29 / 33
29
しおりを挟む
・・・・・・。
えー。
結論から申し上げます。
職員の方が、私たちを案内する倉庫を取り違えておりました。
やはり、現在国際学会の真っ只中であるセンチェール地方には、一般の郵便物は配送を止められていたのです。閉会後にまとめて郵送されるため、期間中に投函された荷物は一箇所に保管されます。
小さい街とはいえローレルとセンチェール地方行きの荷物を合わせたらあれくらいの量になるのだな、なんて思っていたのですが、なんのことはない。
通常はローレル地方とセンチェール地方宛ての荷物をまとめて保管しているコンテナ。そこへ、実に数日分のセンチェール宛の荷物が全て集結していたのでした。
「そりゃあれだけの量になりますわな!!」
途方もない脱力感に見舞われて、マーリンと二人へなへなと崩れ落ちそうに・・・・・・、なっている場合ではありません。
「じゃあローレル地方宛の荷物は!?」
「どうなってるんです!?」
せっつく私たちに、職員の方はふてくされたような態度で言いました。
「少し離れた倉庫に保管してございます。本日分のローレル地方宛の配送物はそこまでの量はありませんから、すぐ確認はできるかと」
じゃあ早く鍵をよこせ~~~!!・・・・・・と言いたいのをぐっと堪えて、私とマーリンは結構鬼気迫る表情で倉庫の解錠手続きを待ちます。視界の端に、ほくそ笑みながらこちらを見ているヴァン教授がチラリと映りました。なんだかんだ、この職員たち相手にここまで要求を通せたのはこの人のおかげなのでした。結局力を借りることになってしまって誠に遺憾であるといったところですが、いつかこのお返しはさせてもらいます。
(その前に、私にはやることがたくさんあるんだから・・・・・・)
差し出された鍵をひったくるように受け取ると、私たちは三たび港の奥に向かって走り出します。まだまだ夜の帳は下りていましたが、着実に夜明けが近づいてきているはずです。
全速力で走りました。まるでお互いに追い越されまいとしているかのように、私たちは走って走って走ってそして・・・・・・。
覚悟を決めてマーリンの方をちらりと見ます。驚いたことに、ほぼ同じタイミングで彼もまた私のほうを見るのです。
「あ、あのっ・・・・・・」
「船に乗らなくて正解だったな!」
言いかけた私の言葉は、張り上げたマーリンの声によってかき消されてしまいました。
「えっ?」
「感謝する。お前が国際学会のことを思い当たらずに船に積まれた貨物の中を探していたら、いつまでも見つからずに朝を迎えていたところだった」
「は、はい・・・・・・」
息が弾み、まともに返事もままなりません。ですが・・・・・・。
「セシーヌ!ここまで来てくれてありがとう、僕は明日、・・・・・・いや、もう今日か?今日のプレゼンを終えたら、しばらく一人で頭を冷やすことにする。お前には迷惑かけたが、ゆっくり実家に帰って休養を・・・・・・」
今からでも、遅くないでしょうか。
「マーリン!」
突然の大声に、マーリンは虚を突かれたようでした。
「なんだ・・・・・・?」
「はあっ、マーリ、ン・・・・・・、はああっ・・・・・・」
職員の方に教えられた倉庫が、もうすぐそこにちらちらと見えてきていました。あと、あと、・・・・・・少し。
「私はっ、強くなどありません!一人で前を向いて歩いていけることもないし、迷ってばっかりです!」
「へ?」
私の足が限界を訴えておりました。思うように前に進みません。そもそも大人は普通全速力で駆けることなどありません。
「あなたっ、さっき・・・・・・、言ってたでしょう。私があなたを置いて行ってるような気がするって。あなたと違って私が輝いてるとかっ・・・・・・」
私は完全に息が上がりよたよたと両脚を動かすことしかできなくなってきていました。
「い、言った、けどっ・・・・・・。はあっ、はあ・・・・・・」
普段から研究室にこもりきりのマーリンなんてなおさらです。結局いつしか私たちは、二人並んでぜーはー言いながら船着場をのろのろと移動しておりました。
「私はいつも不安だらけ。自分に自信なんてないですよ。あなたから書類を送ってしまったと聞いたときも、どんなに動揺したか。正直、もう終わりなんじゃないかって強く思いました」
「嘘だろ・・・・・・」
「嘘じゃない!」
彼を一蹴して、私は語りつづけます。
えー。
結論から申し上げます。
職員の方が、私たちを案内する倉庫を取り違えておりました。
やはり、現在国際学会の真っ只中であるセンチェール地方には、一般の郵便物は配送を止められていたのです。閉会後にまとめて郵送されるため、期間中に投函された荷物は一箇所に保管されます。
小さい街とはいえローレルとセンチェール地方行きの荷物を合わせたらあれくらいの量になるのだな、なんて思っていたのですが、なんのことはない。
通常はローレル地方とセンチェール地方宛ての荷物をまとめて保管しているコンテナ。そこへ、実に数日分のセンチェール宛の荷物が全て集結していたのでした。
「そりゃあれだけの量になりますわな!!」
途方もない脱力感に見舞われて、マーリンと二人へなへなと崩れ落ちそうに・・・・・・、なっている場合ではありません。
「じゃあローレル地方宛の荷物は!?」
「どうなってるんです!?」
せっつく私たちに、職員の方はふてくされたような態度で言いました。
「少し離れた倉庫に保管してございます。本日分のローレル地方宛の配送物はそこまでの量はありませんから、すぐ確認はできるかと」
じゃあ早く鍵をよこせ~~~!!・・・・・・と言いたいのをぐっと堪えて、私とマーリンは結構鬼気迫る表情で倉庫の解錠手続きを待ちます。視界の端に、ほくそ笑みながらこちらを見ているヴァン教授がチラリと映りました。なんだかんだ、この職員たち相手にここまで要求を通せたのはこの人のおかげなのでした。結局力を借りることになってしまって誠に遺憾であるといったところですが、いつかこのお返しはさせてもらいます。
(その前に、私にはやることがたくさんあるんだから・・・・・・)
差し出された鍵をひったくるように受け取ると、私たちは三たび港の奥に向かって走り出します。まだまだ夜の帳は下りていましたが、着実に夜明けが近づいてきているはずです。
全速力で走りました。まるでお互いに追い越されまいとしているかのように、私たちは走って走って走ってそして・・・・・・。
覚悟を決めてマーリンの方をちらりと見ます。驚いたことに、ほぼ同じタイミングで彼もまた私のほうを見るのです。
「あ、あのっ・・・・・・」
「船に乗らなくて正解だったな!」
言いかけた私の言葉は、張り上げたマーリンの声によってかき消されてしまいました。
「えっ?」
「感謝する。お前が国際学会のことを思い当たらずに船に積まれた貨物の中を探していたら、いつまでも見つからずに朝を迎えていたところだった」
「は、はい・・・・・・」
息が弾み、まともに返事もままなりません。ですが・・・・・・。
「セシーヌ!ここまで来てくれてありがとう、僕は明日、・・・・・・いや、もう今日か?今日のプレゼンを終えたら、しばらく一人で頭を冷やすことにする。お前には迷惑かけたが、ゆっくり実家に帰って休養を・・・・・・」
今からでも、遅くないでしょうか。
「マーリン!」
突然の大声に、マーリンは虚を突かれたようでした。
「なんだ・・・・・・?」
「はあっ、マーリ、ン・・・・・・、はああっ・・・・・・」
職員の方に教えられた倉庫が、もうすぐそこにちらちらと見えてきていました。あと、あと、・・・・・・少し。
「私はっ、強くなどありません!一人で前を向いて歩いていけることもないし、迷ってばっかりです!」
「へ?」
私の足が限界を訴えておりました。思うように前に進みません。そもそも大人は普通全速力で駆けることなどありません。
「あなたっ、さっき・・・・・・、言ってたでしょう。私があなたを置いて行ってるような気がするって。あなたと違って私が輝いてるとかっ・・・・・・」
私は完全に息が上がりよたよたと両脚を動かすことしかできなくなってきていました。
「い、言った、けどっ・・・・・・。はあっ、はあ・・・・・・」
普段から研究室にこもりきりのマーリンなんてなおさらです。結局いつしか私たちは、二人並んでぜーはー言いながら船着場をのろのろと移動しておりました。
「私はいつも不安だらけ。自分に自信なんてないですよ。あなたから書類を送ってしまったと聞いたときも、どんなに動揺したか。正直、もう終わりなんじゃないかって強く思いました」
「嘘だろ・・・・・・」
「嘘じゃない!」
彼を一蹴して、私は語りつづけます。
128
お気に入りに追加
463
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。

正当な権利ですので。
しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。
18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。
2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。
遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。
再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?
しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。
そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。
第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。
周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

王太子殿下と婚約しないために。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ベルーナは、地位と容姿には恵まれたが病弱で泣き虫な令嬢。
王太子殿下の婚約者候補になってはいるが、相応しくないと思われている。
なんとか辞退したいのに、王太子殿下が許してくれない。
王太子殿下の婚約者になんてなりたくないベルーナが候補から外れるために嘘をつくお話です。

貧乏伯爵令嬢は従姉に代わって公爵令嬢として結婚します。
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ソレーユは伯父であるタフレット公爵の温情により、公爵家から学園に通っていた。
ソレーユは結婚を諦めて王宮で侍女になるために学園を卒業することは必須であった。
同い年の従姉であるローザリンデは、王宮で侍女になるよりも公爵家に嫁ぐ自分の侍女になればいいと嫌がらせのように侍女の仕事を与えようとする。
しかし、家族や人前では従妹に優しい令嬢を演じているため、横暴なことはしてこなかった。
だが、侍女になるつもりのソレーユに王太子の側妃になる話が上がったことを知ったローザリンデは自分よりも上の立場になるソレーユが許せなくて。
立場を入れ替えようと画策したローザリンデよりソレーユの方が幸せになるお話です。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。
しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。
幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。
その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。
実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。
やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。
妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。
絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。
なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる