英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠

文字の大きさ
上 下
57 / 68
第2章 主要人物として

第57話 「踊り子」

しおりを挟む


「不気味な場所ですね……」

 痩せた土地に到着した。
 空は暗いし、地面が硬いし、常に冷たい風が吹いていた。
 ここから後一回、転移術を使えばラケル師匠の故郷だ。
 ただ、とてもじゃないが住めた場所じゃない。
 一日もここで、次の転移発動可能時間を待つとなるとかなり辛い。

「こういった土地には多くの魔物が生息している。それもかなり危険性の高い個体がね」
「引き返すことは、もう出来ないんですよね?」
「引き返さないよ。寧ろ好都合だよ」

 あっさりと否定してからラケル師匠は、ある方向へと視線を向けた。
 師匠の視線を辿ると、その先には砂粒ぐらい小さな魔物がいた。
 ここから遠い位置にいるからそう見えているけど、ラケル師匠の言う通り、すぐに魔物を発見してしまった。

「鍛錬するには打って付けだ」

 ラケル師匠のニコと小さく笑ってから、指先から青い炎をボッと出した。
 その瞬間、周りの魔力が乱れていくような感じがした。
 青い炎は渦のように回り始め、次第に綺麗な青い球になりと、ボン!
 空へと打ち上げられた。

「竜種には鋭い爪、牙がある」

 上空を何メートルまで飛んだのかは分からないが、青い炎は段々と落下を始めた。

「しかし、奴らと対峙する際に一番注意になければならないのはブレス」

 青い炎は先ほど捕捉した魔物に、吸い込まれるようにして落下。
 数秒後、魔物に着弾した瞬間こちらに伝わるほどの衝撃が駆け巡った。
 凄まじい、キノコ雲まで出来ている。

「炎だよ。君には遠距離炎魔術『竜雫《ドラゴン・ティア》』を覚えてもらうよ」
「ドラゴン・ティア……俺には難しいような……」
「この魔術は人化したかつての竜人族が生んだ、必殺の奥義と言われている。君の言う通り、ただの人間なら習得するには長い年月を費やさなきゃならないだろう。だが君は違う」

 あ、そうか。
 一応、俺にも竜族の血が流れている。
 適応した魔術なら短期間で習得できるかもしれない。

「君は実質『竜人族』になったばかりの雛だ。長い間、君の父に頼まれて、力や衝動を長い間、封印していたからね」
「それも、そうですね……」

 すぐには覚えられない。
 その事実に落ち込む。
 人間、そう簡単にゴールまでは飛び越えられないか。

「俺、頑張ってみますね。昔、ラケル師匠言ってくれたじゃないですか。地道なところが、君の良いところだって。今回も同じです、気長に、地道に頑張りますから」

 拳を作り、自信満々に笑ってみせた。
 地道とは言ったものの、悠長に鍛えてはいられない。
 いつ刺客が襲ってくるのかも予測の出来ない状況にあることを自覚するんだ。
 未完成でもいい、形だけでも完成させよう。

「その前に野営の準備をしようか。夜は寒くなるが魔術で温められるし問題はない」
「はい!」



 その後、夜。
 ラケル師匠に先ほどの魔術を真似するように言われる。
 基本なら掴めている。
 青い炎をイメージして、指先に魔力を集中させる。

「……あれ、おかしいな」

 なのに、赤い炎が出来てしまう。
 それも指先ではなく手のひらでだ。
 慌てて手のひらを上に広げる。

「青い炎の総量となると、どうしても魔力が通常よりも多く必要になるからね。そう簡単に青い炎はできないか……」
「これ以上の火力をイメージしようとすると大惨事になる予感がして、どうしても躊躇っちゃうんです」

 せっかく建てたテントも燃えそうで怖い。

「それを制御するのが今回の目標だ。慣れるまで続けること、そして私は寝る」

 そう言いそそくさと自分のテントに入り、就寝するラケル師匠。
 俺も寝ようかと思ったが、ラケル師匠の言葉を別の意味に解釈して、続けることにした。
 そうだ、俺は魔力の制御自体が苦手だった。
 だから赤より高い温度の青に近づけようと意識しても、途中で魔力が零れて青い炎に到達できない。

「わー、随分と面白いことしてるッスね兄さん」

 声に振り返る。
 茶の短髪、赤銅の瞳の踊り子のような少女がこちらを覗き込んでいた。
 敵意は無いが、誰なのかは知らない。
 なぜ、女の子が一人音沙汰もなく現れたのか。
 瞬時に脳裏に一つの単語が浮かび上がった。

 ———女神、と。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...