My First Magic

五十鈴 葉

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0章 歪んだバイト

0-15 仮説から確信

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 あの瞬間に発動したナニか。それは、興味を持つなという方が難しい代物であることが分かった。
 
 ──────────
 
 「アタシたちは、第三者に変身術式をかけてもらって今の姿になってるんだけど、それは解かれて魔法石にかけられた魔法は解かれなかったことになるよね」
「オレらのは普通に自分でかけた変身魔法だ」
「その違いを考えたら答えが見つかるかもね。君のその魔法石は、どんな魔法が?」
 
 ──────────
 
 魔法を解かれなかったのはアーラの魔法石ただ1つ。しかし、その問いにアーラは答えられなかった。そんなアーラに無理強いすることなく、4人は違う方向から仮説を立てていった。
 だが、仮説は仮説。正解は誰も教えてくれない。そのまま数時間という時が流れ、結局5人は部屋に戻って来たのだった。そして、就寝前の自由時間。
 
「……アーラ、お前はどう思う?」
「?」
「今日のことだよ。あれから何も話さなかったじゃねぇか。ああいうのは、真っ先に口挟んでくると思ったのに」
 
 自分はどんな風に思われているんだ、と思いながらもアーラはスマホから目を離して天井を見た。ルプスは、つけていたテレビを消してアーラの隣に座る。ソファが重さで沈んで、天井が少しだけ遠くなった。
 
「…………ボクは……」
「うん」
「……あれが、魔法のせいだとは思いません」
 
 魔人が人型を保つのに必要なのは、人型になるための魔法か術式を使えること。魔法と術式の大きな違いは、媒介を必要とするかどうかだ。
 
 魔法はイマジネーション。というのはよく言ったもので、頭の中の知識や経験を総動員した上で、実現できるものが魔法として使えるのだ。道具や詠唱などは必要なく、その身1つあれば出来てしまう。
 その逆で術式とは、知識だけでは成立せず、道具や詠唱などの媒介となるものが必要となる。つまり、知識と媒介……それと、魔力さえあれば人間でも使えてしまうのだ。
 
 世の中には、その媒介の中に魔力が込められているものもあるという。今この会社が作ろうとしている魔力自動車も、平たく言えば術式を使用するための媒介ということになる。
 
「モルスさんたちにかけられていた変身術式、腕に刻まれた陣から予想するに、あれは第三者が相手にかけたモノです」
「あぁ、それはアイツらが言ってたな」
「それが誰の魔力を使っているのかは言ってません」
「? そりゃー、術をかけた第三者の……」
 
 普通に考えれば、術式はかけた者の魔力を使っているものだと思うだろう。しかし、アーラはそこを疑っていた。自分の姿が変わらなかったのだから、あの術式は対象者に変身術式をかけ続けるというモノではないのではないか。
 
「正直、術式の知識はあまり無いのではっきりは言えません。でも、もしあの陣が対象者の魔力を使って強制的に変身させ続けるという効果ならば、説明がつきます」
「……その説明っつーのは?」
「エネルギーっていうのは、ただあるだけでは何も出来ないんですよ」
 
 説明を求めたのに、いきなり言われたことが理解出来ずにルプスは首を傾げた。対するアーラは、頭の中のことを言語化するのに精一杯でそんな相手の様子には気が付かない。
 
「えっと……長年、人間の科学者たちが開発しようとしている一般利用できる魔力装置? っていうのかな……誰でも魔法が使えるようにしたいっていう目標で、1番難しい問題はなんだと思いますか?」
「え? 誰でも使える……ってことは、魔力の安定供給? とかか?」
「正解です。魔力から魔法を使うメカニズムはもうすでに解明されていますが、肝心の魔力の作り方はまだ分かっていない。エネルギーがなければ何事も始まらないということですね」
 
 言いたいことはよく分かる。しかし、最初の発言からは大きく離れてしまった。そのことにルプスはまた首を傾げる。これは察せない自分が悪いのか? 頭は悪いが、これだけを聞いてなるほど、と言えるものはいるのだろうか。
 
「……お前の話だと、エネルギーさえあればいいんだろ? でも、エネルギーだけじゃ何も出来ねぇって……」
「そうです。エネルギーと一括りにしてしまってますが、魔力は他のエネルギー……運動エネルギーや熱エネルギーなどとは違って……っ!?」
「うぉっ……びっくりした」
 
 話している途中に2人の間に落ちてきた黒い何か。白熱してきた討論に釘をさしたのは、1匹の小さなトカゲだった。アーラは、手の上に落ちてきたソレを反射的に振り落としていた。
 綺麗に宙を舞って目の前の机に着地したトカゲは、虚無顔でこちらを見ている。鳥肌のたった腕をさすりながら、アーラはそのトカゲを睨みつけた。
 
「コイツ……天井から落ちてきたのか? なんつータイミングだよ」
「……本当ですね。なんかヒンヤリしてましたし、どこから入ったんだか」
「爬虫類は大体ヒンヤリしてんだろ。知らねぇけど。……ってか、トカゲって爬虫類か?」
「そんなことも知らないのか、キミは」
「あ? 今のどこから……」
 
 トカゲを外に出そうと手を伸ばしていたルプスは、聞き覚えのない声を不審に思って動きを止める。しかし、逆にアーラはその聞き覚えのありすぎる声から逃げ出そうとしていた。
 瞬間的に立ち上がったアーラの動きを封じ込めた長髪の生き物。アーラは立ったはずなのに、ソファに押し戻されてスラッとした腕に閉じ込められた。
 
「久しぶり、アーラ。キミに1つ伝えたいことがある」
「……なんでしょうか」
「は……え、誰? 知り合い? このトカゲ人間」
「トカゲ人間とは失礼な。自分はこの子の代理保護者だ。親が子供に会いに来るのは何も変なことじゃないだろう?」
 
 胡散臭い笑顔でルプスを丸め込もうとしているのは、どこからどう見てもアーラをここへと誘った張本人。偶然出会ってしまった龍、マキナだった。アーラは、2人が話している間に距離を取り、食卓の椅子に座った。
 それを見たルプスがアーラの背後に回り、椅子の背もたれを掴んだ。まるで番犬のようなその行動に若干呆れつつも、マキナは向かいの椅子に座る。
 
「それで、伝えたいこととは」
「今日の1件から、とても興味深いことが分かった。残りの4日間、こちらはしっぽを掴むために動く。準備が出来次第、作戦実行だ。なので、そちらには出来るだけ穏便に……と、言いたいところだったんだが……」
「?」
 
 要点を端的に伝えていたはずのマキナだったが、途中で何故だか口ごもってしまった。それを不思議に思ったアーラは、首を傾げてマキナを見る。しかし、マキナはそのまま口元に手を当てて何かを考え出してしまった。
 その隙に隣にいたルプスがアーラの肩を叩く。耳元に顔を近づけ、2人は内緒話を始めた。
 
「……なぁ、コイツなんなんだ?代理保護者って……」
「えっと……なんかユタカグループの内情を知りたいそうで、ボクにこの仕事を勧めてきた人です。つまりは、囮捜査的な?」
「それはカッコ良く言い過ぎだろ。お前、なんか騙されてねぇか?」
「さっきから本当に失礼だな、キミは。それと、距離が近いぞ。不健全な」
 
 腕を組んで頬を膨らまし、まるで子供のように拗ねるマキナを見た2人は呆れた様子で目を見合せた。ルプスは小声で「自分だってこれくらい近づいてただろ」と文句を言う。
 なんだかよく分からない2人に巻き込まれそうになっているアーラは、そんなことは気にせずにさっきのマキナの言葉を思い出していた。興味深いこととは一体何なのだろうか。
 
「……マキナさん」
「ん? どうした」
「こっちはこっちでなんとかします。なので、好きにやってください。……巻き込まれるのは嫌ですけど」
 
 まるで何かを分かっているような素振りをするアーラに、マキナは少し驚いた顔をした。しかしアーラは、実際何も分かっていなかった。
 何も分かってはいないが、とてつもなく面倒くさいことがこれから起こるのであろうということは察していた。だからこそ、協力を求められる前にそっちはそっちで勝手にやってくれという姿勢を見せておこうと思ったのだ。
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