21 / 68
第2章 主要人物として
第21話 「可愛らしい師匠の嘆き」
しおりを挟む体内構造を正常に修正。
聖剣との干渉によりあらゆる呪い、封印、魔力量、魔術の制限解除には長い期間が必要となる。
暗闇の中、ある男に語りかけられ、逆らえずそれに了承してしまった。
『力の覚醒』が開始された。
————
西方の海を超えると、そこにはかつて魔王が支配していた『魔の大陸』があった。
人族とは異なる種族『魔族』は君主を失い、長きに渡る戦争が終わりを迎えるかに見えた。
しかし魔王が死んだあとを想定して身を潜め、様子を伺う六人の魔族がいた。
『六芒使徒《ろくぼうしと》』
魔力感知を阻害する地下空間で六人の使徒が円卓を囲み会議をしていた。
その最中、どこからか流れ込んできた膨大な力に全員が震えた。
この空間は内側からならば、いくら力を奮っても外界の人間に感じとられることはないが、逆に外側の気配を感じ取れるように施されていたのだ。
吸血の使徒『カーミラ』
明星の使徒『ルーディン』
糸操の使徒『レヴィア』
朏の使徒『エンリル』
清純の使徒『ビリーゼバブ』
白の少女『ミア』
「ふむ、私たちと同類の力が何処かで覚醒したようですね」
燕尾《えんび》服を着たビリーゼバブが言う。
その隣で退屈そうに指でテーブルを小刻みに叩く赤いドレスのカーミラはため息を吐いた。
「なら誰か偵察に行けば? 敵なら殺して味方なら引き入れれば済む話でしょ」
「カミーラさんは簡略化させすぎです」
「難しく考えるのが面倒なだけよ」
ビリーゼバブは諦めた様子で肩をすくめた。
魔王の使徒だからといって皆が賢いという訳ではない、強さゆえに選ばれた集団なのだ。
千年前からの顔ぶれなので互いの強さを全員が把握していた。
そのため使徒内での上下関係が存在せずとも出しゃばった行動をとる者は一人もいない。
「では———」
その中でも随一の権能を有した黒髪の女性ミアが席から立ち上がり、使徒を一周して見回す。
「……偵察に適任な者を余が選ぶとしよう」
白の少女と呼ばれているが禍々しい闇のオーラを放つ彼女はどちらというと黒の少女と呼ばれる方がしっくりくるだろう。
しかし誰も有無を言わない。
『白の少女』でなければ存在が肯定されないからである。
————
魔術学院アルカディアの正門。
警備員が面を食らったような表情を門の前に立つ、ある人物へと向けていた。
「あ、あなたは……!」
学院の敷地内。
正門付近にいる生徒らの注目の的にもなっていた。そのとある人物から漂う魅力は、皆に興味を無意識に抱かせてしまうほどである。
「お人形さんみたい」
「ちっちゃくて、めんこいわな」
「俺、話かけようかな~?」
纏めた淡い紫髪をフードの裏に隠す、愛くるしい水色の瞳をもつ小柄な少女に全員が心を奪われていた。
誰かを探しているのか少女は周りを確認するような仕草をみせた。
「もし、そこの人ちょっといいかい?」
枯れた葉っぱをホウキで集めておる清掃員の服を着た青年に少女は声をかけた。
青年は穏やかな表情で「なんだい?」と言葉を返す。
「医務室に行きたいのだけれど、場所が分からなくてね。久々なんだ、ここに来るのが」
「ああ……医務室なら一階の西口近くにあるから通ればすぐに見つかると思うよ。そこで何か用でもあるのか?」
「ええ、あるとも」
微笑みながら返す少女に青年は心を奪われる。
あまりにも眩しく、神秘に等しい笑顔が青年の目を泳がせた。
ずっと直視をしたままだと尊死する自信があったからだ。
「感謝するよ、ありがとう」
名前を聞く前に少女は走り去ってしまった。
清掃の仕事を任せられた青年リュートは思う、あの子こそが運命の相手であると。
————
医務室に到着した少女はノックもしないまま扉を開けると、ちょうど女子生徒が男子生徒に皮を剥いたリンゴを「あーん」させている光景を目の当たりにする、
「あっ……がっ……」
石像のように固まった少女の頬に亀裂が生じる。
愛弟子のヘリオスと逢いたいがために遥々、遠い土地から旅をしてやってきたというのに、完璧といっても過言ではないほどの可愛い女子と彼がイチャついていたからだ。
女魔術師ラケル・キャロルは心の底から嘆いた。
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる