11 / 33
11
しおりを挟む
「マーリン、明日のプレゼンって何時からでしたっけ?」
「・・・・・・夕方の四時」
マーリンは力なく答えます。
「ふむ」
しばしの沈黙が私たちを包みました。職員の方がとても気まずそうな顔でこちらを見ています。私は頭の中で数秒間考えを巡らせ、そしてマーリンにこう問いかけました。
「ねえマーリン。もしも、もしもですよ。私のおかげで無事資料を取り戻し、時間通りに明日のプレゼンに間に合わせることができたとしたら、生涯私に無礼な口を聞かないと約束してもらえますか?」
マーリンがレベル100の怪訝な表情でこちらを向きます。
「何言ってる?そんな夢みたいな話をするな。現実的に考えて無理だ」
「もしもの話ですって。しかし、確かだと分かっていることも一つありますよ」
「なんだ、それは」
「それは・・・・・・」
私は手を伸ばして床に這いつくばっている婚約者の首根っこをぐいっと掴んで引っ張り上げます。マーリンが「キュウッ!」と罠にかかった小動物のような声を上げました。私は自らに気合を注入するように大声を出します。
「このままここで座り込んでいても仕方がないってことです!!」
そして、呆気に取られている職員の方に向かって確認をします。
「あの、ちょっとお聞きしたいんですが貨物船ってこの時間に既に出航してるってことはないですよね?」
「そ、そうですね・・・・・・。普通郵便を運ぶ船は大体朝と昼の出港になりますから、まだこちらの港に停まっているはずです。次の出航は明日の早朝ですね」
「ありがとうございます!」
「あの、お客様・・・・・・。まさか・・・・・・」
言いよどむ職員の方に続くように、マーリンが搾り出すような声で言います。
「無茶だセシーヌ、もう積み荷はしっかり船に積まれたあとだぞ。それにたくさんあるコンテナの中からどうやって目的の荷物を探すつもりだ」
「それは現地に着いてみなければ分かりません」
「・・・・・・どうしてそんな強気でいられるんだ、おかしいぞお前」
「うるさい!ヘタレ婚約者に代わって私がしっかりと心を持っていないとだめだって思ってるだけですっ、ほらしっかり立って、歩いてマーリン!」
マーリンの片腕を無理矢理引っ張ってぐいぐいと郵便局から連れ出していきます。後ろから彼が私の正気を疑うかのような言葉をガンガンに投げかけてきますが全て無視です。何せ時間がないですから立ち止まっているヒマはありません。
というか、私だって焦ってないわけないでしょうが、馬鹿っ!
「・・・・・・夕方の四時」
マーリンは力なく答えます。
「ふむ」
しばしの沈黙が私たちを包みました。職員の方がとても気まずそうな顔でこちらを見ています。私は頭の中で数秒間考えを巡らせ、そしてマーリンにこう問いかけました。
「ねえマーリン。もしも、もしもですよ。私のおかげで無事資料を取り戻し、時間通りに明日のプレゼンに間に合わせることができたとしたら、生涯私に無礼な口を聞かないと約束してもらえますか?」
マーリンがレベル100の怪訝な表情でこちらを向きます。
「何言ってる?そんな夢みたいな話をするな。現実的に考えて無理だ」
「もしもの話ですって。しかし、確かだと分かっていることも一つありますよ」
「なんだ、それは」
「それは・・・・・・」
私は手を伸ばして床に這いつくばっている婚約者の首根っこをぐいっと掴んで引っ張り上げます。マーリンが「キュウッ!」と罠にかかった小動物のような声を上げました。私は自らに気合を注入するように大声を出します。
「このままここで座り込んでいても仕方がないってことです!!」
そして、呆気に取られている職員の方に向かって確認をします。
「あの、ちょっとお聞きしたいんですが貨物船ってこの時間に既に出航してるってことはないですよね?」
「そ、そうですね・・・・・・。普通郵便を運ぶ船は大体朝と昼の出港になりますから、まだこちらの港に停まっているはずです。次の出航は明日の早朝ですね」
「ありがとうございます!」
「あの、お客様・・・・・・。まさか・・・・・・」
言いよどむ職員の方に続くように、マーリンが搾り出すような声で言います。
「無茶だセシーヌ、もう積み荷はしっかり船に積まれたあとだぞ。それにたくさんあるコンテナの中からどうやって目的の荷物を探すつもりだ」
「それは現地に着いてみなければ分かりません」
「・・・・・・どうしてそんな強気でいられるんだ、おかしいぞお前」
「うるさい!ヘタレ婚約者に代わって私がしっかりと心を持っていないとだめだって思ってるだけですっ、ほらしっかり立って、歩いてマーリン!」
マーリンの片腕を無理矢理引っ張ってぐいぐいと郵便局から連れ出していきます。後ろから彼が私の正気を疑うかのような言葉をガンガンに投げかけてきますが全て無視です。何せ時間がないですから立ち止まっているヒマはありません。
というか、私だって焦ってないわけないでしょうが、馬鹿っ!
213
お気に入りに追加
463
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
正当な権利ですので。
しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。
18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。
2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。
遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。
再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王太子殿下と婚約しないために。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ベルーナは、地位と容姿には恵まれたが病弱で泣き虫な令嬢。
王太子殿下の婚約者候補になってはいるが、相応しくないと思われている。
なんとか辞退したいのに、王太子殿下が許してくれない。
王太子殿下の婚約者になんてなりたくないベルーナが候補から外れるために嘘をつくお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貧乏伯爵令嬢は従姉に代わって公爵令嬢として結婚します。
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ソレーユは伯父であるタフレット公爵の温情により、公爵家から学園に通っていた。
ソレーユは結婚を諦めて王宮で侍女になるために学園を卒業することは必須であった。
同い年の従姉であるローザリンデは、王宮で侍女になるよりも公爵家に嫁ぐ自分の侍女になればいいと嫌がらせのように侍女の仕事を与えようとする。
しかし、家族や人前では従妹に優しい令嬢を演じているため、横暴なことはしてこなかった。
だが、侍女になるつもりのソレーユに王太子の側妃になる話が上がったことを知ったローザリンデは自分よりも上の立場になるソレーユが許せなくて。
立場を入れ替えようと画策したローザリンデよりソレーユの方が幸せになるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?
しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。
そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。
第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。
周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。
しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。
幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。
その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。
実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。
やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。
妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。
絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。
なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる