Vegetables

二一

文字の大きさ
上 下
140 / 160
Vegetables―スピンオフ―

鬼の霍乱と甘い蜜 2

しおりを挟む
「ただの風邪だって。よかったな」

 あんまり熱が高いからインフルエンザとかそんなのじゃないかと心配したけど、検査の結果はいわゆる風邪だって診断が下りた。それにしても律にとり付くウィルスってツワモノだよな――。

 病院の帰りに律の家へ行くかと聞いたらおれの部屋がいいと言う。あ、そっか――家にはツルさんがいるし、いくら元気でも80歳を過ぎたツルさんに移ってしまったら大変なことになるかも知れないもんな。

 今日が休みでホントよかったよ――。

 昼にとりあえず柔らかく煮込んだうどんを食べさせて、処方された薬を飲ませる。普段の律からは想像できないほどの食欲のなさにちょっと心配になった。

「大丈夫か?」

「ノド痛ぇ――」

 呟く律の声はかなり掠れている。そういえば夕べも咳が酷かったよな。

 まだ熱が下がらない律はどこかぼうっとしていて普段とのギャップにどこかドキリとしてしまう。病人に対して何言ってるんだって感じなんだけど……。

 無言で布団に戻って寝息を立てる律にクスリと笑いがこぼれる。なんだか怪我した動物が回復する為に休んでるみたいだ。







 再び目覚めた律はややスッキリとした表情で、計りなおした熱も37度後半まで下がっていた。熱が下がった代わりにノドの痛みが酷いのかしゃべるのも辛そうにしている。

「何してるんだ?」

 キッチンで立っていると律の掠れた声が背後からかかる。

「こら、寝とけって――」

 熱が下がったと思ったらこれかよ――。呆れたように布団を指差すと律は憮然とした顔で文句を言う。

「これ以上寝てられるかよ――もうノド痛いだけだって」

 言いながらおれの手元に視線を落とす。何かと目で問いかけられ、ちょうど出来上がったマグカップを手渡した。怪訝そうな律に飲むように促す。

「――うまいな、コレ」

「だろ? はちみつレモン」

 ちょうど料理に使ったレモンが半分、冷蔵庫に残ってたのを見つけ、はちみつと一緒にお湯で割ったんだ。はちみつはノドに気持ちがいいだろうから。

「もうちょっと飲みたい」

 一気に飲み干した律がこちらにカップを返してくる。レモン汁はまだ余ってるしもう一杯くらいだったら作れそうだ。

 マグカップを軽くゆすぎ、残りのレモン汁と瓶のはちみつを入れる。

「あ――っしまった……」

 慌てたせいかスプーンですくったはちみつが零れ落ち、マグカップから外れておれの左手にかかってしまった。はちみつって手につくとベタベタして取れ難いんだよ。

 とりあえず先に律の分を作ろうと手を洗うのは後回しにして、落ちそうになってる左手のはちみつを舐め取った。うん、甘い。

「うまそうだな」

「っちょ……律」

 椅子に座った律がすかさずおれの左手を捕まえ指を口に入れた。そのまま指の蜂蜜がなくなるまで丹念に舐め取っている。

 律の口内はまだ熱がこもっていて普段よりも熱い。敏感な指先を何度も舐められて思わず身体が震えてしまう。

 ぞくりとした刺激に思わずスプーンを落としそうになって慌てて持ち直す。すると右手までスプーンのはちみつがベットリと付いてしまって……その手で何かを触るわけにもいかずにおれは律にされるがまま立ち尽くしていた。

 思う存分左手を舐めた律がふと口を離し、おもむろにスプーンを握りしめた右手を掴まえる。右手のスプーンを取り上げそのままおれの口へと咥えさせた。

 甘いはちみつが口の中に広がる。

 律はというと当たり前のようにおれの右手の指を丹念に舐めとっていく。

「ん――っ」

 ぞくりとする刺激に思わず声がでてしまう。そんなおれを律はいたずらっぽい目で見上げて笑った。

「すげぇ、うまい……」

 引き寄せられた耳元で囁かれ更にぞくりとする。吐息はいつもよりも熱いし、掠れた声が耳をくすぐるんだ……。
律はギュッと目を閉じたおれの手を再び口に入れる。指を舐める唾液の音だけが部屋に響いてなんともいえない気分になってしまった。

「指、感じんのか」

 咥えたまま呟かれて身体が跳ねる。律の視線は言い逃れできない部分に注がれていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

淫愛家族

箕田 悠
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...