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第25話 「悪魔vs死神」
しおりを挟む丈夫な身体で良かった。
いまは亡き両親に感謝しながら、後から落下してくる巨漢を見上げた。
とっさに防いでいなかったら致命傷だ。
壁を突き破りながらも殺す勢いで突進してきたこの巨漢は強い。
息の根を止められなかったときの保険として外に追いだすための捨身にも関心だ。
(このまま落下したら間違いなく死ぬ……かといって勢いを殺せば後から落下していくあの男の射程距離内に入ってしまう……ならば!)
この国にいれば死なないと言われているが、まだその実感が無いためなんとか回避したい。
歯を食いしばり、落下中に城の壁に左腕を食い込ませる。
骨が砕ける音、肉が削れる感覚。
絶叫を堪えながら後から落下してくる巨漢を目で捉える。
攻撃の予備動作だ。
———『虚断《きょだん》』!!
さらに迫りくる巨漢との距離を見計らい、必殺の斬撃を繰りだす。
巨漢は反撃を予想していなかったのか見事命中する。
だが思った以上に皮膚が硬いため軽傷だ。
自分の剣が直撃して軽傷で済んだ人間を見るのは初めてだ、いや果たして人間なのか?
グリフレットは言った。
悪魔の力を宿した使い魔がいると。
まさか、尋常ならぬ硬さを誇ったこの男がその一人なのだろうか。
「レッキング・ライフ!!」
巨漢の落下速度が加速した。
何がなんだが理解する前に黒いオーラを放つ巨漢に腹部を殴られ、地上を破るほどの勢いで地面に叩きつけられてしまう。
————
城全体が揺れるほどの地震を感じたグリフレットは、大体の予想をつけていた。
先程、カリヤを城の外へと追いだしのは使い魔の一人『ゴエティア』。
鋼を越える肉体、剣を通さぬ絶対無敵の皮膚、山脈に穴を空けるほどの怪力をもつそうだ。
カリヤは無事なのだろうか。
戻るべきなのだろうか、と悩んだ末にグリフレットは進むことを決意した。
戻れば大きな時間ロスになってしまう。
それに不敗の騎士と呼ばれたカリヤなら勝てるはずだと、グリフレットは信じた。
「———王室には入らせませんよ」
とてつもない殺気。
背後から、声が聞こえた。
とっさに距離を取ろうと床を蹴ったグリフレットだが、次の一歩で全身が細切れにされてしまう。
血飛沫をあげながらグリフレットは倒れる。
「その程度でよくも殴り込みに来ましたね。ハエを叩き殺した気分です」
執事服の男がニヤりと笑う。
肉塊になったグリフレットを見下し、滑稽に思いながらだ。
「ああ……そうでした。再生する前に片付けなければ」
彼も不死身なのだ。
このまま放置しても生き返らせるだけ。
纏めて国の外に出さなければ意味がない。
いや、執事服の男は思う。
小さく頑丈な箱に閉じ込めたら、どうなるのだろうかと。
再生したら圧縮されて、すぐに死ぬのか。
それとも死なずに生きたまま閉じ込められるのか、想像するだけでも彼は身震いしていた。
「おや?」
執事服の男の体が吹っ飛んだ。
打撃ではない凄まじい斬撃だ。
極限にまで研ぎ澄まされた切れ味が、我が身を切り裂いたことに執事服の男は目を見開いた。
ダメージに耐えながら執事服の男は床に着地する。
新たな侵入者を、その目に捉えながら。
「まさか、ネズミがもう一匹潜んでいたとは……!」
新たに現れた侵入者は、和を彷彿とさせる身なりの刀剣使いだ。
楊枝を咥えた口でニコリと笑いながら刀剣使いは余裕ありげに言う。
「人を鼠扱いとは、躾のなってねぇべらぼうな使い魔だな、この野郎!!」
「心外ですね、私にはベレトという立派な名があるのです。そのような下品な呼び方はご遠慮いただきたい」
ベレトの傷が瞬時に再生する。
人間と悪魔の治癒する速度が異なっているらしい。
軽く服の埃を払う動作も憎ましく、何事もない様子だ。
「ふんっ、お互い様だっての。儂にもサカツマ・ドウデンってぇ天地がひっくり返るほどの美名があるってもんよ」
「下等な人間に名前など飾り物……我々悪魔に与えられる名前には力そのものが宿っている。口にした者、聞く者を畏怖させ殺すこともできるのです……」
「ほう、儂と競うってのかい」
世の中の種族の中でも悪魔は上位に君臨する存在だ、人間など歯が立つはずがない。
戦えば死ぬ、勝ち目はない。
普通の人ならそう思い戦意を喪失するだろう。
だが、この自信に満ち溢れた青年はその逆だ。
心を踊らせ、闘いたくてウズウズしていた。
「———いざ尋常に、勝負!!」
初めに襲い掛かったのはサカツマだった。
————
ゴエティアに首を掴まれ持ち上げられていた。
すべてを持ってしても、俺の剣が通じることがなかった。
神剣士として認められるまで会得した剣技、研磨してきた能力がすべて封殺、相殺された。
まさか、ここで死ぬのか、俺。
「なんだなんだ、これでお終いか……興醒めだな」
満身創痍で、指の先までが動かなくなってしまっている。
仮に反撃できたとしても有効弾にはならない。
この場から逃走する力も残っていないので、お手上げだ。
「……」
アビゲイルさん、マリー。
あの二人、無事なのだろうか。
俺が拘束され、国の外に連れられ殺されたとしても復讐なんてロクなことは考えないでほしい。
アビゲイルさんのことだ、賢明な判断をしてくれるだろう。
薄れゆく意識の中で、そう願った。
「クソ雑魚が、さっさと眠れ」
ゴキッ、と首を折られた。
これでトドメだ。
そう確信したゴエティアは肉体が再生する前に城へと連れていこうとしたが———
「雑種が好き勝手、我の◯◯に危害を加えるとは………万死に値する」
倒したはず。
一時的に殺したはず。
それなのに肉体が一瞬にして再生したのだ。
悪魔を越える治癒力で復活した。
しかも、そこにいるのは別人かと錯覚させられるほどの禍々しい闘気にゴエティアは全身から冷たい汗をながした。
「てめぇ!!」
なにかをされる前にゴエティアは先手を打とうとしたが、数えるのも下らないぐらい先を上回っていた。
「———神道『共食い』」
ゴエティアの四肢が消えた。
なにが起きたのか、すぐに理解できないまま地面にゴエティアに叩きつけられた。
再生しようとするも断面に何らかの魔術をかけられたせいで、それは叶わなかった。
圧倒したというのに。
手も足も出せななかった雑魚相手のはずなのに、自分の敗北を無意識に認めていた。
地面に伏したままゴエティアは『カリヤ』であった人物を見上げる。
いや、そこにはもう奴はいない。
いるのは『死神』だけだ。
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