英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠

文字の大きさ
上 下
48 / 68
第2章 主要人物として

第48話 「メインヒロインを選んだ理由」

しおりを挟む


「ラケル師匠……気持ちはとても嬉しいですが、先生と一緒には逃げられません」

 これから先、どのようなことが起きようと、自分を心から愛してくれたドロシーを置いていく真似はしない。友達も出来た、来年も彼らと楽しく過ごしていきたい。
 もちろん、そこにはラケル師匠も一緒だ。

「俺が愛しているのはドロシーです。これから先もずっと、この気持ちが揺らぐことは決してありません」

 断言するように、俺は答えた。
 ラケル師匠は口をつむぎ、両目からポタリと涙を流した。

「ラ、ラケル師匠!?」
「なぁに、大丈夫。好きな男の子にフラれた乙女は皆泣くさ」
「だけど、とても珍しくて……」
「私も女の子だ、君が思っている以上にか弱い」

 涙を拭い、彼女は俺の手を握った。

「ヘリオスは好きに生きるといい。私は君の師匠だ、いつでも頼ってくれ」

 強がるようにラケル師匠はそう言った。
 傷だらけの手だ。
 今まで過酷な旅をしてきた証である。
 孤独で、誰に頼ることなく旅をしてきたのだ。
 か弱いなどと自分では言っているが、俺の知る人物ではラケル師匠が一番強い。
 俺にとっては偉大で憧れの存在なのだ。

「……はい」
「君が私の弟子で……良かったよ」

 だから、もう泣いている姿は見たくない。
 これからは師弟の関係で、傍にいて欲しい。
 優しく握りしめてくれた手に応えるためにも、もう自分自身を蔑むのは辞めにしよう。





 その後。
 ラケル師匠とのデートを楽しんだ。
 町で買い物をしたり、劇を観たり、食事をしたり。
 悪いことも忘れるほど楽しんだ後に二人で魔術学院に帰った。
 時間的にもう暗い、生徒の門限は19時までだ。
 それ以降に帰らなければ罰としてトイレ掃除、学食の手伝い、清掃だ。
 一番重いときの罰は停学。

 ラケル師匠は特別生の担任だ。
 生徒に校則を破らせるわけにはいかない。

「寒さなんて気にならないぐらい、とても良い一日だったよ……へっくし!!」

 と強がりながらもラケル師匠はクシャミをした。
 可愛いクシャミだ。

「朝と比べられないぐらい夜は気温が下がるので、早めに帰りましょうか」
「そうだね、そうしよう……」

 俺も、歯をガタガタさせるほど寒がっていた。
 特別生の学寮の門前で別れることにした。
 ラケル師匠の耳元と鼻の先が真っ赤になっていた。

 俺も同じ感じの顔になっているのかもしれない。
 それでも別れの際は強引な笑顔を作る。

「またね」
「はい、また」

 手をふる彼女に手を振り返してから、その場を後にする。
 自分の部屋がある二階に上り、ポケットから鍵を取り出す。

「ん……?」

 視線を感じ、門の方へと視線を向ける。
 しかし、そこには誰もいなかった。
 気のせいかもしれないけど警戒しつつ部屋の扉を開ける。

「おかえりなさい!!」
「門限ギリギリまで何処にいっていたんだよ?」
「ずっと待っていたんだぞ」

 部屋の中にはドロシー、ギルバート、リール、アラタがいた。
 テーブルには包装した箱や豪勢な料理が並べられており、まるで祝いごとをする直前のようだ。

「ど、どうしてみんな俺の部屋に……?」
「寮母さんに許可を貰ってね、合鍵でヘリオス君の部屋をあけてもらったの。ここ最近ずっと酷いことが続いていたし、皆でヘリオス君を労おうって意見が出てね、内緒にしてごめんね」

 遠慮するようにドロシーは言った。
 後ろで同じく男子二人が申し訳なさそうにする。
 リールは変わらずに無表情を貫いていた。

「迷惑、だったかな?」
「迷惑……だなんて思うはずがないじゃないか。ただ自分の為にここまでしてくれるのはさすがに気が引けるっていうか……」

 苦笑いしながら答える。
 その答えに、三人は不満そうな顔を浮かべた。
 リールは石のように動かず、無表情だ。

「ヘリオス君だから良いのよっ! もっと自信を持って!」

 ドロシーの瞳は、とても真っ直ぐだった。
 彼女のこういう性格に俺は惹かれたのだ。
 班別対抗戦の時も、彼女はリュートではなく俺を見ていてくれたんだ。
 この過酷な物語でなんの役割も持たない、俺にだ。
 アラタやギルバート、リール、間近にいる誰か、皆には十分なほどの素質があった。
 俺にはない、何かを持っていた。

 それでも彼女は、止まっていた時間を動かしてくれたのだ。
 こんなにも嬉しいことはない。

「ありがとうドロシー、みんなっ……」
「あっ……」

 皆の目を気にすることなくドロシーを抱きしめた。
 強い力で、彼女の細くて小さな体を包み込む。
 彼女は拒絶せず受け入れ、抱きしめ返してくれた。

 自然と、温かい涙が目元から零れた。
 泣いていた。
 存在が認められていることを改めて分かって、情けなく泣いていたのだ。

「……もうっ、私がいなきゃダメなんだから」

 背中をさすられ、愛おしそうにドロシーは呟いた。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...