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けれど、そんなものを望んでない、というのは自分の心からの本音だと確信できたのです。
(でも、じゃあ、何を望んでいるんだろう)
何を望んで私はマーリンと一緒にいたんだっけ。
もう当たり前すぎて。マーリンが隣にいるのが。初めに彼に対して抱いていた気持ちを、忘れかけていました。思い出す必要もないくらいになっていました。
けれど、今そんな関係が壊れようとしています。
ヴァン教授はふふっと不敵な笑みを浮かべています。
「純粋で健気な子だね、セシーヌさん。だからこそ私は惹かれてしまったわけだが・・・・・・。分かった、今回のところは諦めるとしよう。ああ、安心してくれ。これを逆恨みして君とマーリン君の不利益になるようなことをしたりはしないから。ほら、職員の方が鍵を持ってきてくれたようだよ。船に入りたまえ」
見ると、裏の部屋から先ほどの職員の方が鍵を持ってこちらにやってくるのが見えます。そして、トイレから戻ってきたマーリンが飲み物を持って帰ってくるのも。
「・・・・・・」
私は一瞬まばたきもせずに、その二つの光景を交互に見ました。次の瞬間私が取った行動は、後から考えるととても愚かなものだったと思います。取り返しのつかない事態になる可能性だってあったのに。
私はばっと立ち上がり、変わらず目の前で静かに笑っているヴァン教授に向かってこう言いました。
「すみません!そのー、・・・・・・やっぱり助けていただかなくて結構です!自分たちで何とかします!」
ヴァン教授は、少し目を見開いて眉を上げて見せましたが、若干わざとらしい仕草にも見えました。まあどちらでもいいことです。
「ほう、そうか。大丈夫か?」
その問いには目を反らしながら答えます。
「ええ。大丈夫です。・・・・・・それから、私を純粋で健気と言ってくださいましたが、それは私を買いかぶりすぎですよ。そんなもの、持ち合わせた覚えはありません」
―――あなたと一緒でね、・・・・・・と付け加えそうになった一言は、さすがに飲み込みました。
私はその場から駆け出し、こちらにやってきていたマーリンに走りより、その腕を取りました。
「え?なんだ?」
マーリンの表情から見るに、先ほどの私たちのやり取りには気づいていないようです。私は「いいから、ちょっとこっち来てください!」と叫んで、そのまま引きずるようにすぐそばにあった出入り口から外に出ました。
「おっ、おおおい!ちょっと!?」
戸惑うマーリンと二人、私は再び真っ暗な夜の港に飛び出たのでした。
(でも、じゃあ、何を望んでいるんだろう)
何を望んで私はマーリンと一緒にいたんだっけ。
もう当たり前すぎて。マーリンが隣にいるのが。初めに彼に対して抱いていた気持ちを、忘れかけていました。思い出す必要もないくらいになっていました。
けれど、今そんな関係が壊れようとしています。
ヴァン教授はふふっと不敵な笑みを浮かべています。
「純粋で健気な子だね、セシーヌさん。だからこそ私は惹かれてしまったわけだが・・・・・・。分かった、今回のところは諦めるとしよう。ああ、安心してくれ。これを逆恨みして君とマーリン君の不利益になるようなことをしたりはしないから。ほら、職員の方が鍵を持ってきてくれたようだよ。船に入りたまえ」
見ると、裏の部屋から先ほどの職員の方が鍵を持ってこちらにやってくるのが見えます。そして、トイレから戻ってきたマーリンが飲み物を持って帰ってくるのも。
「・・・・・・」
私は一瞬まばたきもせずに、その二つの光景を交互に見ました。次の瞬間私が取った行動は、後から考えるととても愚かなものだったと思います。取り返しのつかない事態になる可能性だってあったのに。
私はばっと立ち上がり、変わらず目の前で静かに笑っているヴァン教授に向かってこう言いました。
「すみません!そのー、・・・・・・やっぱり助けていただかなくて結構です!自分たちで何とかします!」
ヴァン教授は、少し目を見開いて眉を上げて見せましたが、若干わざとらしい仕草にも見えました。まあどちらでもいいことです。
「ほう、そうか。大丈夫か?」
その問いには目を反らしながら答えます。
「ええ。大丈夫です。・・・・・・それから、私を純粋で健気と言ってくださいましたが、それは私を買いかぶりすぎですよ。そんなもの、持ち合わせた覚えはありません」
―――あなたと一緒でね、・・・・・・と付け加えそうになった一言は、さすがに飲み込みました。
私はその場から駆け出し、こちらにやってきていたマーリンに走りより、その腕を取りました。
「え?なんだ?」
マーリンの表情から見るに、先ほどの私たちのやり取りには気づいていないようです。私は「いいから、ちょっとこっち来てください!」と叫んで、そのまま引きずるようにすぐそばにあった出入り口から外に出ました。
「おっ、おおおい!ちょっと!?」
戸惑うマーリンと二人、私は再び真っ暗な夜の港に飛び出たのでした。
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