上 下
156 / 224
第23章 卒業

第156話 みんなの課題

しおりを挟む
 ジェシーが卒業を決めた報告をしに来てからはお姉ちゃんと交替してジェシー(とベアーズ)が毎日お見舞いに来るようになった。その間にアリスやロースなど知り合いの多くが卒業試験を終えていた。そして······。

「ドクトリー先生、お世話になりました」「ああ。とはいえまだ安静にし続ける必要はあるからな」「分かっていますよ」「······見張り頼むぞ」とベアーズに言い、ベアーズも首を縦に振っていた。

「そんなに信用ありませんか?」「ない!!」「······」はっきり答えられたため、返す言葉がなかった。

「大丈夫ですよ、先生」「これからは私達も見張ってますから」と付き添いに来ていたジェシーとアリスが答えた。「それならまぁ安心か」「······」本当に返す言葉がなかった。こうして僕は診療所を退院した。


 ドクトリー先生から暫くは松葉杖を使うように言われたので素直に従って使いながら寄宿舎に向かっていた。

「そんなにも僕ってドクトリー先生から信用されてなかったのかぁ」「信用されてないって言うより、やっぱり卒業試験でそんなにも大ケガして戻って来た生徒が今までほとんどいなかったからじゃない。現にレックス以外誰もドクトリー先生のお世話にはなってないんだから」

「そうよレックス。私の事を思って早く終わらせないとって思ってくれたのは嬉しいけど、それでレックスがこんな大ケガをしたのなら逆に悲しい思いになるわよ」とアリスとジェシーに言われ、これまた返す言葉がなかった。

「そ、そういえば、2人はどんな卒業試験だったの?」と話を逸らす意味で2人に聞いた。


 まずアリスから「私は先生からまず街でサンドリービールの小瓶を買って渡された地図の場所まで運ぶように言われたの」「へぇ。どこまで運んだの?」

「それが、ドワーフ族のある村までだったのよ」「ドワーフ族の! それじゃあ随分行くまでも時間がかかったんじゃない?」とジェシーが尋ねた。

「うんジェシー。確か3日ぐらいかかったと思うわ」「3日も!? その間大変だったんじゃない?」「ううん。特に危険な道じゃなかったし、魔物も全然出て来なかったから問題はなかったわ」「そうなんだ」

「それでドワーフ族の村に着いて言われた人にそのサンドリービールと手紙を渡したの。そしたらその人から箱を渡されて、その箱と持ってきた手紙に何かを書いた後に戻されて、それを先生に渡すよう言われて戻って来たの」「それだけ?」「うん。ただ帰りは王都東方の高山地帯を通るようにって指示が地図に書かれていたの」

「東方の高山地帯を?」「うん。そこにはやっぱり魔物が何体かいたから、見つからないように注意して通り過ぎようとした時は大変だったわ」「へぇ」

「それで、学校に戻って来て先生に箱と手紙を渡したの。そこでようやく私の卒業試験が学校から村までと、村から学校までの日数が規定の日数以内で到着出来たか見る内容だったって教えてもらったの。騎士団に入団してから物資とかの補給活動をする事になった時を想定してって」

「そうか。確かに補給活動は日数も気にしなきゃならないだろうから」「うん。先生からもそう教えてもらったわ。で、どちらも規定の日数以内だったから卒業を認められたの」「そうだったんだ」

 アリスの説明が終わったところで「ジェシーはどんな内容だったの?」と尋ねた。


「私は襲ってくる魔物達から守るべきところを防衛するって課題で、亜人族領との境にある鉱山に向かうように言われたの」「そこって······」僕とアリスは目を合わせた。僕達が2年の時アリスのクラスと鉱石の発掘に行った場所だった。

「その鉱山の中にある亜人族領との境界部分が細い一本道になっていて、そこを通り過ぎようとする魔物を"50体"倒すように言われたの」「「50体!?」」あまりの数の多さに僕もアリスもとても驚いた。

「ご、50体はいくらなんでも」「私も最初は驚いたんだけど、先生が『最近亜人族領の魔物達が活発に動き出しているという噂が立っているんだ。恐らくヒト族の領土に侵入して来るとすればその道が使われる可能性が一番高いはずだ。だから数の心配は必要ないだろう』って仰ったの」

(っ! やっぱりそうなんだ)卒業試験で聖なる火山に向かっている最中にアレクさんと魔物達の相手をし、そんな話をしていた場面を思い返した。

「私も現地に行くまではやっぱり心配してたんだけど、着いて暫くしたら本当に多くの魔物達がその道を通ろうとしたのよ」「「うそっ!?」」それを聞いてまた2人して驚いた。

「だからそいつらを次々と倒していって結構早く終わらせることが出来たのよ」「そうだったんだ」

「でも、一人きりで心細かったり怖くなかったの?」(一人きり?)アリスがそう尋ねた際、僕は(たしかあの時······)入院してすぐにジェシーが病室に来た時の事を思い返していたらジェシーが、「ううん。一人じゃなかったわ」「えっ!? じゃあ誰と······」アリスが尋ねた。

「先生からその後に『あと、本当に50体倒したのかを証言してもらうのと、魔物を感知してもらうために彼が同意をしたならを借りて同行させることは許可する』って言われたの」「あいつって······あぁ」そこでアリスはベアーズを見下ろした。

「だからあの時ベアーズを貸してって」「そう。お陰で早く魔物を察知出来て倒す事が出来たのよ」

「そっか」「それで50体倒して学校に戻って先生に報告した時、この子が間違いなく50体倒したと証言してくれて合格となったのよ」

「へぇ。お前も随分頑張ったんだな」とベアーズを見た。ベアーズも僕の方を見て首を縦に振ってまた前を見た。

「ハハッ。ロースも魔人族領の洞窟へ魔物の討伐に行かされた内容で、結構苦労して終わらせたって言ってたし」「へぇ。そうだったんだ」「うん。そう言っていたわ」

 寄宿舎に向かいながら皆の卒業試験の話題で持ちきりだった。


「けど、一部の人達とはもうこれで会う事も無くなるんだよね」「うん。そうね」

 そう、養成学校を卒業したからといって全員が王国騎士団に入団するわけではないのは前から分かっていた(お姉ちゃんがそうであったように)。

 現に僕達の周りでも、ロースとエイミーは里に戻りロースはヨートス様の補佐をすると言っていたし、海人族のマールも故郷の海人族のお城で働き国王様やポピー王子のお役に立つように頑張ると言っていたから。それに······。

「ジェシーともこれまでのようには会えなくなるね」「うん。そうね」と言われてやはりジェシーは寂しい表情になった。

 そんな気分を紛らわせるかのように「ところでレックス。卒業してからベアーズはどうするの?」と聞いてきた。

(コイツかぁ)とベアーズを見下ろした。確かになぁ。

「以前マックス先生からも聞かれたんだけど、その後受けた騎士団からのクエストの折にパーシバル団長からはコイツも一緒に騎士団で活躍する事を期待しているって声を掛けられはしたけど、どうしたものか······」と答えた。

 するとジェシーは「ねぇレックス。なら私が飼うようにしても良いかしら?」「か、飼うって、ベアーズを!?」ジェシーからの突然の提案に僕は驚いた。

「うん。今回の卒業試験中が一番ベアーズとふたりっきりになれて話が通じたかは分からないけど、ベアーズに話し掛けた時の反応を見たりしてベアーズも私も一緒にいたいって気持ちは同じだって分かったから」そうなんだ、コイツめ。

「それに私がベアーズを飼うようにすれば、レックスや騎士団の人達が必要な時は私から簡単に借りる事が出来るし」「うん。けど国王様や周りの人達の意見は?」

「私の傷を治してくれた一番の功労者なんだから、反対する人なんていないわよ」「確かにそうかも。······じゃあ、そうするか?」とベアーズに聞いたら、首を縦に何度も振り続けた。

「お前そんなにもジェシーの傍に居たかったのか!」と聞いた途端首振りを止めて前を向き出した。「······あのなぁ」そこでジェシーとアリスに笑われたのだった。

 ということでベアーズは僕達が卒業したらジェシーに引き取られる事が決まり、多くの卒業後の進路などが決まっていった。

 そんな話をしているうちに、「ようやく見えてきた」懐かしの寄宿舎が見えてきたのだった······。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!

ree
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:848

虚弱なヤクザの駆け込み寺

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:963

おさがしの方は、誰でしょう?~心と髪色は、うつろいやすいのです~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:27

先日、あなたとは離婚しましたが?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:626pt お気に入り:705

乙女ゲームの主人公になったけど、やる気ゼロです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:342

超克の艦隊

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:5,674pt お気に入り:83

神の庭

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:11

処理中です...