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「まあその・・・・・・、ちょっと色々ごたごたがありまして、はは・・・・・・」
思いっきり歯切れの悪い返答をする私に、教授は問いかけます。
「何かお困りのことがあったかね?」
「はあ、実は・・・・・・」
こんなことを話すのは本当に恥ずかしいのですが、私はたまった疲労もあって少し自棄になっていたのかもしれません。家を出る前に、マーリンから婚約破棄を言い渡されたくだりの出来事を、教授に全て話してしまいました。

「ははは、なるほどなるほど。マーリンくんは研究に対しては真摯だが、結構気が強いところがあると噂には聞いていたが・・・・・・。なかなか過激だな」
ヴァン教授はそう言って、困ったようにクスクス笑います。
「うう、その気が強い部分が家では存分に出ているのです」
私の頭上にどんよりとした雲が出ております。
「セシーヌさんになら甘えられると思っているのではないか?」
「けど、いくらなんでも限度というものがあるでしょう。いくら未来の結婚相手に気を許しているといっても、今後もこんなことがあったらと思うと・・・・・・」
私は改めて、深く深くため息をつくのでした。
「ちょっと、耐えられません・・・・・・」
「なるほどなあ・・・・・・」
そう零してヴァン教授は、僅かに俯いて何か考え込む様子を見せました。

「・・・・・・?」
その姿に、私は首を傾げます。しばしの沈黙のあと、ヴァン教授が口を開きました。
そして告げられたこの言葉に、私は目が点になります。

「どうだろう、セシーヌさん。私と交際してみる気はないかね」

「・・・・・・ふえ?」
何かの聞き間違いだと思ったのです。なので、思わず間抜けな声が出てしまいました。
硬直する私に、ヴァン教授は穏やかな口調で再度言います。
「マーリンくんと婚約破棄しかけているのだろう?だったら、試しにでもいいから私と交際してみないか。実は初めてお会いした時から君のことを好いている。もちろん結婚を前提にした真剣なものでも構わないけれど、私としてはとりあえず気が向いた時だけ会うようなカジュアルなお付き合いなんかどうかと思っているのだが。セシーヌさんとしてはどうかな?」
澱みない口調でそう言いきられ、私は硬直した姿勢から後ろにビッと数十センチのけぞります。

「いっ!?」
表情を引き攣らせる私に、ヴァン教授は気後れすることもなくこう続けました。

「君はもしかして私のことをただの枯れた男だと感じているかもしれない。しかし、こう言ってはなんだが、私は私自身のことを、君のように若いお嬢さん方が、自身の美しさや純粋さを引き換えに共に時間を過ごす存在としてふさわしい人間だと自負しているよ。なあに、生涯を添い遂げてほしいとは言わん。私は若く輝く女性のエネルギーをもらって刺激になるし、君のほうも私が長年かけて蓄えた諸々の知識や情報、コネクションを効率良く得ることができる。もちろん金銭的にも不自由はさせない。セシーヌさん、こないだのパーティーでの君の姿にすっかり惚れてしまったんだよ。甲斐甲斐しく料理を運んだり会場の手伝いをしたりする姿にね。てきぱきととても手際良く働くだけでなく終始にこやかで。まるで花のようだったよ。君のような賢く美しい女性とぜひ一緒にいたいんだ」
「いいいいいいい!!???」

私が二度も、およそ貴族出身の娘らしからぬ声を上げてしまったのも当然と言えましょう。お仕事中の港の職員の方たちはこの奇声を聞いてどう思っていたのでしょうね。


#作者より:すみません!そこそこ重要な伏線を張り忘れていました!20話目を少し修正していますのでよかったら今一度ご覧ください。今後気をつけます!#
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