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第1章 脇役の舞台入り
第10話 「互いを想うこと」
しおりを挟む学院が終わり男子寮の自分の部屋に帰る。
二段ベットの下が俺のテリトリー、荷物を置いて飛び込むように寝転がる。
「ヘリっち、おかえりー」
上段には先に帰ってきていたルームメイトの同級生アラタが声をかけてきた。
糸目でこちらを見下ろしヘラヘラと笑っている。
「なんで、そんなに嬉しそうなの?」
「だって噂になっているんだぜ」
噂……。
何のことだ?
学院長がカツラだったとかそんなやつ?
「なーに訳の分からない顔をしているんだよ、自分のことなのによー」
「まさか、この俺が噂になるような存在感があるとでも思っているのか? 別になにかしたわけじゃないし……」
学院での出来事を思いだす。
もしかして、そのことじゃないよな……。
考えこんでいると、アラタがすぐに答えを口にしてくれた。
「は? 英雄さまに喧嘩売ったくせに?」
事実からかけ離れているんですけど!
噂って流れる度にこうも変化するものなの!?
「やるじゃん。お前をただの無個性インキャだって勘違いしていたけど、まさかの悪役だったとは! 見損なったよ!」
(前半と後半の温度差!!)
軽めに枕をアラタに目掛けて投げるも簡単に避けられてしまう。
枕は天井に当たり、小さな亀裂が走った。
「いいよ、俺はもう寝る!」
「へーい。おやすっ」
こいつに構っているだけでも疲れてしまう。
友達でもないし、これ以上のお喋りは時間の無駄だ。
ミシミシと軋む上段の裏側を見つめていると、脳裏を過るのは彼女の微笑む姿。
リュートに見せることのなくなった特別な笑顔。
その特別を俺にだけ見せてくれていたのだ。
そんな勝手な解釈をしていると唇を綻ばせてしまっていた。
『ほら、さっそくここ解釈違いでーす』
彼女の声が耳元に響く。
ああ、そうだよな。
そんな甘い展開、所詮脇役の俺に訪れるはずもないし、きっと全部勘違いなんだろう。
何かしらのキッカケで起こってしまったリュートとドロシーの喧嘩に巻き込まれただけかもしれない。
次の班別対抗できっと悪役として俺は散るのだろう。立ち直れないほどまで徹底的に……。
————
魔術学院。
地下訓練所でひとり残る少女の姿があった。
ボロボロになりながらも汗を拭い、限界を迎えるまで彼女は特訓を続けた。
「負けられない……私が……彼を守らないと……もっと、強くならないと!」
それは、ある少年が傷つかないため。
自分よりも遥かに強い相手を打ち負かせるほどの力を求め、今宵も訓練所で轟音が止まずに響き渡るのだった。
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