎への思慕が勝っていた。
 上半身を起こすと静かに自分の身体に腕を回す。斎に抱きしめられる感覚を思い出し、自分の中に湧き上がる感情に身を任せる。これが斎の腕ならそう考えただけで、身体中の血が騒ぎ出すような感覚に襲われる。
 そしてその感覚に溺れ、斎が欲しいと望む。斎を想いながら、静かに指で唇に触れ何度もその感触を思い出す。
「せん……せ……」
 思わず、斎を切なく呼ぶ声が漏れる。それが合図であるかのように、部屋の窓ガラスが大きく音を立てて揺れた。慌てて窓へと視線を向けて立ち上がる。
 ゆっくりと、窓へ向けて足を踏み出す。カーテンを掴むと静かに開け、外を覗き込んだ。見下ろした視線の先に人影を見つけ、それを確認しようとした。
 人影はゆっくりと顔を上げ、天弥を見上げる。その姿に、放課後に見かけた女性だと理解する。
 窓の外を見つめる天弥の表情が変わった。すぐに窓に背を向け、部屋の外へと向かう。部屋を出ると真っ直ぐに玄関へ足を向けた。
 外へ出ると、まだ少し肌寒い空気が身体を取り巻く。すぐに、部屋を見上げる人影を見つけ、その足を止めた。
「こんばんは」
 天弥の声に驚き、目の前の女性は視線を声がした方へ恐る恐る向ける。
「僕に何か用事でもありますか?」
 目の前の妖美な姿に、女性は恐怖を感じその場で立ちすくむ。天弥は構わず足を踏み出し、女性へと近づいた。
「あなた……何?」
 震える声で、女性が尋ねる。その様子に、天弥は面白そうに笑みを浮かべる。
「出来損ないの貴女には解りませんか? 北河絢子さん」
 名を呼ばれ、絢子は思わず後退る。構わず天弥はその距離を縮めていく。
「いえ、北河絢子さんだったもの、といった方が正確ですね」
 絢子の背中が塀にぶつかり、その動きが止まる。
「あなた……怖い……何なの……?」
 恐怖を浮かべながら震える絢子に向かって天弥は手を伸ばし、その肩を押さえつけた。
「貴女が知りたいのは、僕の正体ですか?」
 すぐ間近で妖艶な美貌が、艶冶な笑みを浮かべる。
「それとも、別の何かですか?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

このつまらない世界に風穴を

阿波野治
ホラー
この世界はつまるところ、つまらない。そんな世界でミクは希望を見出だした。

剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―

三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】 明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。 維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。 密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。 武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。 ※エブリスタでも連載中

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...