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2年生での出来事

第58話 最後の日と、これからについて

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 村で過ごす最後の日の朝早く、レックスはボクを起こさないよう静かに家を出て、森のある場所へと向かった······。

 暫くしてボクも起きてレックス達と朝ごはんを食べ、身じたくをしてレックスが母ちゃんからお昼ごはんをもらってみんなと集まる場所に向かった。

 程なくしてみんな集まったところで、「それじゃあ行こっか」「「「うん!」」」(おー!)レックスの掛け声で森への散策に出発した。

 
 出発してすぐに「ところで、まず何処に行くんだ?」とアッシュが聞いた。

 するとレックスが、「まず村から近い所で、僕が子供の頃にトロルの襲撃に備えて1人で特訓していて、オークをベアーと倒した所に案内しようと思って」と答えた。

「オークを倒した所!? って······あそこか!」「うん。兄ちゃんも父さん達と探しに来てくれたあそこだよ」「そうなんだ」「早く行ってみましょ!」(あの時ボクが父ちゃんにレックスがオークに追われてるって伝えて、助けに行った所かぁ)ボクやみんながそれぞれ思い付き言ったところでそこへ向かった。

 
 もうじきその場所に着こうとしたところでレックスが、「もうすぐ何だけど······あ、いたいた。おーい、ベアー!」(えっ! 父ちゃん!?)「「「ええっ!?」」」突然レックスが父ちゃんを呼んだのでみんなびっくりして前方を見たら······本当に父ちゃんがいた。

「な、何でベアーが?」「今朝早く住み処に行って今日の事を話して、付き合ってもらおうと思ってね」「そうだったんだ」「ったくお前はぁ」とレックス達が話している横で、「びっくりしたよ、父ちゃん」「今朝になってレックスに頼まれたからなぁ」「んもう」ボクと父ちゃんも話していた。

 そして父ちゃんと合流した後、「で、目の前のあの辺りで特訓をしてたんだよ」レックスが前方の木々を指差した。

「ここで?」「うん。この辺りの木々が村から近い所で1番高くて枝とかがしっかりしてるから、足腰を鍛えるのにちょうど良かったし、父さんに買ってもらった短剣の扱いを練習するのにもってこいだったんだ」「そうだったんだ」

「だからあの時もオークをここまで誘って上の方の枝に登ってやり過ごそうと思ったら、急に斧を振り回しだしてきたもんだから木にしがみついてたら、ベアーがやって来てくれたんだ」とレックスを始め、みんなが父ちゃんを見だした。

「それでベアーと協力して倒したってわけか」「うん」アッシュとレックスがそう話したのと同時に「そうだったんだね、父ちゃん」「あぁ。あの時も話したが俺がオークと対決しようとした時、レックスが後ろから奴に何かを投げて注意をそらしてくれたお陰で倒せたんだ」「へぇ」ボクも父ちゃんとそう話した。

「でも、その時のオークがまさかハイオークだったなんてね」「うん。それが分かった時は驚いたよ」「ホントに無事で良かったわね」「うん」などと話した後、その場を離れた。

 
 次にそこからいつも向かっている川の方へ向かうことにしたみたい。

 その途中、「ねぇ兄ちゃん。この辺りじゃなかった? トロル達と戦ったのって」「ああ、そういやぁそうだったな」レックスとアッシュが言い出した。

「トロルと?」「そうなんだ」「うん。川の辺りまで来た奴らをこの辺りまで誘い込んで村の皆と倒したんだ」「そうだったな」

(へぇ)とレックス達が話しているのを聞いていた時、ガサガサ!(ん?)突然近くの草が全く風が吹いてなかったはずなのに揺れ動いたのが見えた。

 
(いま、動いたよね?)そう思いその草に近付いた。そして、(何で動いたんだろう?)と思いながらその草を触った。

 すると、ぺしっ! 何と突然また草が勝手に動いてボクの腕を払ってきたのだった。

「っ!?」突然の事態にボクはとても驚き、「ガァーー!!(うわぁーー!!)」叫びながら父ちゃんの後ろに隠れた。

「ど、どうしたんだ?」「いきなり草が動いて、ボクの手を払ってきたんだ」「え?」

 父ちゃんとそう話している横でレックス達もボクのその様子を見ていたので、「今、草が勝手に動いたよな?」「う、うん。それでベアーズの腕を払って······」と話してた。

 レックス達も不思議がっていると、「······もしかして兄ちゃん。あの時ヨートス様にもらった薬の効果がまだ効いてるんじゃない?」「薬って······あれか!」「うん!」

「どういう事? レックス君、アッシュ」「実は、トロルの事を最初ハウル様に、そしてヨートス様に相談したんだ。その時ヨートス様から薬をもらって、その薬をかけた草木がトロルと戦った時に助けてくれたんだ」「そうだったの!?」

「その時の薬の効果がまだ続いてるんだよ」「そうなんだ」と納得していて、ボク達も「というわけみたいだ」「そうだったんだ」と納得した。
 

 そしていつもの川に着いてレックス達は持ってきたごはんを、ボク達は川の魚を捕まえてそれぞれ食べた。

 食べ終えたところで「ふぅ、食った食った。で、この後はどうする?」とアッシュが聞いても、「うーん、どうしようか」レックスも特に何も考えてなかったみたいだ。

 するとそれを見ていた父ちゃんが、「仕方ない」そう言って突然立ち上がり、ある方向へ歩きだした。

「父ちゃん?」「「ん?」ベアー?」ボクもレックス達もそんな父ちゃんの動きを不思議に見入った。

 少しして父ちゃんがこちらを振り向いてきたのでレックスが、「もしかして、ベアーが面白い所に連れていってくれるんじゃない?」と言うと、「あぁ。そうかもな」「きっとそうよ!」「うん。付いて行ってみましょ」とみんなそう言って父ちゃんの後に続いた。

 
 暫く歩いたら······「「うわぁ!」」「「きれい!」」(うわぁ)目の前にはこれまで1度も来たことがない大きな湖が広がっていた。

 その湖の周りには色々な動物や鳥が水を飲みに訪れたりしていた。

「森の中にこんな所があったなんて」「あぁ。全然知らなかったなぁ」「ホントよねぇ」(うんうん)レックス達もボクも本当にこの湖の事は全く知らなかったので、本当に感動していた。

 しかしそれ以上に、「······ホントに、キレイ」森にも初めて来たメリッサはボク達以上に感激していたみたい。

 その後もボク達が来たことない森のあちこちを父ちゃんが案内してくれて、みんな本当に嬉しそうだった。

 
 そして夕方になったのでレックス達はボク達の住み処に寄った。

「今日は色々案内してくれてありがとう、ベアー」レックスがお礼を言って父ちゃんも「どういたしまして」と言わんばかりに頷いた後、「じゃあね、ベアー。またいつか」「じゃあな」「「バイバーイ!」」みんな父ちゃんにお別れの挨拶をして村に帰って行った。けど······。

「······あれ? ベアーズ?」ボクがその場に残っている事にレックスが気付いた。

「ひょっとして、今日はベアーと過ごしたいのか?」と聞いてきたのでボクは頷いた。

「そっか。じゃあ明日迎えに来るからな」「じゃあね、ベアーズ」レックス達がそう言って改めて村に帰って行った。その夜······。


「だけどまさか森の中にあんな所があったなんて」「そりゃあそうだろう。まだまだ森の中にはお前の知らない事なんてたくさんあるんだからな」「ほんとにそうだね。昨日行った洞窟の向こうのお花がたくさん咲いてて蜂さん達のいた所もそうだったし」なんて会話を父ちゃんとしていた。

 その時ベアーは昨日決意したことを話すことにした。

「なぁ息子よ」「何? 父ちゃん」「昨日食べたハチミツは美味しかったか?」「うん! とっても!」「また食べたいと思ったか?」「うん! それにレックス達にも食べさせたいって思ったよ」「なら······このまま森に残って、食べたい時に食べに行くことにしたらどうだ?」「······え?」突然父ちゃんからそう言われ、ボクは驚きのあまり暫く何も言わず、微動だにしなかった。

 ようやく「な、何でそんな事急に言うんだよ!」と父ちゃんに怒りをぶつけた。

「正直言うとな、お前がレックス達に名前を付けてもらったと言ってきた時から心配していたんだ。あまりヒトと仲良くなりすぎるのもどうかと、な」「な、何で? ヒトと仲良くなっちゃあいけないの!」

「ある程度の仲良しなら構わないだろうが、一緒に過ごし続けるというのは今さらだがやはり難しいと思うぞ」「ど、どうして?」ボクはなおも父ちゃんに食ってかかった。

 
「ならハッキリ聞くが、お前······俺ぐらいの体の大きさになってもレックス達と一緒にいられると思っているのか?」「······あっ」父ちゃんにそう聞かれ、ボクは現実を突き付けられた。

「今のお前ぐらいの大きさならまだ何も言わないだろうが、俺ぐらいの体の大きさのモノがヒトが大勢暮らしている所で過ごせると思うか?」「······」聞かれてボクは何も答えられなかった。

「それにだ。恐らくだが俺達の方がレックス達よりも早く命が尽きるはずだ」「い、命が?」「ああ。生き物には皆寿というのがあってな。レックス達ヒトより俺達クマの方がそれが短いはずだ」「そ、そうなの?」

「お前、以前にレックスが人生を赤ん坊の時からやり直していると俺に話してくれたよな?」「う、うん」「そのレックスの前の人生で、レックス達以外のレックス達の村のヒトがトロルという魔物に皆殺しにされたとも話してくれたよな?」「う、うん。話した」

「つまり、レックスは大切なヒト達を一度失ってしまったという記憶がある中で、そのレックスにもう一度大切なモノが先に死ぬという光景を見せるつもりなのか?」「あっ!」さすがにそれを聞いてボクは大きく驚いた。

「それならば、今のうちからレックス達と距離をとっておいた方が良いんじゃないか?」「······」そう聞かれてもやはり何も言い返せなかった。

「まぁ突然そう言われてすぐに受け入れることは出来ないだろうが、今言ったことは良く良く考えておくことだな」「······うん」ボクは沈んだ声で返事した。

「さて、今日はもう寝るとしよう」「······うん」そうしてボク達は眠りについた······。
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