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第2章 主要人物として
第51話 「男女平等パンチ」
しおりを挟む背中を向けたこと。
ライザが何かをしてくること予想してのことだ。
降り注ぐ雪をも解かす、濃厚な魔力の渦が背後で漂う。
犇めき合うように魔力がライザへと集結していく、その様子をただ伺うことはせず俺は走り出した。
「待てぇぇええええ!!」
悲鳴、というよりかは奇声が鼓膜を震わす。
袖が腕を覆っているため、すでに竜の鱗が皮膚を包んでいることをライザは知らない。
追われているのは確実。
それも殺意全快でだ、捕まればただでは済まされない。
目的は分からないが、今のライザが何を説明しても納得できそうにない。
ならばこちらも応戦するまでだ。
片方の足でブレーキをかけて振り返り、もう片方の足で踏み込む。
ライザとの距離は腕を伸ばせば届く距離。
拳を握りしめ、歯を食いしばる。
初恋の幼馴染だったという雑念は捨てろ。
今、目の前にいるのはビッチだ。
どんな男にも付いていくような尻軽女。
そんな奴には、
「こうだぁぁぁあああああ!!!!」
「はっ!?」
拳を右頬に叩きこむ。
まさかカウンターが放たれるとは思わなかっただろうが、もう遅い。
全身全霊の、長年俺を無き者にしたことへの怒りを全部込めた、男女平等のパンチだ。
食い込んでいく感覚、歯が折れる音、歪んでいく顔面。
さらに踏み込み、ライザを殴り飛ばす。
口内から流れる血を周辺にまき散らしながら、投げ捨てられたかのように吹き込んでいくライザ。
心なしか滑稽に見えた。
受け身も取れずにライザの体は積もった雪の大地へと突き刺さる。
「はぁ、はぁ……ぐっ」
殴った方の拳に激痛がした。
見て、そっと触れる。
グチャグチャに骨折していた。
どうやら殴ろうとした直後、反射的に防御魔術を張られたらしい。
それを砕いた瞬間に、同じく俺の拳も砕けてしまった。
普通に痛い、いつになっても痛覚に慣れない。
防御魔術で威力を軽減さてたが、手ごたえはあった。
これで立たれでもしたら、とっておきの邪眼を開眼するしかない。
しかし魔力をほとんど使い切ってしまったせいで使用できるかは定かではないが。
邪眼の開眼には数分もの時間が必要になる。
あの短時間では、とてもじゃないが出すことは出来なかった。
本当に不便な能力だ。
まず、この状況を報告すべきは校舎内で仕事をしている教師か、あるいは知り合いなら誰でもいい。
リュートの関係者さらの襲撃があったことを話せば……待て。
どうして危機に瀕しているこの状況でラケル師匠やリールは駆けつけてくれなかったのか、今になって思う。
そもそも、静かすぎる。
強風の音と、それに吹かれる雪粒が視界を遮るせいで断言できないが、人の気配がしない。
それよりも、此処はどこだ?
何十回も通学してきた道を利用したんだ。
それなのに建物の影すら視認できなかった。
白い世界が続くだけで、そこは完全に見覚えのない場所だった。
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