婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー

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「マーリン、明日のプレゼンって何時からでしたっけ?」
「・・・・・・夕方の四時」
マーリンは力なく答えます。
「ふむ」
しばしの沈黙が私たちを包みました。職員の方がとても気まずそうな顔でこちらを見ています。私は頭の中で数秒間考えを巡らせ、そしてマーリンにこう問いかけました。
「ねえマーリン。もしも、もしもですよ。私のおかげで無事資料を取り戻し、時間通りに明日のプレゼンに間に合わせることができたとしたら、生涯私に無礼な口を聞かないと約束してもらえますか?」

マーリンがレベル100の怪訝な表情でこちらを向きます。
「何言ってる?そんな夢みたいな話をするな。現実的に考えて無理だ」
「もしもの話ですって。しかし、確かだと分かっていることも一つありますよ」
「なんだ、それは」
「それは・・・・・・」
私は手を伸ばして床に這いつくばっている婚約者の首根っこをぐいっと掴んで引っ張り上げます。マーリンが「キュウッ!」と罠にかかった小動物のような声を上げました。私は自らに気合を注入するように大声を出します。

「このままここで座り込んでいても仕方がないってことです!!」

そして、呆気に取られている職員の方に向かって確認をします。
「あの、ちょっとお聞きしたいんですが貨物船ってこの時間に既に出航してるってことはないですよね?」
「そ、そうですね・・・・・・。普通郵便を運ぶ船は大体朝と昼の出港になりますから、まだこちらの港に停まっているはずです。次の出航は明日の早朝ですね」
「ありがとうございます!」
「あの、お客様・・・・・・。まさか・・・・・・」

言いよどむ職員の方に続くように、マーリンが搾り出すような声で言います。
「無茶だセシーヌ、もう積み荷はしっかり船に積まれたあとだぞ。それにたくさんあるコンテナの中からどうやって目的の荷物を探すつもりだ」
「それは現地に着いてみなければ分かりません」
「・・・・・・どうしてそんな強気でいられるんだ、おかしいぞお前」
「うるさい!ヘタレ婚約者に代わって私がしっかりと心を持っていないとだめだって思ってるだけですっ、ほらしっかり立って、歩いてマーリン!」
マーリンの片腕を無理矢理引っ張ってぐいぐいと郵便局から連れ出していきます。後ろから彼が私の正気を疑うかのような言葉をガンガンに投げかけてきますが全て無視です。何せ時間がないですから立ち止まっているヒマはありません。

というか、私だって焦ってないわけないでしょうが、馬鹿っ!
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