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第24話 「王城落とし」
しおりを挟む王城を崩すには、あまりにも不甲斐ない戦力である。
たとえカリヤの剣を持ってしても、正面からの突入は絶望的である。
多勢に無勢などと単純な話ではない。
王城には精鋭がいた。
国王の使い魔、悪魔から得た力で生んだ戦士たち。
それが五人もいる。
内情を知った者、裏切り者、反乱分子を排除する役割を与えられ、グリフレットも対象の一人だった。
情報を探っていたことがバレたのだ。
グリフレットは城下町で身を潜め、時には北の区画で泥水をすすりながら隠れた。
いつか訪れる機会を待つために。
ボロボロの身体を引きずりながら彼は空を見上げる。
はためく翼の音が聞こえた。
遠隔地からやってきたであろう、紙を掴んだ鳥がグリフレットの肩に着地した。
マグノリア王国で飼育している鳥だ。
しかも聖騎士同士が遠くにいる際、互いにコンタクトを取るために利用している鳥だ。
王国直々のお便りである。
犯罪者カリヤが生きていたこと、そしてこの土地付近で目撃されたことを。
グリフレットはその男を知っていた。
一年前、聖騎士になった少女がいるからだ。
彼女の兄は犯罪者と呼ばれていた、だが少女はそれを全否定した。
それも行動での証明だ。
あらゆる善行を成し人の信頼を集める。
彼女がもつ強さも聖騎士内では最強と呼ばれるほどだ。
グリフレットは清い騎士を体現した少女に感銘を受け、その言葉が正真正銘であることを信じた。
カリヤの協力を得れば大きな戦力になるはずだ。
「……私にしか分からない侵入ルートがあります」
簡略した王城の見取り図をとりだした。
グリフレットは指で差し示しながら説明する。
「気配を殺し、裏側から庭園に忍び込めば兵士の多い正面を通らずに済みます。それから手分けして別々の階段をのぼり上の階を目指しましょう。カリヤ様に申し訳ございませんが見回りをしている兵士を撹乱してください」
そのうちにグリフレットは王女のいる部屋へと行きアイリーンを連れ出す。
指定の大広間でカリヤたちと合流してアイリーンを託したあとにグリフレットは単独で国王プロメスの部屋を目指すため王城に残る計画だ。
その後はグリフレット次第である。
「そんな手間のかかることをしなくても、正面突破でも良いと思うぞ」
アビゲイルが自慢げに言う。
いつも通りだが良い案なのかもしれない。
騙されたと思いながらカリヤとグリフレットは耳を傾けた。
「それは———」
————
王城の見張りをしている兵士たちは、徐々に接近してくる光の群集を呆然と見つめることしかできなかった。
王城の正面門に光が直撃すると同時に凄まじい爆発が発生した。
「やりすぎですよ!!」
グリフレットが訴えるがアビゲイルは無い胸を張りながら言う。
「どーせ死なないし、手荒な真似は許容していただきたい。派手な方が効率的だしな」
アビゲイルが放った攻撃魔術である。
「アイリーンが巻き込まれでもしたら……」
「威力は抑えている、問題ない!」
カリヤのように慣れていないと彼女のマイペースに飲み込まれるだけだ。
それにアビゲイルも考えなしにドンパチしたわけではない。たとえ厳重でなくても計画を百パー遂行できるほどヤワではないはずだ。
「ほら今のうちだぞ、さっさと騒動に紛れて忍び込んでこい」
城の内部を知っているのはグリフレットだけだ。
アビゲイルはマリーのそばに居なければならないので城から離れた所へと避難してもらい、カリヤとグリフレットは城へと侵入するのだった。
————
「これは何の騒ぎだ!!」
王室で国王プロメスの怒声が鳴り響く。
その声に聞きつけた一人の執事服を着た男がプロメスの御前で跪く。
「何者かの攻撃により正面門が崩されました。見回りをしていた兵への被害が最小限に抑えられていたところを予想しますと、手足れの魔術師による撹乱……城へと放った鼠どもを侵入させるのが目的なのでしょう」
「ならば迅速に対処しろ! 王室に近づけるなよ!」
男はニヤつきながら頭を下げた。
「御意、同胞を連れて排除してきます」
————
カリヤたちは王城の中を駆け回っていた。
グリフレットの最短ルートを使って王女部屋を目指しているのだ。
時々、遭遇する兵士や騎士を倒しながらひたすらに進む。
通れない道があると窓を突き破り、縄を使って上の階へと登る。
グリフレットの実力は確かだ。
剣の腕は剣聖並みだろう、無駄な動きを一つもすることなく洗練された剣術で相手を次々となぎ倒していくのだった。
順調だ、二人はそう思っていた。
迫りゆく脅威に気づかないままカリヤ達が王室のある階にたどり着くと。
最初に異変を感じとったカリヤがグリフレットを突き飛ばした。
刹那、横から巨漢が壁を突き破って出てきたのだ。
「おらぁ! 死にやがれ!!」
突き飛ばした態勢のままのカリヤにめがけ巨漢が勢いを乗せた凄まじいラリアットを食らわせるのだった。
モロに衝突したカリヤの身体が反対方向の壁に叩きつけられ、巨漢はさらに追撃をしかける。
「カリヤ様!!」
避けきれず突進をふたたび受けたカリヤの身体が壁を突き破り、巨漢とともに城の外へと落下してしまうのだった。
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