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「・・・・・・しかしセシーヌ、どうもこの馬車は港とは違う方向に向かっているようだが?」
「おや、ばれてしまいましたか」
そろそろ目的地に着く頃です。私は膝の上でゴソゴソ降りる支度を始めました。
「ここから普通に港まで行くにはどうしてもあの大きな山をぐるりと回っていかなければならないでしょう?」
私は窓の外を指差します。そこには夜の帳に包まれ、静かにそびえ立つ黒い山がありました。実は港はあの山のちょうど逆側にあるのです。
「まあ、確かに・・・・・・」
「私たちは一分一秒でも早く港に着かねばなりません。しかし、今乗っているこの一般の馬車では山道を走るには大変心元ない・・・・・・。そこで」
素晴らしいタイミングで、馬車がキッと停まりました。
「山岳用の馬車をレンタル致します」
「こ、こんな時間にか?」
困惑するマーリンの声を背に、私は馬車を降りて御者に声をかけました。
「ご苦労様。こんな夜まで悪かったわね。今日はもう帰っていいわよ」
「おいセシーヌ。山岳用の馬車をレンタルするって、普通こんな夜間じゃ貸してもらえないだろう・・・・・・」
馬車から降り立ったマーリンが、私に駆け寄って言います。
「まあ・・・・・・、確かに一般的にはそうですね。暗い中を山岳用の馬車で走るというのはなかなかに乗り手の技術を必要とするものですから、一般的の業者は事故を恐れて夕方以降のレンタルをしたがらないものです」
私はそう応えながら、すたすたと目の前の『輸入家具卸株式会社』という看板が出ている建物の中に入っていきます。
「・・・・・・よかった、まだ灯りがついてる。ジョセフさんまだ帰ってなかったわ」
「ジョセフって誰だ?それにここ、家具屋か?なんでこんなところに来たんだ?」
「道の向かい側を御覧なさいマーリン。立派な厩があるでしょう。ここのご主人であるジョセフさんはかなりアグレッシブな方でね、ご自分で各地を回って御眼鏡にかなった家具のみを仕入れているのよ。時にはいくつも山を越えた遠くの国までご自分の馬車に乗って行かれるのだとか」
私は説明しながら二階の事務所に向かうべくトントンと階段を登ります。後ろからゼエゼエと息切れをさせながらマーリンが着いてきました。
「・・・・・・これしきの階段でもしんどいんですか?普段研究室にこもりすぎですよ、少しは運動をしなければ」
「うっ、うるさい・・・・・・。で、そ、そのジョセフとかいうのはもしやお前の客か」
一足先に二階に辿り着いた私はドアに手をかけながら彼を睨みます。
「その通り。お得意様なのだから、失礼のないように頼みますよ?」
手に力を込めると、扉が開いていくにつれて暗い廊下に細く光の筋が伸びていきます。
「・・・・・・ごめんくださーい」
「おや、ばれてしまいましたか」
そろそろ目的地に着く頃です。私は膝の上でゴソゴソ降りる支度を始めました。
「ここから普通に港まで行くにはどうしてもあの大きな山をぐるりと回っていかなければならないでしょう?」
私は窓の外を指差します。そこには夜の帳に包まれ、静かにそびえ立つ黒い山がありました。実は港はあの山のちょうど逆側にあるのです。
「まあ、確かに・・・・・・」
「私たちは一分一秒でも早く港に着かねばなりません。しかし、今乗っているこの一般の馬車では山道を走るには大変心元ない・・・・・・。そこで」
素晴らしいタイミングで、馬車がキッと停まりました。
「山岳用の馬車をレンタル致します」
「こ、こんな時間にか?」
困惑するマーリンの声を背に、私は馬車を降りて御者に声をかけました。
「ご苦労様。こんな夜まで悪かったわね。今日はもう帰っていいわよ」
「おいセシーヌ。山岳用の馬車をレンタルするって、普通こんな夜間じゃ貸してもらえないだろう・・・・・・」
馬車から降り立ったマーリンが、私に駆け寄って言います。
「まあ・・・・・・、確かに一般的にはそうですね。暗い中を山岳用の馬車で走るというのはなかなかに乗り手の技術を必要とするものですから、一般的の業者は事故を恐れて夕方以降のレンタルをしたがらないものです」
私はそう応えながら、すたすたと目の前の『輸入家具卸株式会社』という看板が出ている建物の中に入っていきます。
「・・・・・・よかった、まだ灯りがついてる。ジョセフさんまだ帰ってなかったわ」
「ジョセフって誰だ?それにここ、家具屋か?なんでこんなところに来たんだ?」
「道の向かい側を御覧なさいマーリン。立派な厩があるでしょう。ここのご主人であるジョセフさんはかなりアグレッシブな方でね、ご自分で各地を回って御眼鏡にかなった家具のみを仕入れているのよ。時にはいくつも山を越えた遠くの国までご自分の馬車に乗って行かれるのだとか」
私は説明しながら二階の事務所に向かうべくトントンと階段を登ります。後ろからゼエゼエと息切れをさせながらマーリンが着いてきました。
「・・・・・・これしきの階段でもしんどいんですか?普段研究室にこもりすぎですよ、少しは運動をしなければ」
「うっ、うるさい・・・・・・。で、そ、そのジョセフとかいうのはもしやお前の客か」
一足先に二階に辿り着いた私はドアに手をかけながら彼を睨みます。
「その通り。お得意様なのだから、失礼のないように頼みますよ?」
手に力を込めると、扉が開いていくにつれて暗い廊下に細く光の筋が伸びていきます。
「・・・・・・ごめんくださーい」
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