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第19章 最終学年

第122話 孤独との戦い

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 今日もギルドに来て受付のレナさんから海人族からのAランククエストをもらった。しかもその依頼人は偶然にもアークさんからだった。早速アークさんの下を訪れた。
 
「おぉレックス。本当に海人族からの依頼を優先してるみたいだな」「えぇ、まぁ」「なら以前海クジラの骨を取りに行った島を覚えとるだろ? 実はな······」その島にしか生息していない全身が金色に輝いているゴールデンビートルという昆虫を捕まえてきて欲しいとの事だ。

「そいつも滅多に姿を見せる訳じゃあ無いからな。こっちも急ぎでいる訳じゃあないから、気長にやってくれて構わねぇから」「分かりました」と言ってアークさんの店を出た。

 そして街で島に何日でも滞在していられるように食料やら必要な物を買い揃えて島に向かった。 


 早速島を周回してみたが、虫1匹すら遭遇出来なかった。仕方なくその日は島で野宿する事にした。

 翌日早朝から島を探し回り、ようやく何匹かの昆虫を見掛ける事が出来たが、それらは依頼の虫では無かった。結局、その日もゴールデンビートルを捕まえる事は出来なかった。

 流石にその日野宿をしている時(あーあ、こんな時ベアーズが······)とまたベアーズに頼ろうとしてしまったため、(これじゃあダメだ!)と思い直したのだった。

 けれども翌日もそのまた翌日もゴールデンビートルを見掛ける事すら出来なかった······。

 流石にその日野宿をしながら、(やっぱり、1人じゃあ何も出来ないのかなぁ?)と気持ちが落ち込んでしまった。

(だけど、そう考えると村にいる時からこれまでホントに色んな人やモノ達の力を借りてきたんだなぁ)そう思った後横になりながらこれまでの様々な出来事を振り返った。


(初めてハイオークと遭遇した時にはベアーに助けてもらったし、トロルの襲撃は兄ちゃんとハウル様やヨートス様の力を借りて村の皆とで退治したんだし。ダークエルフの攻撃から兄ちゃんを助けた時やその後の休暇前の実技試験は1人でやり遂げたけど、その後の命の石を取りに行った時はお姉ちゃんに付いてきてもらったよなぁ。そして、冬季休暇前の試験からはベアーズに事ある毎に協力してもらったり助けてもらったっけ······ベアーズかぁ)

 ベアーズの事を思い返した時、マックス先生から言われたーーお前、いつまでベアーズと一緒にいるつもりでいるんだ~~いつまでも一緒にいるわけにはいかんだろ?ーーという言葉が頭をよぎった。

(確かにそうだよなぁ。騎士団に入団する時にどうなるか分からないし、一緒に入れたとしてもずっと一緒にってわけにもいかないだろうからなぁ。何せ······)そこで僕はベアーの姿を思い浮かべ、(あいつもいずれベアーぐらいの大きさまで成長するんだろうから······)とベアーズとの事を色々考えていた。


(それにもう1つ······)そこでハインリヒ先生が言っていたーー各組織に所属した時、何をしたいのか、どう活躍したいのかをよく考えーーという言葉を思い起こした。

(騎士団に入団してから何をしたいのか、かぁ······そうだよなぁ)

 前世では兄ちゃんに誘われたのがきっかけだったけど、僕自身も父さんや母さん達を殺したトロルを始めとした魔物達を倒したいと思ってたから騎士団に入団したいと思い、今回はあの決戦の場に赴くためいずれは騎士団に入団することになるんだったらと自分から養成学校に入学することにしたんだ。だから······。

(前世の時ほど騎士団に入ってからの事は考えてなかったんだよなぁ)ということに改めて気付いてしまった。

(それに)前世でも今回でも魔王が倒され、魔物達がいなくなったらじゃあどうするつもりだったり、どうするつもりなんだろう?

(確かに魔物じゃあなくても討伐しなくてはならない相手は少なからずいるだろうけど、そうした事だけをってわけにもいかないだろうからなぁ。でもそうなると後は······)前世で騎士団だった頃に自分も含めた団員が行っていた事を思い出しつつ今まで自分のしてきた事を振り返った。

 その中で見るからに生活が貧しそうな人達に団員が食糧などを配給している光景を思い出し、そして今回自分が神父様に寄付金を渡している場面を浮かべた。

(確か貧しい人達の生活を支えるような活動をしていた人達もいて、今僕が神父様に頼み事を引き受けて貯めたお金を寄付したり、子供達と付き合ったりしているのがそれに当たるのかもしれないけど)

 そこで体を横に向け(今僕が孤児院に寄付をしたりしているのは前世でお世話になった事への恩返しでやっているだけで、騎士団に入ってからそうした事をしたいのかと聞かれたら······多分したいとは答えないだろうなぁ)と今僕が心に思っている本心を漏らした。

(だとしたら、僕は一体どんな事が、した、い、ん······ぐぅ)そこまで思ったところで僕は深い眠りについてしまった······。


 そして翌朝。

(······ん?)顔がむず痒く感じて目を覚ましたら、鼻の頭の上で何かが小刻みに動いていた。

 それをヒョイッと手で捕まえて寝ぼけ眼で確認したら、全身が金色に輝いている昆虫であることまでは分かった。

(金色の、昆虫······あ、あーーーっ!?)そこでようやく意識がハッキリしてきてそいつが探していたゴールデンビートルだと認識できた。

「や、やったー! クエスト完了だー!」と喜び、島を出られるようになったら急いでアークさんの店に向かった。

「アークさん! ゴールデンビートル捕まえてきましたっ!」「おお、もう捕まえてきたのか」「はい!」アークさんにゴールデンビートルを渡し、「間違いねぇ。ご苦労だったな」「いいえ」アークさんに認められ晴れてクエスト完了となった。

 ここでひと休みしたいところだが、今回のクエストにかなりの日数を使ってしまったので次のクエストを探しにギルドへ向かう事にした。


 ギルドに入ってすぐにジェシーを見掛けたので声を掛けようとしたが、(っ!)ある光景を見てすぐ近くの柱に体を隠した。

(な、何で2が!?)と思いながら柱の影より目の前の······ジェシーと“ジャック”が楽しそうに談笑している光景を見ていた。

(あ、あの2人知り合いだったの!?)と思っていたらジャックが入口の方に歩いて来たので、見つからないように移動し、出て行ったところでさりげなくジェシーに声を掛けた。

「やぁ、ジェシー」「あっ、レックス! クエストを探しに?」「うん、そうなんだ。ところで、いまジャックと喋ってたみたいだけど、知り合いだったの?」
 
「あ、うん。実は、彼とは幼馴染みなの」「そうだったんだ」(そ、そうなの!?)ジェシーからジャックとの意外な関係を打ち明けられ、内心はかなり驚いていた。

「知らなかったよ」「2人ともあんまり皆には言わないようにしてたから」「まぁ、その方が良いだろうからね」「うん。じゃあ私も行くわね」「うん。それじゃあ」とジェシーと別れた。

 別れた後も僕は内心はかなり動揺し続けていた。 

(まさかジェシーとジャックが幼馴染みの関係だったなんて······この先、一体どうなるんだろう)とこれからの事が少々不安になってしまったのだった······。
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