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3話 火起こしと魔法

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「こちらが我が家になっております」

「……えーっと、暗くてジメジメしてていいところです、ね?」

「無理に褒めなくていいぞ。ただの洞窟だから」

 リリーを連れて、洞窟に戻ってきた。
 家を作る余裕なんてないからな、しばらくはここで生活しなくちゃいけない。
 俺の荷物だけが散らばる殺風景な洞窟に、リリーと共に腰掛ける

「よし、じゃあ無人島脱出の計画を立てようか」

「はい! 舟を作るのがいいと思います」

 リリーが手を上げて発言する。
 舟か……いい案だけど作り方分からない。
 パッと思いつくのはいかだだけど、リリーがテンタクルスとかいうに襲われたという話を聞くと、いかだじゃ不安が残るな。

「小さい舟でいいならリリーが作れますよ。もちろん時間はかかりますし、アズマにも手伝ってもらうことになりますけど」
 
 リリー、なんて有能なんだ!
 パンツだけが取り柄の女の子じゃなかったんだな……

「よし、その方針でいこう! ……残る問題は舟を作り終えるまでの食料と水の確保だな」

 ここに戻るまでの道中に集めておいた、乾いた木と枯れ草を地面に置く。
 水を煮沸するための火を起こそうというわけだ。
 原始的な方法を取る必要はない。
 俺の能力があれば火だって起こせる!

「リリー、ちょっと待っててくれよ。今、火を起こすから」

 リリーにそう伝えて、俺は集中する。

 想像する。
 橙に近い赤色で、明るく、そして熱い。目の前の枯れ草に火が灯る姿を、鮮明に想像する。

 そして創造する。
 ……ん? 火を創造ってなんかおかしいかな。
 いや、そんなことを考えるな! 集中、集中!
 少しすると、辺りが眩しい光に包まれ枯れ草に火が点いた。

 …………小さい!
 灯った火は、今にも消えそうだ。

「やばい! 早く火力を上げないと! リリー、そこにある枝を取ってくれ! …………………あっ」

 突如、一筋の風が吹いた。
 イタズラな風は、俺が起こした火を消し、おまけにリリーのスカートを巻くった後、どこかに消え去っていった。

「…………はぁ」

 なんだろう、この複雑な気持ち。
 火は消えるし、パンツは見えるし情報量が多すぎる。
 あまりの事態に俺は、うなだれるしかなかった。
 そんな俺の顔をリリーが覗き込んでくる。

「リリーのパンツを見たのに、そんなにがっかりしないでくださいよ! …………炎よ、エス・ヒトラ!」

 リリーが何か唱えると、先ほど俺が起こしたものより大きな火が点いた。
 これは……魔法か!
 やっぱりこの世界にも魔法が存在するだな。
 魔法で簡単に火が起こせるなら、俺の努力と時間はいったい……
 
「リリー、こんな魔法を使えるんなら早く言ってほしかった……」

「す、すいません! あまりにアズマが集中してるから邪魔しちゃ悪いなーって思って」

 く、悔しい!
 リリーの気遣いが、逆に心に沁みるぜ。
 やばいな、舟は作れないし火は起こせないし、リリーに出会ってからいいところをひとつも見せてないな、俺。
 このままじゃ異世界無人島ニートまっしぐらだ。
 ここらで何か役に立つところを見せないと。
 少しの間、考える。

 ……待てよ。
 俺の魔法というか能力は、火を起こすだけじゃないじゃないか!

「リリー、よく見ててくれよ」

 リリーの前に両手を差し出し、林檎を創造してみせる。
 一瞬呆けた顔をしていたリリーの表情が、驚愕と感動といった表情に変わった。

「凄い! 見たことない魔法です!」

 あ、なるほど。この能力も魔法ということで納得するのか。
 実際、何かを創造した後の疲労感は魔力の消費によるものかもしれない。
 というかそれ以外考えられないし。

「なんでも創造できるってわけじゃないけど、何か必要なものがあれば言ってくれ。努力はしてみる」

 俺がそう伝えると、悩んだ顔をするリリー。
 少しして、こんなことを言い出した。

「じゃあ、まずはクワとカマとオノをお願いしてもいいですか?」





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