婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー

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ガタゴト、ガタゴト・・・・・・。
相変わらず重たい車輪の音が響いています。しかしそれは決して不快なものではなく、仕事に疲れた私の脳を優しく眠りにいざなってくれるような、そんな心地いい重みがあって・・・・・・。

―――セシ・・・・・・、シーヌ・・・・・・。
「ううん、むにゃむにゃ・・・・・・」
誰かが私を起こそうとしています。せっかく静かに眠っている私の世界の中へ入ってきて、私を揺り動かしています。

―――・・・・・・シーヌ、セシーヌ!
「うう~ん、あと5分、いや15分~・・・・・・」
「セシーヌ!何寝ぼけてるんだ!」
「ひゃっ!??」

乱暴な声に驚いて飛び起きると、目の前に不機嫌そうな表情のマーリンがおりました。
「ふえぇ・・・・・・?なんですかぁ?ふわぁぁ・・・・・・」
大あくびをしながら、そういえばここはマーリンの研究室ではないことを思い出します。私が今座っているのは暗くて固い馬車の座席の上なのでした。もちろん馬を駆っていけばより早く着くのですが、「こんな夜遅く馬に乗るなんて何か事故があったらどうする」とマーリンがごねたのと、私も私でこの疲れた身で片道一時間の旅程を乗馬でこなすのは無茶だと判断したため、こうして急遽馬車を出してもらったのでした。
「こんなガタゴトうるさい中でよく眠れるなまったく。ほら、郵便局に着いたぞ。降りて来い」
そう言って馬車を降りる彼のあとに、私もヨロヨロと続きます。およそ一時間ぶりの大地を踏みしめますが、私はまんじりともしない心持ちで、頭の中にもぼんやりとしたもやがかかっているままです。
「何ボーっとしてるんだ」
先を行こうとしていたマーリンが振り返って声をかけてきます。
「・・・・・・いえ。ちょっと」
頭を振って無理矢理現実に意識を戻し、急ぎ足で彼の横に並びました。
「懐かしい夢を見ていました」
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