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この方はヴァン教授。研究内容自体はマーリンと違うものの、薬用となる植物が専門分野なのは同じです。そういった縁で私も先日の交流会にお招きいただいていたのでした。コツコツと地道に仕事をする方で、これまでに多くの経歴や実績を重ね、同業者や学生さんからも厚い信頼を得ているとお聞きしています。
「ええ。おかげさまで」
私はにっこりと営業スマイルを浮かべました。
「こんなところでお会いするとは奇遇ですわね」
ヴァン教授は、被っていたハットの角度を片手で細かく直しながら言います。
「ああ全くだ。・・・・・・本当にこんなところで会うとは奇遇だね。私は今日一日センチェール地方で行われていた国際学会に参加していて、つい先ほど最終便でここに帰ってきたところだけれど」
「国際学会・・・・・・」
門外漢の私は、何やらお堅い言葉の登場に首を捻りました。
「ああそうだ。各国の名だたる研究員や、それに関わる財政会のお偉方もいらっしゃる大きなものだった。今年はセンチェール地方で開催されたんだよ」
いまいち想像できませんが、研究成果の発表会と交流会をかねた催し物のような感じでしょうか?私も結婚後はマーリンの仕事に関することにもっと詳しくならないといけませんね・・・・・・、と思ったところで。
(あ、そういえば婚約破棄されたんだった)
何とも言いようのないむなしさに襲われ、とりあえず無難そうな返答をしておくことにします。
「ああ!センチェール地方は小さな街ですが、自然に溢れてとても特色ある地方ですし、外国の方をお招きするには良い場所ですわね。そういえば、古くからよくそういった国際的な催し物が開かれていたような気がしますわ」
「はっはっは、その通り」と、ヴァン教授は人の良さそうな笑みを浮かべます。
「確か、15年ほど前の学会も同じセンチェールで開かれたんだよ。ひなびているけど、ちょっとしたリゾート気分も味わえて、いい場所だ」
思いだします。実家のすぐ横の地方であるセンチェールを私の父母も気に入っており、幼い頃はよく家族旅行に連れて行ってもらっていました。
「とても実りの多い会だったよ。マーリンくんもぜひ参加すればよかったのに・・・・・・、ああしかし君、明日は確か国王様に例の件で謁見をする予定ではなかったか?それがなんで今こんな場所に?」
「うぐっ・・・・・・」
ずばり聞かれ、マーリンが心臓発作でも起こしたかのような声を出します。
「・・・・・・本当のことを言うしかないでしょう。他になんて説明する気ですか?」
何かを必死に訴えているようなマーリンの視線に、私はイラついてため息をつきました。マーリンはしばらく青い顔で俯いていましたが・・・・・・。
「ううう、じ、実は・・・・・・」
やがてぽつぽつと事の経緯を話し出します。聞き終えたヴァン教授は、目を丸くして言いました。
「なんとまあ!俄かには信じがたいが、君、そりゃ本当かね」
「は、はい・・・・・・。お恥ずかしい限りです」
ごもっともな反応をされてしまいます。まったく、顔から火が出そう・・・・・・。
「ええ。おかげさまで」
私はにっこりと営業スマイルを浮かべました。
「こんなところでお会いするとは奇遇ですわね」
ヴァン教授は、被っていたハットの角度を片手で細かく直しながら言います。
「ああ全くだ。・・・・・・本当にこんなところで会うとは奇遇だね。私は今日一日センチェール地方で行われていた国際学会に参加していて、つい先ほど最終便でここに帰ってきたところだけれど」
「国際学会・・・・・・」
門外漢の私は、何やらお堅い言葉の登場に首を捻りました。
「ああそうだ。各国の名だたる研究員や、それに関わる財政会のお偉方もいらっしゃる大きなものだった。今年はセンチェール地方で開催されたんだよ」
いまいち想像できませんが、研究成果の発表会と交流会をかねた催し物のような感じでしょうか?私も結婚後はマーリンの仕事に関することにもっと詳しくならないといけませんね・・・・・・、と思ったところで。
(あ、そういえば婚約破棄されたんだった)
何とも言いようのないむなしさに襲われ、とりあえず無難そうな返答をしておくことにします。
「ああ!センチェール地方は小さな街ですが、自然に溢れてとても特色ある地方ですし、外国の方をお招きするには良い場所ですわね。そういえば、古くからよくそういった国際的な催し物が開かれていたような気がしますわ」
「はっはっは、その通り」と、ヴァン教授は人の良さそうな笑みを浮かべます。
「確か、15年ほど前の学会も同じセンチェールで開かれたんだよ。ひなびているけど、ちょっとしたリゾート気分も味わえて、いい場所だ」
思いだします。実家のすぐ横の地方であるセンチェールを私の父母も気に入っており、幼い頃はよく家族旅行に連れて行ってもらっていました。
「とても実りの多い会だったよ。マーリンくんもぜひ参加すればよかったのに・・・・・・、ああしかし君、明日は確か国王様に例の件で謁見をする予定ではなかったか?それがなんで今こんな場所に?」
「うぐっ・・・・・・」
ずばり聞かれ、マーリンが心臓発作でも起こしたかのような声を出します。
「・・・・・・本当のことを言うしかないでしょう。他になんて説明する気ですか?」
何かを必死に訴えているようなマーリンの視線に、私はイラついてため息をつきました。マーリンはしばらく青い顔で俯いていましたが・・・・・・。
「ううう、じ、実は・・・・・・」
やがてぽつぽつと事の経緯を話し出します。聞き終えたヴァン教授は、目を丸くして言いました。
「なんとまあ!俄かには信じがたいが、君、そりゃ本当かね」
「は、はい・・・・・・。お恥ずかしい限りです」
ごもっともな反応をされてしまいます。まったく、顔から火が出そう・・・・・・。
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