婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー

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そう、いつも不安だらけで、弱い。ヴァン教授の誘いにうっかり心が動かされかけるほどに。

「諦めてしまおうかとも思いましたよ。その前にあなたから理不尽に婚約破棄されていましたし、一瞬本当に無視して実家に帰ろうかとも思ったんです。でも、できなかった。今まであなたのために精一杯尽くしてきた、その日々は私にとって大事なものなんです。それに、それに・・・・・・っ、もっともっと薬用の植物の研究をして、病気に苦しんでいるたくさんの人たちを救うんだって、そう語っていたあなたの夢を・・・・・・、本気でそばで応援したいと思っていたからです!あなたのそばに、ずっといたいと思っていたからです!」
「・・・・・・」
マーリンが、何か言おうとするように数回口をぱくぱくさせました。が、結局言葉になることはなかったようです。
「私ねえ、何か一つのことが長続きしたことないんですよ、昔から」

酸素不足の頭で必死に考えます。どうしたら伝わるんだろう、どうしたら私の心に一番近い気持ちを表せるんだろうと。

「別にそれで何か不自由したとかないんですけど、あなたと出会って・・・・・・、価値観が覆されました。研究に没頭するあなたの姿はとても輝いていた。そこに、私にないものを感じたのです。すごくすごく、誠実だなって。何か一つのことに全力で取り組んでるの、素敵だなって・・・・・・。そう思ったんです」

ヴァン教授との会話で改めて気がつきました。
私には何か物事を継続してやり遂げたり、打ち込んだりという力がありません。飽きっぽいし、すぐに成果が出るものでないとすぐ放り出してしまいます。でも、心の底では、自分と反対の人間に憧れていたのかもしれません。
夜遅くまで、誰にも応援されなくても、孤独だったとしても一心不乱に研究に没頭するマーリンが、とても誠実に見えたのです。

「置いていかれないよう、追いかけていたのは私のほうです。あなたがあまりにも純粋で、健気だから、婚約前は不安にもなりました。私、ついていけるかなって。いつかあなたが私のだらしなさに気づいて、捨てられないかなって。研究室であなたの実験を見ていたとき、そんなことばかり考えてました。でも、あなたの近くにいたいという気持ちが勝ったんです」
マーリンは、絶句しているようにも見えました。でも怒りとか悲しみといった感情の気配は感じ取れません。

ならば、今です。
すう、はあ、と。自分を元気付けるように、私は息をしました。

祖母の言葉が頭で反響します。

『どんなに心の中で相手を大切に想っていたとしても、言葉に出さないと相手には伝わらない』

心細さが過去最大です。胸の辺りをぎゅっと握ると、心臓が早鐘のようにバクバク鳴っているのが分かりました。まさに決死の覚悟でした。

「貴方が、大好きになったから」

ちゃんと言えました。聞こえたはずです。マーリンは驚愕の顔で固まっていました。私たちはとうとう倉庫を目前にして足を止めていました。

「その気持ちは今でも変わっておりません」
向かい合って、真正面から彼に語りかけます。
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