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森での出来事

第13話 レックスのいない生活

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 レックスがムラを出てからというもの、ボクはレックス達と知り合う前の生活にまた戻った。

 とはいっても全く同じに戻ったわけではなかった。まずは森にいる生き物達との付き合いだ。

 以前はみんなボク達を避けてたんだけど······。「やあ、ベアーズ」「こんにちは、ベアーズくん」などボクを見掛けるとあいさつや声を掛けてきてくれるものが出てきた。

 しかもボクがレックスに付けてもらったベアーズというナマエを教えると、みんなそれで呼んでくれるようになった。

 次にヒトとの付き合いはレックスがいなくなったことでボクから川やムラへ進んで行くことは少なくなったけど、たまに森の中で特にアッシュを見掛けたら後を付けて川で過ごしている時にアッシュと遊んだり、ムラに来ないかと誘われたら付いていきアリスらとも遊んだりしたのだった。

 そんな風に過ごしかなりの月日が過ぎた頃、(あれ、アッシュ?)いつもの川になぜかアッシュが1人でいた。

(どうしたんだろう? ひとりで······ハッ!)その時ボクはレックスがお別れを言いに来た時の事を思い出した。

(ま、まさか······)と思いつつアッシュに近付いた。

「お、来てくれたかベアーズ」(うん。きたけど······)「実はな、俺ももうじき村を出て王都の養成学校へ通う事にしたんだ」(やっぱり)それを聞いてボクは少し寂しい気持ちになった。

「で、その前にお前に伝えておいた方が良い事があってな」(つたえておいたほうがいいこと?)何だろう。

「その養成学校にはな、夏と冬に2週間と1週間の長いお休みがあるんだ」(ながいおやすみ?)

「さすがに1週間の方は無理かもしれないが、2週間の休みの方なら村に帰って来られると思うんだ」(ムラに······えっ、も、もしかして?)

 そうボクが思っていると、「つまり、来年以降はその夏の休みの時にレックスともまた会える可能性があるってことだよ」(レ、レックスと! ······や、やったぁーーー!!)アッシュからそう聞いてボクは本当に心の底から久しぶりに大きく喜んだ。

 その事はアッシュも分かったようで「はははっ、喜んでくれたみたいだな」(うん! アッシュ、ありがとー!)と言う気持ちを表す意味も込めてボクはアッシュに飛び付き、アッシュの顔を舐め続けた。

「わ、分かった分かった。お前の気持ちは分かったから」と言われてボクも舐めるのを止めた。

「じゃあな、ベアーズ」(うん!)そうお別れを告げてアッシュはムラに帰って行った。

(レックスとまたあえる)その思いをボクはしばらくの間心に持ち続けたのだった······。


 そうしてアッシュも村を出て行ってから少し経った頃、今度はアリスの匂いを森の中で感じた。不思議に思いつつその匂いを辿って(やっぱりいた)アリスを発見した。

(アリスー)ボクが近付くと「あ、やっぱりこの辺りに住んでたのね、ベアーズ」(うん)「実はお願いしたい事があるんだけど?」(なに?)

「私も来年養成学校の入学試験を受けようと考えてるの。それでそれに合格出来るように今から体を鍛えておこうと思って、その特訓に付き合って欲しいの。お願い!」

 アリスが真剣に頼んでいると分かると、(ツンツン)ボクはアリスの足をつつき「ん?」ボクを見させた後にコク(いいよ)と頷いた。

 それを見てアリスも「良いの。ありがとう!」(うわっ!)ボクを抱き、ボクの顔を自分の顔に押し当て何度も擦り合わせたのだった。

 それからボクとアリスは森の中を走り回ったり、木の根っこから根っこへ飛び移ったり、さらに太い木や高い木を登っ······ていくアリスを見ていたり(だってボクはのぼれないもん!)して過ごした。


 またボクもアリスから色んなこと、その中でもアリスやレックス達が使っている"ことば"を教えてもらった。

 たとえば、レックス達がくらしているムラの中にある造りモノは"イエ"と呼んでて、そのなかのレックス達が過ごしている所を"ヘヤ"と呼んでいるみたい。

 他にも、ムラやイエに入る所を"イリグチ"とか"デグチ"、そのイリグチやデグチに付いているモノを"ドア"や"トビラ"、またボクがレックスのヘヤの中をいつも見ていた所を"マド"って呼んでいると教えてもらった。

 あとアリスの父ちゃんのヘヤに連れて行ってもらった時、そのヘヤにはたくさんの"ホン"て呼ばれているモノが置いてあって、それを使ってアリスはボクに"モジ"を教えてくれた。

 さっそくそのモジ(文字って書くと教えてもらった)を使って今まで教えてもらった言葉である、村や家や部屋や窓。あと入口や出口に今見ている本など······を教えてもらった。

 それにアッシュが行っている学校や、その学校のある王都など色んな言葉や文字も教えてもらえた。


 そうしてアリスの特訓に付き合って大分月日が流れ、ボクと父ちゃんが長い眠りから覚めた頃にはアリスの体力も大分付いてきたことで、ボクとだけではあまり特訓にはならなくなった。

 そのためアリスをボクの家である住み処に案内して父ちゃんに会わせた。父ちゃんを見てアリスは驚いている様子だった。

(ん? そういえば······)アリスが父ちゃんに会うのはこれが初めてだし、ヒトを住み処に連れて来たのってアリスが初めてだったなぁ······。

 というわけで父ちゃんにアリスを紹介して今のアリスとの特訓の事を話した。それを聞いて父ちゃんも協力してくれる事となり、それからはボクと父ちゃん、そしてアリスとで特訓を行った。そのため本当にアリスは物凄く体力が付いたみたいだ。

 そして、とうとうこの日が訪れた······。


「ありがとうベアーズ、ベアー。体力作りに付き合ってくれて」(良いんだよ)「私も2日後には村を出発して王都に向かうわ」(行ってらっしゃい)「少しして訪れる夏のお休みにはレックスやお兄ちゃんとも帰ってくるつもりだから」(だと良いけど······)なぜか去年アッシュは村には帰って来なかったのだ。

 そのため少し不安な表情を浮かべたためか「大丈夫よ。今度は3人で帰ってくるようにするから。ねっ」(うん)「じゃあね! ふたりとも」(バイバーイ!)こうしてアリスも村を出る事となり、ボクが一番仲良くしていたヒトがみんなあの村からいなくなってしまったのだった······。
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