11 / 22
仕事
しおりを挟む「あれ、涼子はもう帰ったの?」
「橅木! 今さっき帰っちゃったよ」
同期の橅木圭佑。
常にニコニコしていて取引先の相手に気に入られやすい。
見た目も暗いブラウンの短髪に切長の奥二重で見るからに体育会系と思える風貌だ。身長も高く手足も長くてスタイルはモデル並み。その見た目のおかげなのか(失礼か……)体育会系のノリのおかげなのか彼にとって営業も行うマーケティング部は天職なんじゃないかと入社当初から思っている。
チームは別なので今は仕事中に濃い絡みはないが涼香と橅木だけが同期なので昔はよく三人で仕事終わりに飲みに行ったりしていた。
今は涼子も家庭があるし、ここ数年行っていないが。
「んじゃ、真紀の隣に座るかな~」
「どうぞ」
さっきまで涼子が座っていた席に橅木が座り久しぶりお互いのグラスをカチンと合わせ小さく乾杯をした。
「真紀とこうやって飲むの久しぶりだよな」
「だね、もう歓迎会とか送迎会とかないと飲む機会ないもんね~」
「涼子も子供がいて大変だしな、俺と真紀だけ独り身じゃん」
「それはもう言わない方がいい……考えてはいけない」
はははと笑い合う。
橅木とは気を遣わずに話せるので楽で良い。
他の部署の女の人からも「爽やかイケメン~」とか言われモテているのに彼女がいないのが謎だ。
お互い飲んできたビールが空になった。
そろそろセーブしないと酔いそうなので白ワインをジンジャエールで割ったオペレーターを注文し、橅木はレモンサワーを頼んだ。
「どうよ、新人教育は大変か?」
「それが全く手が掛からなくてすぐに仕事覚えてくれるからかなりの即戦力になってくれてる」
「チャラそうに見えるけどそれがギャップなのか……こりゃ先が楽しみだな」
「そのうち橅木も抜かされちゃうかもよ」
「そんな事あり得ないですよ」
聞き覚えのある声が橅木とは反対の方から聞こえる。
いつの間にか隣に松田が座っていた。
ずっと松田は木島部長の隣にいると思っていたので、不意を突かれすぎて驚きと動揺を隠せなかった。
「お~松田! 一緒に飲もうぜ!」
「是非、今日は本当にありがとうございます」
近くにいる人達でもう一度乾杯をした。
カチャンとガラスの当たる音が鳴り響く。
「さっき真紀と話してたんだけど、松田仕事覚えるの早いらしいじゃん」
「いや、そんな事ないですよ、水野さんの教え方が上手なだけです」
……なんて猫被りな話し方をするんだろう。
世渡り上手とはこの事だ。
私を挟んで松田と橅木が話すものだからなんとも言えない両脇からの圧迫感に必死で耐えた。
少しでも姿勢を崩したら松田に肩がくっつきそうだ。
橅木は元からスキンシップが多い為肩を叩かれようが、腰を叩かれようが、なんなら頭を撫でられた事も何回もある。
しかしそれは年の離れた妹がいるらしくつい癖でやってしまうと昔本人が言っていた。
なので私も全く気にしなくなった。
今も私の肩に手をかけ松田に話しかけている。
けど良い加減重くなってきたのでそろそろ退かして欲しい。
「橅木、そろそろ肩が重いんだけど」
「あ、悪い悪い、つい真紀の肩の高さが丁度いいもんだから」
「肘置きにするな!」
「そんなに水野さんの肩がちょうど良いなら俺も乗せさせてもらおうかな」
冗談なのか本気なのか分からない表情で松田が言うものだから少しドキッとしてしまった。
橅木にはないこの緊張感はきっとキスされて、意識してしまっているからに違いない。
伸ばしてきた松田の手をビシッと手で払い「有料です」と言い放った。
周りにはこのやり取りがコントのようで面白かったらしく周りからドワっと笑いが起こった。
皆んなお酒がかなり進み酔っている人もチラホラ出てきていて、更に歓迎会は盛り上がりを見せた。
「水野さん、橅木さんかなり酔ってませんか?」
「ん? あー橅木はいつもあんな感じだから大丈夫よ」
「そうなんですね……」
本当に橅木が酔ったところを今まで見た事がない。いつも周りに気を使ってくれている。
橅木よりも自分の方が怪しい。少し寒気がしてきていた。
お酒を飲むと暑くなるどころかどんどん寒くなるタイプなので手足が冷えてくる。
手を温めようと自分の太腿の間に手を挟んで温めているとスルッと自分の太腿の間の手をすっぽり包んでしまう程の大きい手が私の冷たい指に絡んできた。
驚いて隣を見ると松田はなにもしていません、と平然な顔をしながら私の指に自分の指を絡めてくる。
周りに人がいる為やめて! とは声に出して言いづらい。
どうかバレませんように……
そう祈るだけで私は松田の指を拒否しなかった。
暖かくて触れているだけなのになぜか気持ちが良かった。
「真紀、顔が赤いけど珍しく酔ってる?」
「え? そう? いつもと変わらないと思うけど……」
「ふーん、じゃあ気のせいか、真紀の酔ったところって一回も見た事ないんだよなぁ」
私は人前で酔うのが苦手だ。
なんとなく自分の酔ってる姿を見られるのも恥ずかしいし、どうも昔からクラス会の幹事を任されたり、会社の飲み会の幹事もするので、酔った人を介抱する事が多い。
けどそれは外で気を張っているだけで、家に帰って気が抜ければ一瞬で酔いが回り一人で酔っ払いそのまま寝てしまう事も多々ある。
自分を人に曝け出すのが苦手だ。
特に弱い部分を見せるなんてもっての外。
なので私は外では酔ったところを人に見せない。
「……松田君、そろそろ部長の所に戻った方がいいんじゃない?」
早く戻ってこの手を離して欲しい。
もし誰かが見たりしたら大騒ぎになるだろう。
二人の体温が重なり合い手と手の間が少し汗ばんできた。
「まずいですかね~じゃあ戻ります、失礼しました」
「お~松田また飲もうなー!」
「はい」
やっと松田が席を立ち木島部長の元へ戻る。
離された手は少し汗ばんでいたせいかスースーする。
とにかくバレなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。
「橅木! 今さっき帰っちゃったよ」
同期の橅木圭佑。
常にニコニコしていて取引先の相手に気に入られやすい。
見た目も暗いブラウンの短髪に切長の奥二重で見るからに体育会系と思える風貌だ。身長も高く手足も長くてスタイルはモデル並み。その見た目のおかげなのか(失礼か……)体育会系のノリのおかげなのか彼にとって営業も行うマーケティング部は天職なんじゃないかと入社当初から思っている。
チームは別なので今は仕事中に濃い絡みはないが涼香と橅木だけが同期なので昔はよく三人で仕事終わりに飲みに行ったりしていた。
今は涼子も家庭があるし、ここ数年行っていないが。
「んじゃ、真紀の隣に座るかな~」
「どうぞ」
さっきまで涼子が座っていた席に橅木が座り久しぶりお互いのグラスをカチンと合わせ小さく乾杯をした。
「真紀とこうやって飲むの久しぶりだよな」
「だね、もう歓迎会とか送迎会とかないと飲む機会ないもんね~」
「涼子も子供がいて大変だしな、俺と真紀だけ独り身じゃん」
「それはもう言わない方がいい……考えてはいけない」
はははと笑い合う。
橅木とは気を遣わずに話せるので楽で良い。
他の部署の女の人からも「爽やかイケメン~」とか言われモテているのに彼女がいないのが謎だ。
お互い飲んできたビールが空になった。
そろそろセーブしないと酔いそうなので白ワインをジンジャエールで割ったオペレーターを注文し、橅木はレモンサワーを頼んだ。
「どうよ、新人教育は大変か?」
「それが全く手が掛からなくてすぐに仕事覚えてくれるからかなりの即戦力になってくれてる」
「チャラそうに見えるけどそれがギャップなのか……こりゃ先が楽しみだな」
「そのうち橅木も抜かされちゃうかもよ」
「そんな事あり得ないですよ」
聞き覚えのある声が橅木とは反対の方から聞こえる。
いつの間にか隣に松田が座っていた。
ずっと松田は木島部長の隣にいると思っていたので、不意を突かれすぎて驚きと動揺を隠せなかった。
「お~松田! 一緒に飲もうぜ!」
「是非、今日は本当にありがとうございます」
近くにいる人達でもう一度乾杯をした。
カチャンとガラスの当たる音が鳴り響く。
「さっき真紀と話してたんだけど、松田仕事覚えるの早いらしいじゃん」
「いや、そんな事ないですよ、水野さんの教え方が上手なだけです」
……なんて猫被りな話し方をするんだろう。
世渡り上手とはこの事だ。
私を挟んで松田と橅木が話すものだからなんとも言えない両脇からの圧迫感に必死で耐えた。
少しでも姿勢を崩したら松田に肩がくっつきそうだ。
橅木は元からスキンシップが多い為肩を叩かれようが、腰を叩かれようが、なんなら頭を撫でられた事も何回もある。
しかしそれは年の離れた妹がいるらしくつい癖でやってしまうと昔本人が言っていた。
なので私も全く気にしなくなった。
今も私の肩に手をかけ松田に話しかけている。
けど良い加減重くなってきたのでそろそろ退かして欲しい。
「橅木、そろそろ肩が重いんだけど」
「あ、悪い悪い、つい真紀の肩の高さが丁度いいもんだから」
「肘置きにするな!」
「そんなに水野さんの肩がちょうど良いなら俺も乗せさせてもらおうかな」
冗談なのか本気なのか分からない表情で松田が言うものだから少しドキッとしてしまった。
橅木にはないこの緊張感はきっとキスされて、意識してしまっているからに違いない。
伸ばしてきた松田の手をビシッと手で払い「有料です」と言い放った。
周りにはこのやり取りがコントのようで面白かったらしく周りからドワっと笑いが起こった。
皆んなお酒がかなり進み酔っている人もチラホラ出てきていて、更に歓迎会は盛り上がりを見せた。
「水野さん、橅木さんかなり酔ってませんか?」
「ん? あー橅木はいつもあんな感じだから大丈夫よ」
「そうなんですね……」
本当に橅木が酔ったところを今まで見た事がない。いつも周りに気を使ってくれている。
橅木よりも自分の方が怪しい。少し寒気がしてきていた。
お酒を飲むと暑くなるどころかどんどん寒くなるタイプなので手足が冷えてくる。
手を温めようと自分の太腿の間に手を挟んで温めているとスルッと自分の太腿の間の手をすっぽり包んでしまう程の大きい手が私の冷たい指に絡んできた。
驚いて隣を見ると松田はなにもしていません、と平然な顔をしながら私の指に自分の指を絡めてくる。
周りに人がいる為やめて! とは声に出して言いづらい。
どうかバレませんように……
そう祈るだけで私は松田の指を拒否しなかった。
暖かくて触れているだけなのになぜか気持ちが良かった。
「真紀、顔が赤いけど珍しく酔ってる?」
「え? そう? いつもと変わらないと思うけど……」
「ふーん、じゃあ気のせいか、真紀の酔ったところって一回も見た事ないんだよなぁ」
私は人前で酔うのが苦手だ。
なんとなく自分の酔ってる姿を見られるのも恥ずかしいし、どうも昔からクラス会の幹事を任されたり、会社の飲み会の幹事もするので、酔った人を介抱する事が多い。
けどそれは外で気を張っているだけで、家に帰って気が抜ければ一瞬で酔いが回り一人で酔っ払いそのまま寝てしまう事も多々ある。
自分を人に曝け出すのが苦手だ。
特に弱い部分を見せるなんてもっての外。
なので私は外では酔ったところを人に見せない。
「……松田君、そろそろ部長の所に戻った方がいいんじゃない?」
早く戻ってこの手を離して欲しい。
もし誰かが見たりしたら大騒ぎになるだろう。
二人の体温が重なり合い手と手の間が少し汗ばんできた。
「まずいですかね~じゃあ戻ります、失礼しました」
「お~松田また飲もうなー!」
「はい」
やっと松田が席を立ち木島部長の元へ戻る。
離された手は少し汗ばんでいたせいかスースーする。
とにかくバレなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜
長月京子
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリー中です。楽しんでいただけたら投票で応援していただけると嬉しいです】
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。
幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。
時は明治。
異形が跋扈する帝都。
洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。
侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。
「私の花嫁は彼女だ」と。
幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。
その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。
文明開化により、華やかに変化した帝都。
頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には?
人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。
(※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております)
第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞
第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。
ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる