上 下
220 / 224
最終章

第220話 戦勝パーティー

しおりを挟む
 連合軍が凱旋した数日後の夜······。

 パァーン! パァーン! ヒト族の王都内サンドリア城の大広間にてこの度の戦いの戦勝記念パーティーが催され、そのための花火が先ほど上げられたのだった。

 パーティーには連合軍として参加した者を始め、各種族の国王や代表者ならびにその家族や要人に、王都に住んでいる貴族やらその家族などが参加していた。そして先の戦いの感想を述べ合ったり交流を深め合ったりとパーティーを様々な目的の為に利用したのであった。

 当然戦いに参加したアッシュにアリスはもちろん、王女のジェシーに4大貴族の1つ、ローテン家のご令嬢であるメリッサもパーティーに参加していたのだが······。

 
「おっそいなぁ、レックスの奴」「ホントよねぇ」パーティーを楽しんだりせずに本来ここにいるべきもう1人の人物、レックスが来るのを待っていた。しかしいくら待ってもなかなかレックスは来なかった。

「本当にどうしたのかしら?」「そうですよねぇ······あっ!」ジェシーは何かを見掛けてそちらに駆けて行った。アッシュ達もジェシーの見掛けたものに気付いてそちらへ向かった。

 ジェシーはその見掛けた人物である「ジャック!」に声を掛けた。

「あぁ、ジェシー」「レックスは一緒じゃないの?」「あいつなら、このパーティーには来ないと思うよ」「ええっ!?」ジェシーは驚き「来ないって、どういう事だ? ジャック」アッシュがジャックに尋ねた。

「何度も誘ったんですけど頑なに行くのを拒みまして、どうしてか理由を聞いたら、『僕はあのパーティーに参加する資格が本来は無いから』って答えたんですよ」

 
 ジャックの説明を聞いてレックスの事情を知っている4人はハッとした。 

「あ、あの野郎ぅ」とアッシュが会場を飛び出してレックスを呼びに行こうとしたが、ガシッ! メリッサがアッシュの腕を掴んでそれを制止した。

「メリッサ」メリッサは首を振って「レックス君の気持ちも考えてあげましょ」とアッシュを諭した。

「······そうよね。レックスにとっては確かにこのパーティーは本来経験出来なかったはず何だから」とジェシーもメリッサに賛同し、「そう、ね。仕方ないか。ねぇ、お兄ちゃん」とアリスも同調したので「······分かったよ」アッシュも渋々了承したのだった。

 またその場で唯一事情の知らないジャックは首を傾げていたのだった。

 
 そこへ、「アッシュ君!」「あ、フィンラル様」フィンラル王がエルフ族の勇者フィリップとアレクを伴いアッシュ達の傍に寄って来た。

「アッシュ君。レックス君は?」「それが、どうもあいつこのパーティーには来ないみたいで」「そう、か」フィンラル王が残念がっていたので、「あの、どうかされたのですか?」とアッシュが尋ねたら、フィリップが説明をしてくれた。

「実は我々が魔王と戦っていた時、アレク殿が途中で魔王に殺されてしまったんだよ」「「な、何ですって!?」」

「ところが、アレク殿の体から世界樹の枝が出てきてそれが身代わりとなってアレク殿が生き返り、その後何とか魔王を倒す事が出来たんです」「「ええっ!?」」

「その事をフィンラル王にお伝えしたところ、世界樹の枝はレックス君が持っていたはずだと伺い、アレク殿にレックス君から渡してもらったのかと聞いたら、貰ってはいないと聞き彼に直接伺おうかと思いまして······」

 その説明を聞いて流石にアッシュ達も「ど、どういう事だ?」「確かに世界樹の枝はレックスが持っていた、はずなのに······」と困惑したのであった。

 
 その時、「それについては儂から説明するとしよう」とアッシュ達にとっては懐かしい声が聞こえてきたので、声の聞こえた方を振り返ったら「あ、あなたは」「「ハウル!」様!」がいたのだった。

「久しぶりじゃな」そう、アッシュにアリス、メリッサは運命の洞窟の水晶玉に映されたレックスを殺すかもしれない人物がマーシュからジャックに変わったとレックスから聞かされた時以来だし、ジェシーも3年の冬季休暇最終日にレックスと訪れた時以来の再会だった。

「お、お久しぶりです。ですが、どうしてハウル様が?」アッシュが伺うと、「実は先ほど儂も神からその事について説明を受けてのぉ。それでお主達に説明してくるようにと仰せつかったのじゃ」「か、神様から?」「そうじゃ」流石に神様と聞いてその場にいた者達は驚いた。

 
「さて、世界樹の枝じゃが。確かに元々はレックスが持っておったんじゃが、先の決戦前夜にあ奴が導きの玉によってある予知夢を見せられたのじゃ」「予知夢?」

「うむ。それが······」そこまで言ってハウルはアレクを見て「魔王との対決の折にアレク殿が魔王に殺されてしまうという光景じゃ」「「ええっ!?」」ハウルの話を聞いて全員が驚いた。

「しかもそれまでもレックスは何度も予知夢を見せられ、全てその通りに物事が起こっている事を経験しておったから今回も確実にそうなるのであろうと確信しておったのじゃ」「そ、そうだったんですか」

「それであ奴は真剣に考えたのじゃ。確実に訪れるのが分かっているアレク殿の死を回避させるために世界樹の枝をアレク殿に渡すか、その時点では訪れるかどうか分かってはいない、自らの味方の誰かに殺されるという誤った運命を確実に回避させるために自分で持っておくか、をな」

「「あっ!」」「「えっ?」」アッシュ達は納得した反応を示し、アレク達は驚いた反応を示した。

「考えた末、あ奴の選んだ答えは皆も知っての通りで、決戦が始まる前にアレク殿の持ち物に世界樹の枝を忍ばせたのじゃ。まぁ結果的にあ奴の誤った運命は無事回避され、アレク殿も魔王に殺されはしたが世界樹の枝によって生き返り、見事に魔王を討ち倒したという訳じゃ。これが、お主達の疑問に思っておった出来事の真相じゃよ」

 流石にハウルの説明を聞いて全員驚きすぎてすぐに反応出来なかった。

 
「よ、よく分かりましたがハウル、様?」真っ先にハウルに語り掛けたのはアレクだった。

「何ですかな? アレク殿」「先ほど仰りました、レックス君の誤った運命とは一体?」と当然の疑問をぶつけた。

「実はレックスが魔王軍との決戦に挑む事になったのは、あ奴の中では今回が2回目だったんじゃよ」「「な、何ですって!?」」

「お、おいハウル。良いのかバラして?」「良いんじゃよ。もう皆にバレたとて何の影響も無いのじゃからな」「ど、どういう事なんですか?」

 
 それからハウルはこれまで自分が直接見聞きしてきた事と、先ほど神から説明を受けた内容を合わせてレックスが前世から先の決戦までに経験してきた事を皆に話してやったのだった。

 その内容を聞いてこれまで色々レックスから教えてもらっていたはずのアッシュにアリスやメリッサにジェシー、さらにはフィンラル王に海人族の国王ならびにポピーさえも初めて聞いた内容もあったりして、全員が驚きの表情を浮かべて聞いていたのだった。

 暫くして、「······と、これがレックスが前の人生から先の決戦までにあ奴に起こり、経験してきた出来事という事じゃ」ハウルの説明が終わっても誰も何も言わず、微動だにしなかったのだった。

 そんな雰囲気を打ち消したのが「だ、だから自分にはこのパーティーに参加する資格が無いって言ってやがったのか、あいつ」というジャックの一言だった。

「そう言う事じゃな。何せ本来ならあ奴はこの時点では死んでおるはずなのじゃからな」それを聞いて全員が暗い雰囲気となってしまった。

「じゃからこそ、今はあ奴の事を話した後にこういうのも何じゃが、レックスの事は置いといてお主らだけでパーティーを楽しむべきじゃろう。それがレックスに対して感謝を伝える事にもなるじゃろうしのぉ」

 そうハウルが言ったのを聞いて、「確かにお前の言う通りだな。ここで暗い雰囲気になってしまった方がレックス君に対して申し訳ないよな。折角彼が色々苦労して我々に与えてくれた平和な世界なんだからな」とフィンラル王が言った。

 その言葉を皮切りに皆がその通りだなという雰囲気になりだし、改めてパーティーが仕切り直しとなったのだった。

 
 その皆の様子を見てハウルも笑顔になったのだった。そんなハウルに「ハウル様。色々教えて頂きましてありがとうございました」とアッシュがお礼を述べた。

 するとハウルは「何、本当に神から仰せつかった故に話したまでじゃからな。今頃レックスも神に感謝を伝えておるはずじゃろうしのぉ」と聞いてふとメリッサはある事が浮かび、ツンツン! とジェシーの肩をつついた。

 ジェシーが振り向くとメリッサはジェシーに耳打ちをして何かを伝えた。それを聞いてジェシーもあっ! という顔をしてメリッサを見た。

 そしてメリッサが首を縦に振るとジェシーは明るい表情となって同じく首を縦に振り、パーティー会場を出て行ったのだった······。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

ループn回目の妹は兄に成りすまし、貴族だらけの学園へ通うことになりました

gari
ファンタジー
────すべては未来を変えるため。  転生者である平民のルミエラは、一家離散→巻き戻りを繰り返していた。  心が折れかけのn回目の今回、新たな展開を迎える。それは、双子の兄ルミエールに成りすまして学園に通うことだった。  開き直って、これまでと違い学園生活を楽しもうと学園の研究会『奉仕活動研究会』への入会を決めたルミエラだが、この件がきっかけで次々と貴族たちの面倒ごとに巻き込まれていくことになる。  子爵家令嬢の友人との再会。初めて出会う、苦労人な侯爵家子息や気さくな伯爵家子息との交流。間接的に一家離散エンドに絡む第二王子殿下からの寵愛?など。  次々と襲いかかるフラグをなぎ倒し、平穏とはかけ離れた三か月間の学園生活を無事に乗り切り、今度こそバッドエンドを回避できるのか。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...