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Act.50

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 魔法陣の中から人影が浮かぶ。

「クハハハハハハハ……。久しぶりではないか、魔王サクヤ!!」

 クロウドは、高らかに笑ったあとにそう言い、俺を見下ろしながらゆっくりと地上に舞い降りた。

「サクヤ……冷静になるのよ」

「大丈夫だ。俺自身が驚くほどに、落ち着いているのだから」

 ミーシャは心配して言ったが、俺はそう返事をしてニヤリと笑った。
 この世界に来てから、俺は本来の魔力を取り戻したのだから、クロウドに負ける事があってはならない。

 それに、クロウドに殺されたアリア、俺に関わったことで巻き込まれているミーシャや皆のためにも、奴をここで倒さなければならないのだ。

 俺は、無詠唱で身体強化の魔法を発動し、さらに身体の表面に防御魔法を展開する。

「私を見て跪く……訳がないか。ならば後悔するがよい。以前の私とは違うのだからな」

 クロウドはそう言い、ニヤリと笑って剣を構えた。

「いきなり現れて、物騒な剣まで構えるとは……」

 俺はそう言い、隙を見せないようにしながら、魔剣を観察する。

「ほう……。お前は、この剣の正体に気付いたのか?」

「魔剣カタストロフ……。こんな剣を持ってくるとは、正気とは思えぬ」

 クロウドの問いかけに対して、俺はそう言った。

 魔剣カタストロフ……。前世の時代にも存在した魔剣だ。
 これは、俺の作った魔剣と似た特徴を持っている。
 どちらの魔剣も、魔力を養分として成長するという特徴がある。

 俺の作った魔剣は、斬った対象から魔力を吸い取るのだが、魔剣カタストロフは、持ち主から魔力を吸い取るのだ。

 魔力を失えば、死に直結する魔族には、到底使えない代物だ。
 それを使っても死ぬ事がない人間なら、剣術を極めれば強力な武器になるだろう。

「何とでも言うがいい。……私はお前を斬るという強い意思によって、この魔剣に持ち主として選ばれたのだからな」

 クロウドはそう言い、ニヤリと笑った。
 魔剣に選ばれた事に、何の得があるのやら。
 そもそも、魔剣に選ばれる意味が分からない。魔剣を選ぶ……ではないのか。

「選ばれた……か。アンタの考え方は、解せぬ」

 俺はそう言いながら、頭の中で一つの魔法を構築する。
 そして、魔剣カタストロフを破壊して、クロウドに動揺を与えて、隙を生ませて倒す。そこまでのプロセスを構築してゆく。

「ククク……お前との因縁も、これで終わるのだ!!」

 クロウドは地面を蹴り、俺との距離を一気に詰める。
 俺の目の前に、魔剣カタストロフを構えたクロウドが現れる。一瞬にして俺はクロウドの間合いに入ってしまった。

 クロウドは最小限の動きで、魔剣カタストロフを縦一閃振り下ろす。

 だが、俺はクロウドの攻撃をひらりと躱した。
 攻撃の動作が遅い。どうやら、クロウドは手加減をしているようだな。

「剣筋が丸見えだ。手加減をすると命取りだぞ?」

 俺がそう言った瞬間に、次の攻撃が迫ってくる。
 クロウドは横一閃に魔剣カタストロフを振り、俺の頬に触れる……その寸前のところで躱す。

「加減などする訳が無かろう。そう言うお前は、避けるのだけは上手くなったのではないか?」

 クロウドは攻撃の手を休める事なく、そう言った。

 手加減をしていないと言うのならば、この遅くて丸見えになっている剣筋を、どう説明すればよいのだ。

 縦横斜めに突きと繰り出される攻撃。魔剣カタストロフをクロウドは何度も振るうが、俺の身体に当てる事ができない。

「遅い。遅すぎて眠気を催すぞ。クロウド……お前はアリアみたいに、人質を取るような真似をしなければ、俺を倒せないのか?」

 魔剣カタストロフを振るわす、クロウドに対して挑発するように、俺は言う。

「何故だ!? 私はプライドを捨てて、鍛錬を重ねたのだぞ!!」

 クロウドは叫ぶように言い、攻撃を躱され続ける苛立ちからか、普段の冷静さを失って、徐々に感情的になり始めた。

 俺の計画通りのシナリオが描かれてゆくな。
 リヴァイアサンを解析した時に、クロウドの性格を知る事ができた。

 クロウドはプライドを捨てて鍛錬をしたと言った。
 だが、実際にはプライドを捨てきれていなかったのだ。

 だから、人質を取らずに、真っ向から剣で挑んできた。
 剣で俺を倒すという、クロウドの理想がそこにあるのだから。
 創造魔法は術者の性格を表す。まさにこれなのだ。

 クロウドの剣筋が遅過ぎたことは、良い意味で想定外だったのだが、これなら負ける事は無い。


「ねえ、クロームさん……。サクヤの雰囲気……何だかおかしいわ。リヴァイアサンを倒した時よりも……強くなってない?」

 ミーシャがクロームに話しているのが、俺にも聞こえた。

「そうね、破滅神ミーシャ……あなたの言う通りよ。あの男も強くなって、ここに現れた。それなのに、それを手玉に取ってる事自体ありえないわ!」

 クロームは驚きを隠せないのか、少し大きめの声でミーシャに言った。
 先程まで次は無いと言っていたが、それを覆すような状況が、クロームの目の前で起きている。

「ありえない……ありえない、ありえない、ありえない!!」

 クロウドは叫びながら剣を振るが、俺はあまりの剣筋の遅さに欠伸をしてしまう。
 その時、クロウドが思い切り突き出した、魔剣カタストロフは俺の首筋をかすめた。

 俺の身体に纏っていた防御魔法によって、魔剣カタストロフは乾いた音を立てて折れた。

「ば……馬鹿な!?」

 クロウドは目を見開き叫ぶ。

「嘘でしょ? 何が起きたの!?」

 俺を見守っていたミーシャも、驚いて声を上げた。

「魔剣を折るだけの力があるなんて……本当に面白い人だわ」

 クロームも少し驚きながら言い、口元を抑えて小さく笑った。

 クロウドは、魔剣カタストロフを折られると想定していなかったようで、立ち尽くしている。

「まだだ……まだ、終わらぬ……」

 クロウドはそう言い、折れた魔剣カタストロフに手をかざした。

「俺に傷一つ付けることができなかったというのに……。時の力で、魔剣カタストロフを折れる前の時間まで遡らせるのか?」

 俺がクロウドに問いかけると、奴はピクリと反応したが、言葉を発することは無かった。
 そして、魔剣カタストロフは折れる前の姿を取り戻してゆく。

「神の力は偉大だ。それを愚弄するお前は、その力の前にひれ伏せるがいい!!」

 クロウドはそう言って俺を睨み、再び魔剣カタストロフを構えた。その身体からは金色の光が浮かび上がる。

「神通力に頼り始めたか……。ならば俺も、本気で戦わせてもらうぞ」

 俺はそう言い、抑え込んでいた魔力を解放する。
 すると、森の木々がざわめき、雷鳴が響き渡り始めた。
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