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第2章 主要人物として
第48話 「メインヒロインを選んだ理由」
しおりを挟む「ラケル師匠……気持ちはとても嬉しいですが、先生と一緒には逃げられません」
これから先、どのようなことが起きようと、自分を心から愛してくれたドロシーを置いていく真似はしない。友達も出来た、来年も彼らと楽しく過ごしていきたい。
もちろん、そこにはラケル師匠も一緒だ。
「俺が愛しているのはドロシーです。これから先もずっと、この気持ちが揺らぐことは決してありません」
断言するように、俺は答えた。
ラケル師匠は口をつむぎ、両目からポタリと涙を流した。
「ラ、ラケル師匠!?」
「なぁに、大丈夫。好きな男の子にフラれた乙女は皆泣くさ」
「だけど、とても珍しくて……」
「私も女の子だ、君が思っている以上にか弱い」
涙を拭い、彼女は俺の手を握った。
「ヘリオスは好きに生きるといい。私は君の師匠だ、いつでも頼ってくれ」
強がるようにラケル師匠はそう言った。
傷だらけの手だ。
今まで過酷な旅をしてきた証である。
孤独で、誰に頼ることなく旅をしてきたのだ。
か弱いなどと自分では言っているが、俺の知る人物ではラケル師匠が一番強い。
俺にとっては偉大で憧れの存在なのだ。
「……はい」
「君が私の弟子で……良かったよ」
だから、もう泣いている姿は見たくない。
これからは師弟の関係で、傍にいて欲しい。
優しく握りしめてくれた手に応えるためにも、もう自分自身を蔑むのは辞めにしよう。
その後。
ラケル師匠とのデートを楽しんだ。
町で買い物をしたり、劇を観たり、食事をしたり。
悪いことも忘れるほど楽しんだ後に二人で魔術学院に帰った。
時間的にもう暗い、生徒の門限は19時までだ。
それ以降に帰らなければ罰としてトイレ掃除、学食の手伝い、清掃だ。
一番重いときの罰は停学。
ラケル師匠は特別生の担任だ。
生徒に校則を破らせるわけにはいかない。
「寒さなんて気にならないぐらい、とても良い一日だったよ……へっくし!!」
と強がりながらもラケル師匠はクシャミをした。
可愛いクシャミだ。
「朝と比べられないぐらい夜は気温が下がるので、早めに帰りましょうか」
「そうだね、そうしよう……」
俺も、歯をガタガタさせるほど寒がっていた。
特別生の学寮の門前で別れることにした。
ラケル師匠の耳元と鼻の先が真っ赤になっていた。
俺も同じ感じの顔になっているのかもしれない。
それでも別れの際は強引な笑顔を作る。
「またね」
「はい、また」
手をふる彼女に手を振り返してから、その場を後にする。
自分の部屋がある二階に上り、ポケットから鍵を取り出す。
「ん……?」
視線を感じ、門の方へと視線を向ける。
しかし、そこには誰もいなかった。
気のせいかもしれないけど警戒しつつ部屋の扉を開ける。
「おかえりなさい!!」
「門限ギリギリまで何処にいっていたんだよ?」
「ずっと待っていたんだぞ」
部屋の中にはドロシー、ギルバート、リール、アラタがいた。
テーブルには包装した箱や豪勢な料理が並べられており、まるで祝いごとをする直前のようだ。
「ど、どうしてみんな俺の部屋に……?」
「寮母さんに許可を貰ってね、合鍵でヘリオス君の部屋をあけてもらったの。ここ最近ずっと酷いことが続いていたし、皆でヘリオス君を労おうって意見が出てね、内緒にしてごめんね」
遠慮するようにドロシーは言った。
後ろで同じく男子二人が申し訳なさそうにする。
リールは変わらずに無表情を貫いていた。
「迷惑、だったかな?」
「迷惑……だなんて思うはずがないじゃないか。ただ自分の為にここまでしてくれるのはさすがに気が引けるっていうか……」
苦笑いしながら答える。
その答えに、三人は不満そうな顔を浮かべた。
リールは石のように動かず、無表情だ。
「ヘリオス君だから良いのよっ! もっと自信を持って!」
ドロシーの瞳は、とても真っ直ぐだった。
彼女のこういう性格に俺は惹かれたのだ。
班別対抗戦の時も、彼女はリュートではなく俺を見ていてくれたんだ。
この過酷な物語でなんの役割も持たない、俺にだ。
アラタやギルバート、リール、間近にいる誰か、皆には十分なほどの素質があった。
俺にはない、何かを持っていた。
それでも彼女は、止まっていた時間を動かしてくれたのだ。
こんなにも嬉しいことはない。
「ありがとうドロシー、みんなっ……」
「あっ……」
皆の目を気にすることなくドロシーを抱きしめた。
強い力で、彼女の細くて小さな体を包み込む。
彼女は拒絶せず受け入れ、抱きしめ返してくれた。
自然と、温かい涙が目元から零れた。
泣いていた。
存在が認められていることを改めて分かって、情けなく泣いていたのだ。
「……もうっ、私がいなきゃダメなんだから」
背中をさすられ、愛おしそうにドロシーは呟いた。
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