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第13話 「終焉の人類史」

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「平気ですかヒューゲルさん」

 野次馬に囲まれた血塗れのヒューゲル。
 それを覗き込む、一人の魔術師がいた。
 周囲が止まっていた。

 葉が地面に落下しない。
 鳥が同じ位置で停止している。
 大勢の国民たちが誰一人として動いていなかった。
 世界の時は、止まっていたのだ。

「悪いことをしたら全部返ってくるって、あんなにも忠告をしたのに言うことを聞かない貴方が悪いんですよ」

 ニコリと笑う魔術師の存在に気がつき、ヒューゲルは開くのもやっとな瞼を開けてみせた。
 それでも起き上がらない。
 ほとんど死んでもおかしくない状態だ。
 勇者という称号がただの飾りではないぐらい、この男は生命力が高いのだ。

「………ぁ……」
「おっと、それではまともに喋ることも出来ませんよね。失敬」

 魔術師は杖の『魔石』を輝かせヒューゲルの胸元に当てる。

「創造の主たる生命の源よ、彼の者に再び立ち上がる力を与えよ」

 魔術師が詠唱をすると、ヒューゲンの傷はみるみると治っていった。
 その回復速度にヒューゲルは唖然としながら起き上がる。

「さてさて」

 魔術師は視線を合わせるように座った。
 杖をカンッと鳴らせながら愉快そうに微笑んでいた。

「久々の再会で募る話もあるでしょう」
「………お前と話すことなんかねぇよ」
「そうですかね。僕の目は節穴でしょうか、君が深い憎しみを抱いているように見えているのですが、まさかこのまま負けを認めるとは言わないですよね?」

 結界の魔術師アルフォンス。
 結界も使わずに聖剣の魔力を弾く魔力。
 いまだに信じられない。
 勇者の力を有してなお、この体たらく。

 あっていいはずがない。
 全てを飲みこむほどの憎しみがヒューゲルに宿っていた。

「俺は負けてない……手加減してやっているのをいいことに好き勝手にやりやがって」

 魔術師は不適な笑みを浮かべた。
 そして告げた。

「彼らの幸せ、人類の幸せを拒むのなら必要のない犠牲ですねキミ。それじゃ」

 視界が真っ白になった。
 唐突すぎる状況に混乱しながらヒューゲルは辺りを見回した。
 そこなは何もない。
 出口も、入口も。

 ひたすらに続く無の空間。
 絶望してヒューゲルは跪いた。

 最後に聞こえたのは魔術師の笑い声である。


 ———さて、始動するとしますか。
 理想郷をかけた最後の戦いを。

 ———終焉の人類史を。

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