英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠

文字の大きさ
上 下
35 / 68
第2章 主要人物として

第35話 「襲撃者らと、単独行動」

しおりを挟む


 朝の登校の話。
 絡まれたことをドロシー達に話した日以来、通学路を歩く俺の周囲を三人の人物が囲うようになっていた。

 一人目。
 常時ポーカーフェイスの護衛リール。
 二人目。
 腕をガッシリ抱いている少女ドロシー。
 三人目。
 誰も寄せ付けない形相をした不良ギルバート。

 リールはさておき俺のためにわざわざ時間を合わせてくれた二人には申し訳ない。初めは断ったのだがギルバートにダチを守るのが俺のポリシーだと、格好いい台詞を投げかけられたので思わずキュンとなってしまった俺は了承するしかなかった。

 周りから見たら最強のメンツ揃いだろう。
 俺は完全に浮いているけど。
 歩くたび他に通学している生徒らに見られコソコソ話をされて恥ずかしい。

「———あの、みなさん。ちょっと厳重すぎやしませんか?」
「初日から頭をかち割られそうになった奴が何言ってんだよ。たとえ絡まれたとしても味方が多い方が効率的だ。お前に手ぇ出す奴は俺がまとめてぶっ殺してやる」

 獲物を狙う猛獣のようにあたりに注意をむけるギルバートが言った。確かに一理あるが、このメンツなら一人に護衛をされても十分なぐらいだ。

「ぶっ殺さなくてもいいですから」
「ええ、半殺しにしましょ」
「おお! なるほど!」

 穏便に済ませるかと思いきやドロシーも恐ろしい提案をし、それに納得するギルバート。
 ダメと言っても引き下がってくれないだろう。むしろ感謝した方がいいのでは、俺のためにやっていることだし。

(……過激だけど)

「私一人だけで十分です。部外者は速やかに離れてください、危険です」

 二人を邪魔に思ったリールが遠ざけようとする。その言葉を気に入らなかったのかドロシーとギルバートが明らかに不機嫌になって彼女に詰め寄った。

「私たちは彼のクラスメイトなのよ。関係ないどころか、恋人友人関係なんですけど。守る権利は私たちにだってあるわ」
「同感だ。そういうお前は主人さまに尻尾を振って親しくもない相手を守っていて虚しくならねぇのか?」
「仕事ですので」
「なら今日はお休みだ、どっかに行きな」
「敵ですね、貴方も排除いたしましょ」

 ギルバートとリールが戦闘態勢に入った。初対面なのに何故こんな喧嘩するのかは謎だが、身を挺して止めにはいる。

「二人ともお気持ちは有難いですが。他の生徒の目もありますし、リールさん学院長に怒られてしまいますよ?」
「うっ……確かに」
「ギルバートさんもただでさえ問題を起こして特別教室に移動されたのですから、これ以上騒ぎを起こしたらマズイですよ」
「……お前が言うなら」

 なんとか納得してくれたので一安心だが。ドロシーはどうだろうか、さっきから何処かをぼーっと一点に見つめているのだけど何かあるのか。
 と彼女の視線を辿ると。



「ヘリオスくん避けて!!」

 ドロシーに押される。同時に横髪をなにかが削った。その何かが背後にあった木に着弾し広範囲の爆発を起こす。ギルバートがとっさに盾になってくれた。

 ドロシーもリールも防御魔術で周囲の生徒らの身を守り、おかげで爆発の被害をゼロ人に抑えることができたが、完全に俺単体を狙った攻撃だった。
 誰なのかと飛んできた方向へと視線を向ける。そこには五年目の制服を着た上級生徒が満更もない顔で立っていた。
 アイツが攻撃をしたのか。なぜ周りの目がある通学路で仕掛けてきたという疑問の前にドロシーの周囲に膨大な魔力が集まっていた。
 彼女を中心に曇った雲が歪な形を成しながら聞き覚えのある音を響かせた。

「———唸れ天空の支配よ、者雷電《グロームレイ》」

 辺りが光に包まれたのは一瞬の出来事。
 視界がもとの状態に戻るともに響き渡るのは身体が震えるほどの雷鳴。
 自分らに攻撃してきた生徒にドロシーは雷を落としたのだ。

「……仕留め損ねたわ」

 息を呑み雷の落とされた位置を見るが残骸はない。ドロシーも殺さないよう威力を抑えたつもりなのだろうが仇になったようだ。
 すぐ近くにいないのかを探すため周囲に目を向け警戒をするが姿や気配が完全になくなっていた。




「——— !!!」

 しかし油断していたところを狙われたのかすぐ背後にある建物の屋根からの攻撃を受けてしまう。間一髪で気づいたリールが自身の身を挺して壁になった。いつもの無機質な彼女はそこにはいなかった。

 圧縮された風の弾丸がリールの胸部に命中した。
 血飛沫が飛び散り風の弾丸が四散する。

「がっ……は……はぁ……」

 俺を守った少女はモロに攻撃を受けた胸部から流れる血の量を出来るだけ減らすために手で押さえながら、倒れまいと堪えていた。
 その後姿があまりにも痛々しかった。

「ボサッとしてんじゃねぇぞヘリオス!!」

 リールに声をかけようとしたところをギルバートが割り込み腕を掴まれる。

「でも……」
「相手は一人じゃなかった! 複数だ!! まだどこかに潜んでいるかもしれねぇ!!」

 そうだアイツらの狙いは俺だ。むしろこの場に留まっているほうが周囲の危険に繋がる。俺のせいでリールが……。





「ドロシー、ギルバートさんごめん!! リールさんを頼んだ!!」
「え、ヘリオスくん!?」
「おい何処に行くんだよ!!」

 三人から離れるために全力疾走で人気の少ない場所へと向かう。ここからは完全な単独行動だ。
 いつものように守ってくれる人は居ない。

 追っている、後ろから複数人の気配が。
 考えろ、考えろ、この状況を覆すのための効率的な発想を思いつかなければ、死ぬかもしれないんだ。

 真正面から、このまま立ち向かっても返り討ちにされるだけだ。



 ———その竜なんだが、彼こそが君の父親なんだよ。


 走馬灯のように流れる記憶の中で、つい最近ラケル師匠がしてくれた話を思いだす。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...