初恋Returns

二一

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初恋Returns 39

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「何日でもいていいぜ? その代わり……」

 俺の襟を引っ張ったままの指先が、武市の印に爪を立てる。

「男同士でヤルの興味あるんだ」

 俺は動けなかった。そんな風に見られることなんて想像もしなかったし、どうしていいか分からなかったのだ。

「男なんか絶対無理とか思ってたけど、おまえ見てたらイケる気ぃするわ」

 その視線に不快感が募った。性欲の対象として見られるのは、こんなにも吐き気がするものなのか。

「風間さん、俺は……」

「行くとこないんだろ?」

 引き寄せようとする風間さんに軽く抗った。武市が相手の時と違って、本気を出せば簡単に逃げられるという余裕からだ。

「俺、やっぱり帰ります」

「そりゃ、ないだろ?」

 穏便に済ませたい気持ちが、強く突っぱねることを避けてしまっていた。風間さんの力が強くなる。

「離してくだ……」

「失礼します」

 振り払おうとしたとき、ふいに事務所のドアが開く音がした。風間さんが慌てたように手を離す。

 俺は聞き覚えのある声にどきりとした。

「来島さん……」

「祥真さん、ここにいらしたんですね」

 いつもの黒いスーツに身を包んだ来島さんが、俺を見てホッとしたように息を吐いた。

「風間さん、お先に失礼します」

 軽く頭を下げた俺を、風間さんは引き止めなかった。

「来島さん、俺……」

 見慣れた黒いセダンを前に、俺は足を止めた。まだ武市のいる家に戻りたくなかった。

「武市さんとなにかあったんですか?」

 来島さんの問いかけに俺は答えることができなかった。どう説明していいか分からなかったし、説明されたところで来島さんだって困るだろう。

「心配、していましたよ」

 口には出しませんけどね。来島さんがどこか非難するように俺を見た。来島さんは武市の右腕で、武市の味方だ。

「帰りたく、ないです……」

 俺はそれだけをやっと口にした。来島さんは少しの間考えるように黙って、それから小さくため息を吐いた。

「では、今夜のところは私のところへ……どうですか?」

 俺は頷くことしかできなかった。それ以外に行くところもなかったし、来島さんが放置してくれるとも思えなかったからだ。

 初めて訪ねた来島さんの住まいは、武市のマンションと比べると質素な造りで、まさに寝に帰るだけといった体だった。

 ベッドを譲ろうとする来島さんを慌てて遮って、毛布を借りて畳の上に横になる。思った以上に疲れていたのか、俺は転がり落ちるように眠ってしまった。

 夢の中の俺は、まだランドセルを背負っていて、遠くで手を振る武市へと一目散に駆け寄っていた。

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