婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

エピローグ

―――ここはとある地方都市。
今日も立ち並ぶビルディングの隙間を大勢の人が闊歩し、通りには自動車がひっきりなしに行きかう。
しかし、そんな中の一角にあるスペースには青々とした芝生やベンチが整備され、さながら都会のオアシスといった風情をかもし出していた。
人々がひと時の休息や軽食を取りに立ち寄るそこには、2mほどの石碑が存在感を放っていた。今からもう数百年前に建てられた石碑であるが、そこにはこんな文章が刻まれている。

【マーリン＝ジューク邸跡地】
1○××年、植物学者であるマーリンは、師であるノワール伯爵と共に、バラ科の一種である花のツルから人間の消化器系の疾患を劇的に改善する成分を発見した。その研究成果は時の国王に認められ、薬として実用化に至り、当時多くの人を救うことになる。
今日の薬物学の発展に多大なる功績を残した彼であるが、その裏には妻であるセシーヌ＝ジュークの並々ならぬ尽力があったことを知る者は少ない。
セシーヌは夫であるマーリンの側を片時も離れることなく、自身も薬学の知識を身に付けて身辺の世話から仕事まで献身的にサポートをした。
晩年まで寄り添い、おしどり夫婦として評判だったジューク夫妻がかつて暮らしたこの地には夫婦円満の願掛けのため若いカップルが訪れるなど、街の名所となっている。