婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー

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拗ねているのでしょうか。それならば今までにも何度かありました。しかし、マーリンの言葉はまだ続きます。

「確かに出会ったばかりの頃、君のそういう強いところに惹かれたさ。他の貴族の娘たちと違ってすごく自立してるように見えた。僕もこんな人と一緒にいれば元気になれるし、一緒に、そのー、・・・・・・なんだ。まあ、一緒に成長しながら生きていけると思ったんだ。けどさ」

あまりにもストレートな言葉。彼がこんなことを言うのは、間違いなく今までで初めてです。私はつい呼吸するのも忘れその場に座っていました。
「けどさ・・・・・・。僕の方がいつも負担をかけてばかり。落ち込むよ。耐えられない。君は僕の隣でこんなに光り輝いているのに、僕は何もできてない。最近では君なんていなければなんて思うようになってしまった。心の中で勝手に比べて、君という眩い存在と、自分というどうしようもない存在がまざまざと浮かび上がる。耐えられない。本当に耐えられない」
「そんな・・・・・・」
マーリンが自分では到底抱えきれない闇を作り出してしまっていることは何となく分かりました。しかし、私はどうすればよいのでしょう。

「ずっと隣にいれると思ってた。なのに、お前は僕を置いていく。一人だけで。前を向いて。僕がいっつも研究のことで悩んだり、立ち止まったりしているのと全然違う。お前は強い」
「それは、・・・・・・違いますよ」
反射的に一言だけ出た私の言葉に、マーリンは「え?」と怪訝な表情をするだけです。正直、私もここから先何をどういう風に話そうかなんて決めていません。どうしましょう。時間が。時間が欲しいです。しかしこの状況。朝にはプレゼン資料を載せた貨物船が出航してしまいます。もうあと数時間しかないでしょう。のんびり喧嘩をしている場合ではないのです。

(でも、こんな状態のマーリンと一緒にこの先資料を探すなんてことできるのかしら。それに、もし無事に資料が見つかったとしても、このままだと一生仲たがいしたままになってしまうのではないでしょうか)
おかしな話です。ほんの数時間前までは婚約破棄とかいって大いにもめていたのに。逡巡する私の耳に、後ろから聞き馴染みのない声が飛び込んできました。

「マーリン?そこにいるのはマーリンじゃないか?」
その呼びかけに、マーリンが私の肩越しに驚いた顔を向けました。
「ヴァン教授!?な、なぜここに!?」
振り向いた私のすぐ後ろ。そこにはのっぽで小奇麗な壮年の男性がにこやかに立っていました。彼はきょとんとしたままの私の名を呼びます。
「おや、これはこれはセシーヌさんまで。うちの研究室の移転記念パーティー以来ですね。その後はお変わりないですか?」
その言葉で、私の記憶が静かに呼び起こされました。そういえば私はこの人に一度会った事があります。
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