英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠

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第2章 主要人物として

第21話 「可愛らしい師匠の嘆き」

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 体内構造を正常に修正。
 聖剣との干渉によりあらゆる呪い、封印、魔力量、魔術の制限解除には長い期間が必要となる。
 暗闇の中、ある男に語りかけられ、逆らえずそれに了承してしまった。

『力の覚醒』が開始された。




 ————




 西方の海を超えると、そこにはかつて魔王が支配していた『魔の大陸』があった。
 人族とは異なる種族『魔族』は君主を失い、長きに渡る戦争が終わりを迎えるかに見えた。
 しかし魔王が死んだあとを想定して身を潜め、様子を伺う六人の魔族がいた。

『六芒使徒《ろくぼうしと》』
 魔力感知を阻害する地下空間で六人の使徒が円卓を囲み会議をしていた。
 その最中、どこからか流れ込んできた膨大な力に全員が震えた。

 この空間は内側からならば、いくら力を奮っても外界の人間に感じとられることはないが、逆に外側の気配を感じ取れるように施されていたのだ。

 吸血の使徒『カーミラ』
 明星の使徒『ルーディン』
 糸操の使徒『レヴィア』
 朏の使徒『エンリル』
 清純の使徒『ビリーゼバブ』
 白の少女『ミア』

「ふむ、私たちと同類の力が何処かで覚醒したようですね」

 燕尾《えんび》服を着たビリーゼバブが言う。
 その隣で退屈そうに指でテーブルを小刻みに叩く赤いドレスのカーミラはため息を吐いた。

「なら誰か偵察に行けば? 敵なら殺して味方なら引き入れれば済む話でしょ」
「カミーラさんは簡略化させすぎです」
「難しく考えるのが面倒なだけよ」

 ビリーゼバブは諦めた様子で肩をすくめた。
 魔王の使徒だからといって皆が賢いという訳ではない、強さゆえに選ばれた集団なのだ。
 千年前からの顔ぶれなので互いの強さを全員が把握していた。
 そのため使徒内での上下関係が存在せずとも出しゃばった行動をとる者は一人もいない。

「では———」

 その中でも随一の権能を有した黒髪の女性ミアが席から立ち上がり、使徒を一周して見回す。

「……偵察に適任な者を余が選ぶとしよう」

 白の少女と呼ばれているが禍々しい闇のオーラを放つ彼女はどちらというと黒の少女と呼ばれる方がしっくりくるだろう。
 しかし誰も有無を言わない。
『白の少女』でなければ存在が肯定されないからである。






 ————





 魔術学院アルカディアの正門。
 警備員が面を食らったような表情を門の前に立つ、ある人物へと向けていた。

「あ、あなたは……!」

 学院の敷地内。
 正門付近にいる生徒らの注目の的にもなっていた。そのとある人物から漂う魅力は、皆に興味を無意識に抱かせてしまうほどである。

「お人形さんみたい」
「ちっちゃくて、めんこいわな」
「俺、話かけようかな~?」

 纏めた淡い紫髪をフードの裏に隠す、愛くるしい水色の瞳をもつ小柄な少女に全員が心を奪われていた。
 誰かを探しているのか少女は周りを確認するような仕草をみせた。

「もし、そこの人ちょっといいかい?」

 枯れた葉っぱをホウキで集めておる清掃員の服を着た青年に少女は声をかけた。
 青年は穏やかな表情で「なんだい?」と言葉を返す。

「医務室に行きたいのだけれど、場所が分からなくてね。久々なんだ、ここに来るのが」
「ああ……医務室なら一階の西口近くにあるから通ればすぐに見つかると思うよ。そこで何か用でもあるのか?」
「ええ、あるとも」

 微笑みながら返す少女に青年は心を奪われる。
 あまりにも眩しく、神秘に等しい笑顔が青年の目を泳がせた。
 ずっと直視をしたままだと尊死する自信があったからだ。

「感謝するよ、ありがとう」

 名前を聞く前に少女は走り去ってしまった。
 清掃の仕事を任せられた青年リュートは思う、あの子こそが運命の相手であると。




 ————




 医務室に到着した少女はノックもしないまま扉を開けると、ちょうど女子生徒が男子生徒に皮を剥いたリンゴを「あーん」させている光景を目の当たりにする、

「あっ……がっ……」

 石像のように固まった少女の頬に亀裂が生じる。
 愛弟子のヘリオスと逢いたいがために遥々、遠い土地から旅をしてやってきたというのに、完璧といっても過言ではないほどの可愛い女子と彼がイチャついていたからだ。

 女魔術師ラケル・キャロルは心の底から嘆いた。
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