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第7話 「物語に介入してしまった脇役」
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図書館で勉強をしていた時のこと。
隣の空いている椅子に誰かが座ってきた。
甘い匂いを放つその神々しい存在はドロシーである。
「今日はお一人で勉強かしら?」
すごいナチュラルに話しかけられたけど周りからみたら違和感しかない組み合わせだ。
美少女が名前のなさそうな登場人物の隣に座るその光景を見ていた、周りで勉強をしている生徒たちは頭に疑問符を浮かべた。
「もうすぐ座学の試験だから……」
ぶっきらぼうに答えるも彼女はお構いなしに詰め寄ってきた。
「ぐわっ!?」
「もうっ、慌てないでよ。間違っている部分がないかの確認をするだけ……ほら、さっそくここ解釈違いでーす」
唖然とした。
肩が密着するほどの距離まで近づいてきたドロシーになす術がなく、身を任せるしかなくなってしまったからだ。
「ふふっ、分からない部分は私がじっくり教えてあげるから、遠慮なくどんどん聞いてね」
こんなの、集中できるか。
本を閉じて図書館から抜け出そう、こんなの付き合っていたら身がもたない。
立ち上がろうとしたその瞬間———
先に行動を起こしたのはドロシーである。
何かを感じ取ったのだろうか、図書館の出入り口の方を一点に見つめ、あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべる。
「……もっとヘリオスくんと話していたかったのに」
彼女はそう言い残し、反対側にある職員用の出入り口へと逃げていってしまった。
恐ろしく速い退室、俺だから見逃しちゃったね。
いや、言っている場合か。
移動速度を加速させる魔術で音を立てることなく、この場から去ったのだ。
通常、加速魔術を増やした状態で走ると周囲に魔力が衝撃のように広がるのだが、彼女のあまりにも高い技術のおかげか音すらしなかった。
ドロシーの見つめていた方へと視線を向けると、図書館に入ってくる男を見かける。
困った顔を浮かべ周りを見回していた。
リュートだ。
「あれ、気のせいか? 今さっき彼女がここにいたような感じがしたけど……」
まさかドロシーは奴から逃げたのか?
そんな筈が、メインヒロインが主人公を避けながら他の男と喋る展開なんて読んだことがないぞ。
いや待て、だったら彼女が慌てながら逃げ去った理由が分からなくなってしまう。
仮にリュートから逃げたとしたら、彼に存在を感じ取られないようにしながらわざわざ俺に会いにきた、ということになる。
まさか、笑けてくる。
そんな幻想ありえるわけないだろ、ハハ……
「……」
だんだん自分の言葉を肯定できなくなっているような気がする。
あってはならない事態だ。
百パーセントの確信はないがドロシーが俺という存在を異性として気にかけているとしたら、物語に介入するということになる。
そして脇役が主人公とヒロインズ達の恋愛ストーリーに割り込んだら、まず無事ではいられないだろう。
しかも一番重要な立ち位置である。
ドロシー(メインヒロイン)をかけたリュートとの勝負にもならない一騎打ちが行われてしまう。
他にあったのかもしれない裏ストーリーが脇役の存在により、着実に進行していた———
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