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第26章 決戦

第206話 勇者の帰還とお触れだし

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 ヴァンパイアバットのバットと任務をこなす事になってからというもの······特に問題なく、それどころか今まで以上に任務をこなせれるようになった。

 まずベアーズに捜索してもらってこれまで導きの玉を用いて探していたところはバットに入ってもらい、そして聖なる短剣で邪魔な瓦礫などを退かして見つけるという繰り返しとなったが、好奇心からかバットが頼む前に瓦礫などの中に入り込んで探索 (探検?)し、何かを発見した際にはベアーズに伝えているみたいで、その発見した何かが偶々探していた人や物であった事がよく発生し、その度に驚かされていた。

 そしてそれはその場に居合わせた騎士団員らも同じで、偶然1、2度現場に居合わせた兄ちゃんらにジャック達、またネールも驚いていたのだった······。


 そんなある日団長に命じられて数日遠方へ赴く事になり、僕が王都を旅立った後······何とアレクさん達が王都に帰還してきたのだった。アレクさんの腰にはあの聖剣が携えられて······。

 アレクさん達はそのままサンドリア城に赴き国王様に謁見したのだった。国王様らも少し前にある冒険者一行が聖剣を見つけたという報せを聞いており、すぐお会いになられた。

「そなたか、聖剣を探しだした冒険者と言うのは?」「はい。アレク・ロートスと申します」「うむ。してアレクよ、聖剣は?」「こちらでございます」

 そう言ってアレクは腰に帯刀していた聖剣を鞘から取り出し、国王様に差し出すように掲げたのだった。

「「おぉ!!」」それを見たその場に居合わせた者達からはどよめきの声が上がり、「あれぞまさしく、あの時ハウル様に見せて頂いた聖剣です、父上!」グレン王子が国王様に伝えた事で国王様も納得した。

「よくぞ聖剣を探しだした、アレクよ。約束通りそなたに"勇者"の称号を与える!」「(おぉ!)」先ほどより小さなどよめきの声が再びその場に響き上がった。

「ありがとうございます」「早速、その聖剣を携え魔王を······」「その事で国王様にお願いしたき事がございます」

「頼み、じゃと?」「はい。確かに結果的に聖剣を手に入れたのは私ですが、私一人だけでは間違いなく聖剣を手に入れる事は出来ませんでした」

「······それは、後ろに控えている者達の事を言っておるのか?」国王様は後ろに控えている3人の他種族の者達を眺めた。

「はい。彼らとは途中で知り合い、共に聖剣を手に入れるために旅をした"エルフ族のフィリップ"、"ドワーフ族のロック"、"亜人族のマーロン"でございます」アレクは他の3人の紹介をした。

「彼ら以外にも、多くの者達に助けられ聖剣を手に入れる事が出来ました」と言いつつアレクは導きの玉を渡してくれた時のレックスとのやり取りを思い出していた。

「そうした経験から、例え聖剣を手に入れたとしても、私や我々だけで魔王に挑んだとしても勝てる可能性は低いと思っておりました」それを聞いてその場にいた全員が暗い表情となった。

「ですが、我々と共に多くの者が魔王軍と戦って頂ければ、その隙に魔王の下に赴き奴を討ち倒せる可能性が高くなるかと思われます」「勇者殿達と共に······もしや、頼みと言うのは?」「はい······我々と共に魔王軍へ挑む有志を募るためのお触れを出して頂きたいのです」と伝えた。

「魔王軍へ挑む、有志を?」「はい。ヒト族、エルフ族、ドワーフ族、亜人族、そしてその他の少数種族、全ての種族の有志と共に魔王ならびに魔王軍に挑みたいと考えております!」アレクは自分達の考えを国王様に伝えたのだ。

 それを聞いて国王様は暫く黙り込んで考えた末、「あい分かった。その頼み、聞き入れよう」と答えた。

 それを聞いて4人とも明るい表情となって国王様を見つめた。そして「すぐに各地へ勇者一行と魔王軍へ挑む有志を募るお触れだしを出すとしよう!」と答えた。

「「ありがとうございます!」」「うむ」こうしてアレク達の国王様への謁見は終わった。

 
 その後お城を出たアレク達一行は、「何とか無事頼みを受け入れてもらえましたね」「ああ、そうだな」「それで、これからどうすんだ?」「取り敢えず宿を取って明日の朝エルフ領に向かうとして、それまでは自由行動にしよう」「「「賛成!」」」と宿を取った後は解散したのだった。

 そしてアレクはすぐに······騎士団本部を訪れた。本部の入口には交代で団員が見張り番をしており、その見張り番の団員にアレクはレックスの事を尋ねたが任務で王都を離れていると伝えられたのだった。

 その者達に事情を話したところ、レックスから話を聞いていた事もあってアレクに暫く待ってもらい、1人が団長へ報告しに向かった。そしてすぐに戻ってきて団長がお会いになりたいと伝えられアレクはその団員に付いて行った。

 そして団長室に案内され「初めまして。騎士団団長のパーシバル・クンツェンです」「アレク・ロートスです」とお互い挨拶を交わしあい、改めて団長からレックスが数日任務で遠方へ赴いている事を伝えられ、アレクもレックスから借りていた導きの玉を返しにきた事を団長に伝えたのだ。

「そうでしたか。わざわざお越し頂いたのに申し訳ありません。では私から彼に返しておきましょう」と提案を受けたが、「あの、団長さん。もし可能であれば私から直接彼に返したいのですが?」

「しかし、あなた方は明朝出発なされるはずですよね? 流石にそれまでに彼が帰ってくるのは難しいかと」「ですので、次に彼に会う時まで私が預かっておきたいのですが、構わないでしょうか?」と言われたので団長は少し考えた。

 そして「まぁ、大丈夫でしょう。今の彼はそれが無くても任務を行えていますし、その方が彼もきっと喜ぶでしょうから」「ありがとうございます!」とお礼を述べてアレクは騎士団本部を後にした。

 それからアレクはギルドに立ち寄って馴染みの冒険者らやアランと再会の挨拶を交わし、色々話して宿屋に戻り、翌朝エルフ族の王国へ向けて出発したのだった。僕が王都に戻ってきたのは、その日の夕方であった。

 
 早速団長に今回の任務の報告を行った後にアレクさんの事を教えてもらったのだった。

「えっ、アレクさん達が!」「あぁ。昨日王都に帰還して国王様に聖剣を手に入れた事を報告し、ここにも君に導きの玉を返すために立ち寄ったんだよ。直接返したいと言っていたんだが、彼らは今朝出発すると言ってて行き違いになると伝えたら、次に会う時まで自分が預かっておくと言われてね。今の君には無くても問題ないだろうと思って許したんだが、構わなかっただろう?」「はい。それは構いませんが······」まさか、もう聖剣を手に入れたなんて。

「まぁ次に彼に会ったら導きの玉を返してもらうといいよ」「はい。そう致します」と言って団長室を出た。

 そして、部屋に戻りながら(とにもかくにも、これで次の段階に進む事になるんだ)と思っていた。そう、多種族による連合軍結成に向けての有志を募るお触れだしの発令が······。

 
 まさにそう思っていた数日後、王都中心部の広場やウッド村の中心部、他の町や村などにお城からのお触れだしが掲げられたのだった。その内容というのが······。

      ーー魔王軍に挑む有志募集ーー
 勇者一行と共に魔王の下へ赴き、魔王軍と戦う勇気のある有志を募集する。

 応募条件は10歳以上のみ。その他の年齢、性別、立場、経歴一切不問。ただし、参加資格審査あり。
 我こそはと思う者は王都 (王都内のお触れだしにはお城)まで   サンドリア国王サンドリア21世

 というものであった。

 そのお触れだしは騎士団本部内の掲示物を掲示しておく場所にも貼られ(最後の○○までが団長までにと変更されて)、多くの人が興味をもってそのお触れだしを見ていたのであった。

 そのお触れだしが貼られた翌日の夜、僕達3人は一緒になってそのお触れだしの前に立った。

「いよいよ何だな、レックス」「うん。前の時と同じ内容だよ」「そうなんだ」

「あの時は1人でこのお知らせの事に気付いて、そのまま誰にも相談する事もなく当時の団長の下を訪れて応募の手続きを行ったんだ」「そうだったんだ」「けど、今回はそうはしないよな?」

 兄ちゃんがそう尋ねてきたので、後ろを振り返って「もちろん! 応募する時は今回は一緒にだよ!」と力強く答え、それに2人も笑顔で答えたのだった。

 
 そして翌日、僕達は3人で団長の下を訪れて応募の意思を伝えた。早速団長からそれぞれ書類を渡され、それを記入して提出したら正式に応募完了だと伝えられた。

 その後各自の部屋に戻り記入して団長に提出後、お姉ちゃんに伝えるために本部入口にて集まり3人で孤児院に向かった。

 孤児院に着いたが子供達が外には見当たらなかったので、授業中だと思い教会で待つ事にした。

 教会に入ったら神父様がいらっしゃったので、神父様にも有志の募集に3人で応募した事を伝えた。 

「そうですか。皆さんで応募を」「はい。僕がタイムリターナーをするきっかけとなった事態を回避させるために」「いよいよ何ですね。レックス君のタイムリターナーが成功したかどうかが判明するのが」「はい!」

「無事成功すると良いですね。私のように······」「必ず成功させて見せますよ。神様から与えて頂いた2度目の人生を生きてきた経験を無駄にしないために」

「そうですね。頑張ってきて下さい、皆さん」「「「はい!!」」」


 そう返事をしたところで子供達の声が聞こえてきた。
 
「どうやら授業が終わったみたいですね」そう言われて僕達は教会を出た。教会を出たところで子供達の後からお姉ちゃんが現れ僕達に気付いた。

 お姉ちゃんに僕達が訪れた目的を話して再び教会の中に入った。そして先ほど神父様に伝えた事をお姉ちゃんにも伝えた。

「そっか。皆で有志に応募したんだ」「うん」「あぁ」僕や兄ちゃんが返事をした後、お姉ちゃんはへ真っ先に声を掛けた。

「大丈夫? アリスちゃん」「えっ!?」「本当は緊張してるんじゃない?」と隣に座っていたアリスにそう尋ねた。

 アリスも、「······うん。正直言えばあのダークエルフとの戦いの前の時と同じで緊張はしているけど」「けど?」「やっぱり、子供の頃のように遠くで待ち続けているよりは決戦の場にレックスやお兄ちゃんと一緒に行って、私の出来る事をしながら2人の事を見ていたいって気持ちの方が大きいから」

「そうね。あの時も私の傍でしっかりと補佐をしてくれてたんだから、きっと今回も現地で頑張れるはずよ」「うん! ありがとう、お姉ちゃん」と笑顔でお姉ちゃんにお礼を言い、お姉ちゃんもそれに笑顔で返した。

 そんな2人の様子を見ていた僕達も心が和やかになった。そして僕は(本当にお姉ちゃんはやっぱり凄いや)と感心したのだ。

 本来ならさっきの神父様のように一番の当事者である僕か恋人の兄ちゃんに声を真っ先に掛けるところを、隣に座っていたからというわけではなく、恐らく本当に一番緊張していて、かつ蚊帳の外にいるように感じていたアリスに声を掛ける事で、緊張を解しつつ当事者の1人であると思わせる事が出来たんだから。

 さらにそれを見ていた僕や兄ちゃんの心も和やかにさせる事が出来て、正に女神様の生まれ変わりか女神様そのものだと改めて感じてしまった。

 
 その後お姉ちゃんは僕に「それでレックス君。この事ジェシーちゃんにはもう伝えてきたの?」と聞いてきた。

 あっ、確かに。「これから伝えに行くつもりです」「なら早く行ってあげた方が良いわよ。色々彼女も考えたり準備する事があるかもしれないから」

「そうだね。じゃあちょっと行ってくるよ」「おう」「行ってらっしゃい」と3人に見送られ、僕はジェシーの所へ応募した事を伝えに向かったのだった······。
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