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「・・・・・・まあ、あなたにできることは三つですよ」
虚ろな眼差しを向ける彼に、私は自分の顔の前にぐいっと三本指を突き出します。

「一、資料なしでも頑張って明日のプレゼンを乗り切る。二、人を雇うでもして人海戦術で資料を作り直す。三、・・・・・・」

そこで私はすうと息を吸うと、まっすぐな目で彼を見据えます。

「今から私に土下座して、これまでの無礼な行いを全て詫びた上でこれからは絶対に良き婚約者になると使用人も含めた皆の前で誓約し、私と二人で馬を駆って閉店間近の郵便局へ資料を取りに行く。・・・・・・さあどれですか?」

マーリンの顔が、爆発寸前かのようにわなわなと動きました。これまで婚約者として彼と一緒に過ごしてきた私には、まるで頭上に表示されているかのように爆発するまでの数字が見えます。

(3、2、1・・・・・・)
心の中のカウントがピッタリ0になったタイミングでマーリンが叫びました。
「図に乗るなああぁっっ!!!」
「図だけにね」
「貴様こういうときだからってなめた態度を取りやがって!許さないからなっ!なぜ僕そのような屈辱的な行為をせねばならんのだっ」
「ほおーう」
本当に救いようのない男です。
「詫びるだとっ!?僕が?お前に?しかも使用人の前でっ!絶対に嫌だからな!」
「かしこまりました。では私はあなたからの婚約破棄を受けいれ、明朝この屋敷を出ることにします。ああー、この屋敷で入る最後のお風呂かあ~、堪能しようっと」

私はそう言ってくるりと踵を返し、風呂場のほうへと移動します。が、歩いてすぐの曲がり角に入った死角の場所で立ち止まり待機をしておりました。じきに、マーリンの「うぐぐぐ・・・・・・」という小さな声が聞こえたかと思うと・・・・・・。
「うわああああっっ!セシーヌー!!待ってくれ、僕が、僕が悪かった!!」
その絶叫と共に、突進してきたマーリンがこちらに曲がってきて、私にぶつかりそうになります。もちろん待ち構えていた私はひらりと身をかわしましたが。
「どうわああっ!?」
上手く減速しきれなかったマーリンはつんのめってそのまますっ転びます。したたかにうちつけた臀部を涙目でさすっている彼に、私は頭上から言ってやりました。

「そう来ると思っておりました。さあ参りましょう!」
そのまま私は仕事用の服をバサリと脱ぎ捨て、自室にかろうじて残っていた運動用の簡易な服に素早く着替え、うまやへ向かうべく彼の襟元を引っ掴んで引きずっていきます。

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