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あらら

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記憶の欠片

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未来は、病院のベッドの中で目を覚ました。

佐智が、心配そうに顔を見つめてくる。

「お母さん、老けたね。」

「何、言っとる?もう少しで死ぬところだったんだよ、あんた。」

「死ぬ?階段から落ちて?」

「何、言っとる?薬大量に飲んで自殺未遂したんやで。」

未来は、首を横に振った。

「わたしは、そんな事しとらん。」

先生が来て

「松本未来さん、あなたは今、何歳ですか?」

と聞いた。

「十六歳です。」

未来の記憶は、十六歳に戻っていた。

「上野さんは、礼二さんはどこ?」

未来は、佐智を見て聞いた。

「あんた、本当に上野さんと…。」

佐智は、黙ってしまった。

佐智と先生が、これまでの事を未来に説明した。

「うそ…。わたしが二十三歳なんて…。」

未来は、頭を抱えた。

「未来、少しずつでも良いから現実を受け止めて。」

佐智が、悲しそうな顔をして言った。

理恵と翼が、駆け付けた。

「二人とも大人になったね。」

未来は、理恵と翼に言った。

「もう、二十三歳だからな。」

と答えた。

礼二が、病院に現れた。

「無事で良かったな。」

佐智は、礼二を嫌悪するような顔をした。

「未来、しばらくは田舎に帰るよ。」

「いえ、お母さん、十六歳に記憶が戻ったなら花火丸として小説を書いてもらいたいです。」

と礼二が言った。

「未来、小説書けるの?」

「書いてみたい。二十三歳のわたしの記憶が戻るかもしれないから。」

未来は、礼二をチラッと見て答えた。

「担当編集者は、わたしがするのでご心配無く。」

と礼二は終始、冷静な顔で言った。

理恵も翼も心配そうな顔をしながら病室を出た。

佐智も、仕事があるので、心配しながら帰って行った。

未来は礼二と二人っきりになると熱いキスを交わした。

「ずっと待っててくれたの?」

未来は礼二の真っ直ぐな瞳に聞いた。

「ああ…。でも、孤独に耐えられなくて仮初の結婚をした…。」

未来は、涙を流して礼二を包み込むように抱きしめた。

礼二は、叫びたい気持ちを抑えて未来の温もりを感じて熱い涙を流した。

「二人で、どこかに行こう。」

「ダメ。仮初でもあなたには家族がいる。」

「未来!お前以外、俺は何もいらないんだ!」

礼二は、未来を奪って何もかも捨てて生きていきたいと思っていた。

未来は礼二の涙を手で拭いて

にっこり笑った。

「残酷だな、未来、お前は。」

未来は、何も言わずに礼二の涙を押さえている。

「俺に、今まで通りの生活をしろと言うのか?」

未来は、両目から涙を流して首を縦に振った。

「そんな…。六年だぞ、六年間ずっとお前の記憶が戻るのを待ってたんだぞ?」

「ありがとう。」

未来は、礼二に優しく微笑んだ。

礼二は、歯を食いしばって泣く事しか出来なかった。

未来は、ふっと意識を無くしてベッドに倒れた。

「未来!未来!」

礼二は、未来を抱きしめて大声を出して泣き散らした。
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