apocalypsis

さくら

文字の大きさ
上 下
26 / 236
veritas liberabit vos

viginti sex

しおりを挟む
 天弥らしいと言えばらしいが、なぜ今更そんな事を気にするのかと考える。天弥が望んだ関係を、斎自身も望んだ。その時から二人の関係は恋人だと思っていた。神楽との事といい、自分は天弥の恋人ではなかったのかと、少し苛立ちを覚えた。
「俺は女が好きだ」
 少しやけくそ気味に斎が答える。
「そう、ですよね……」
 天弥の声が、力なく響いた。斎が男を好きだというなら、期待は出来ると思った。だが、やはりそれは無理な事だったと、込み上げてくる涙を堪える。
 斎に想いを告げたが、答えはなかった。それは仕方がない事だと思ったが、抱きしめられキスをされる度に、淡い期待を抱いてしまう。
「ごめんなさい……」
 堪えていた涙が瞳から溢れ出し、何度も謝罪の言葉を紡ぐ。
「天弥?」
 斎は、泣きながら謝罪を繰り返す天弥の顔を、無理やり自分へと向けた。涙で滲む斎の姿を天弥はジッと見つめる。
 斎があの本を欲していることは、すぐに分かった。自分にとっては何の価値もないものであったが、本を手にしている限り斎は傍に居てくれると考えたのだ。そして想いを告げ、無理やり斎を自分に縛り付けたのだ。天弥の心は、斎への申し訳なさで押しつぶされそうになる。
 斎の指が、次々と溢れてくる天弥の涙を拭う。先ほどから天弥は、自分が男であることを気にしている。それが、この涙と謝罪の理由なのだろうかと考える。
「泣くな」
 メガネを外すと、泣き続ける天弥と唇を重ねた。少しためらいがちに、天弥は斎を受け入れる。斎が本のために自分を受け入れたのだとしても、この腕の中で唇を重ねる喜びに逆らう事が出来なかった。少しずつ、天弥は自ら斎を求め出す。気がつけば、自分でも驚くほど斎に惹かれていた。そして想いを抑える事が出来ず、何よりも、誰よりも、斎が欲しいと思った。
 唇が離れると、斎は強く天弥を抱きしめる。
「男とか女とか関係なく、俺は天弥のことが好きだ」
 耳元で囁かれた斎の告白に、天弥の治まり掛けていた涙が再びあふれ出す。
「泣くなって言っただろ」
 斎は零れ落ちる天弥の涙を拭う。
「好きです」
 想いを伝えはしたが、はっきりと口には出来なかった言葉を斎に告げる。
「僕、先生が好きです」
 たとえ、本を手に入れるためであったとしても斎の言葉はとても嬉しく、感情を揺さぶり切なく胸を締め付けるものであった。
「そういえば、ちゃんと言ってなかったな」
 強く天弥を抱きしめ、斎はその耳元に唇を寄せた。
「天弥、お前が好きだ」
 然るべき返事をしなかった事に対して不安を抱いていたのだと、先ほどの天弥の言動をそう解釈した。
 斎の声と言葉が甘く耳に響き、驚きの表情を斎に向けた。その言葉が嘘でも構わないと思い、斎の身体に強く抱きついた。斎はすぐに再び唇を重ね、今度は激しく天弥を求めだす。天弥は必死でそれに応えようとするが、斎を受け入れるだけで精一杯であり、応える余裕などなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―

三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】 明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。 維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。 密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。 武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。 ※エブリスタでも連載中

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...