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初恋Returns 39
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「何日でもいていいぜ? その代わり……」
俺の襟を引っ張ったままの指先が、武市の印に爪を立てる。
「男同士でヤルの興味あるんだ」
俺は動けなかった。そんな風に見られることなんて想像もしなかったし、どうしていいか分からなかったのだ。
「男なんか絶対無理とか思ってたけど、おまえ見てたらイケる気ぃするわ」
その視線に不快感が募った。性欲の対象として見られるのは、こんなにも吐き気がするものなのか。
「風間さん、俺は……」
「行くとこないんだろ?」
引き寄せようとする風間さんに軽く抗った。武市が相手の時と違って、本気を出せば簡単に逃げられるという余裕からだ。
「俺、やっぱり帰ります」
「そりゃ、ないだろ?」
穏便に済ませたい気持ちが、強く突っぱねることを避けてしまっていた。風間さんの力が強くなる。
「離してくだ……」
「失礼します」
振り払おうとしたとき、ふいに事務所のドアが開く音がした。風間さんが慌てたように手を離す。
俺は聞き覚えのある声にどきりとした。
「来島さん……」
「祥真さん、ここにいらしたんですね」
いつもの黒いスーツに身を包んだ来島さんが、俺を見てホッとしたように息を吐いた。
「風間さん、お先に失礼します」
軽く頭を下げた俺を、風間さんは引き止めなかった。
「来島さん、俺……」
見慣れた黒いセダンを前に、俺は足を止めた。まだ武市のいる家に戻りたくなかった。
「武市さんとなにかあったんですか?」
来島さんの問いかけに俺は答えることができなかった。どう説明していいか分からなかったし、説明されたところで来島さんだって困るだろう。
「心配、していましたよ」
口には出しませんけどね。来島さんがどこか非難するように俺を見た。来島さんは武市の右腕で、武市の味方だ。
「帰りたく、ないです……」
俺はそれだけをやっと口にした。来島さんは少しの間考えるように黙って、それから小さくため息を吐いた。
「では、今夜のところは私のところへ……どうですか?」
俺は頷くことしかできなかった。それ以外に行くところもなかったし、来島さんが放置してくれるとも思えなかったからだ。
初めて訪ねた来島さんの住まいは、武市のマンションと比べると質素な造りで、まさに寝に帰るだけといった体だった。
ベッドを譲ろうとする来島さんを慌てて遮って、毛布を借りて畳の上に横になる。思った以上に疲れていたのか、俺は転がり落ちるように眠ってしまった。
夢の中の俺は、まだランドセルを背負っていて、遠くで手を振る武市へと一目散に駆け寄っていた。
俺の襟を引っ張ったままの指先が、武市の印に爪を立てる。
「男同士でヤルの興味あるんだ」
俺は動けなかった。そんな風に見られることなんて想像もしなかったし、どうしていいか分からなかったのだ。
「男なんか絶対無理とか思ってたけど、おまえ見てたらイケる気ぃするわ」
その視線に不快感が募った。性欲の対象として見られるのは、こんなにも吐き気がするものなのか。
「風間さん、俺は……」
「行くとこないんだろ?」
引き寄せようとする風間さんに軽く抗った。武市が相手の時と違って、本気を出せば簡単に逃げられるという余裕からだ。
「俺、やっぱり帰ります」
「そりゃ、ないだろ?」
穏便に済ませたい気持ちが、強く突っぱねることを避けてしまっていた。風間さんの力が強くなる。
「離してくだ……」
「失礼します」
振り払おうとしたとき、ふいに事務所のドアが開く音がした。風間さんが慌てたように手を離す。
俺は聞き覚えのある声にどきりとした。
「来島さん……」
「祥真さん、ここにいらしたんですね」
いつもの黒いスーツに身を包んだ来島さんが、俺を見てホッとしたように息を吐いた。
「風間さん、お先に失礼します」
軽く頭を下げた俺を、風間さんは引き止めなかった。
「来島さん、俺……」
見慣れた黒いセダンを前に、俺は足を止めた。まだ武市のいる家に戻りたくなかった。
「武市さんとなにかあったんですか?」
来島さんの問いかけに俺は答えることができなかった。どう説明していいか分からなかったし、説明されたところで来島さんだって困るだろう。
「心配、していましたよ」
口には出しませんけどね。来島さんがどこか非難するように俺を見た。来島さんは武市の右腕で、武市の味方だ。
「帰りたく、ないです……」
俺はそれだけをやっと口にした。来島さんは少しの間考えるように黙って、それから小さくため息を吐いた。
「では、今夜のところは私のところへ……どうですか?」
俺は頷くことしかできなかった。それ以外に行くところもなかったし、来島さんが放置してくれるとも思えなかったからだ。
初めて訪ねた来島さんの住まいは、武市のマンションと比べると質素な造りで、まさに寝に帰るだけといった体だった。
ベッドを譲ろうとする来島さんを慌てて遮って、毛布を借りて畳の上に横になる。思った以上に疲れていたのか、俺は転がり落ちるように眠ってしまった。
夢の中の俺は、まだランドセルを背負っていて、遠くで手を振る武市へと一目散に駆け寄っていた。
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------------------
【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。
同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集]
等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
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