恋人を寝取られ死刑を言い渡された騎士、魔女の温情により命を救われ復讐よりも成り上がって見返してやろう

灰色の鼠

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第23話 「裏切りの騎士」

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「現在、マグノリア王国はカリヤ様を『庇護』をするか『断罪』をするかの派閥で分かれてしまっています。断罪派はアベル、庇護派はアリーシャ様が派閥の領袖となっております。私も庇護派の一員である聖騎士の一人なのですが、公爵家コディントンと上流貴族リスターンに対抗するには、あまりにも発信力が足りません」

 カリヤたちの知らない間に、まさか妹のアリーシャがそこまで動いていたなんて。
 喜ぶべきなのか迷うカリヤを見兼ねてグリフレットは続けた。

「兄の血を流しているだけあって、心配に及ばぬ程まで貴方の妹は強い。兄を想っていたからこそ、信じていたからこそ冤罪だと確信したのでしょう。私も、貴方ほどの騎士が女狐ごときに誘惑されるような器ではないと思っていました」

 礼儀正しく正座をしているグリフレットは微笑みながらカリヤを褒めていく。
 人を気持ちよくさせる方法を熟知しているかのような好青年な印象だ。

「グリフレット殿は、どのような用件でここに?」
「私は不死身の国に仕える騎士でした……」

 なにか訳ありにグリフレットは言う。

「具体的にはこの国の王女『アイリーン・アムブロシア』様を警護する近衛騎士に任命されたのです。とても可愛らしく、決めたことを真っ直ぐ貫くお姫様で、側でお守りしていた私はそんな彼女に惹かれました。アイリーン様の元で仕えることが私のなによりの幸せであり、いつしか彼女を娘のように愛するようになったのです。この命をもって一生守っていこう、そう決断したのですが……ある日を境に全てが変わってしまいました———」



 グリフレットの戦いが始まったのは半年前のこと。

 王城でいつもと変わらずアイリーン姫の側で仕えていた彼は、国王陛下プロメスに呼びだされ唐突に解任を言い渡された。
 それも半年後である。

 理由を言及するも国王陛下は答えを告げることはなかった。
 しかし、どうしても気になるグリフレットはその真相を確かめるべく城内で不信感を抱かれないよう情報収集をしながら秘密を探るのだった。

 かれこれ数ヶ月後。
 彼は不死身の国の真実を知った。
 今まで国王陛下には十人もの娘がおり、全員が消息を絶っている情報を得たのが大きなヒントとなったのだ。

 不死身の国では人は死なない。
 そこに至るまでの概念には理屈が必要なのだ。

「国を囲うほどの大きな結界が不死身の国、周囲に張られています。結界の内部に入れば寿命を永続させられる呪《まじな》いにかかり、肉体が決して滅びることがなくなるのです。現国王プロメス様は不死身の効果が現れた最初の日から、自分がこの国の民を死なせないために与えた加護なんだと言い張り国民は皆、神でも崇拝するかの如くプロメス様を称えるようになりました……それから百年の時が過ぎ、不死身の効果がプロメス様が『悪魔』との契約を交わしたことによる発現だと知ったのです。しかも対価はプロメス様自身の肉体———」

 だが、せっかく不死身の肉体を手にすることができたというのに死ぬことが対価だとは聞いていなかった国王プロメスは悪魔に懇願した。
『命が惜しい、代わりになるものを与えるから助けてくれ』と。

 命乞いをする王に悪魔は承諾をした。
『ならば汝の娘を頂くとしよう。まだ熟していない処女の肉体と魂は格別だ』

 最初の娘を犠牲にすることで不死身の効果を継続させ、国王自身も生かすと悪魔は約束した。

 国王はなにも知らない娘を心良く犠牲にした。

「猶予は二十年、また『不死身の効果を継続したいのなら汝と血の繋がった新たな娘を差しだすこと』を悪魔は条件にしたのです。プロメス様は様々な女性と子を作っては二十年以内に成長をした娘を捧げ、不死身の国に与えられた効果を保とうとしてきました。国民はある程度の年齢で成長が止まり、傷を負ってもすぐに治る体になってから百年、貴方たちが外で話しかけた人たちは不死身の国起源から生きてきた者が大半です」

 黙々とカリヤたちはグリフレットの話を聞き続けた。

「しかし知らずにいる、不死身であることが国王の加護ではなく呪いであることを。いずれ捧げられる王女アイリーン様を守るべく私はこの国を裏切ります。国王の非道な行いを白日の下にさらし、国民に真実を明かします。そうすればアイリーン様を救うことが出来るはず、私はそのために彼女と出会ったのです」

 それを聞いていたカリヤが小さく笑った。

「お前を見ていると騎士道に囚われていた、かつての自分を思い出しそうだ」
「私とカリヤ様が一緒だなんて……烏滸がましいです」
「そんなことはない。逆にお前の方が俺よりよっぽど優秀だ、決定的な違いがあるからな」

 グリフレットは頭をかしげた。

「決定的な……違い」
「一方を捨てることのできる『覚悟』だ。娘のように愛した姫を解放するため、国の連鎖を断ち切ろうとしている。とてもじゃないが俺には出来ない……」

 それをそばで大人しく聞いていたアビゲイルが鼻を鳴らした。
 それでも話には参加しない。
 するだけ野暮なのだ。

(お前も十分変わったよ、カリヤ)

 妹の手紙にはグリフレットに助力して欲しいという内容だけが書かれていた。
 兄が生きていた、という感動のコンタクトよりも目の前の問題が優先だ。

 なにもかもが終わったら、逢いにいこう。
 それだ数年、十年後のことであろうと、きっと。

「グリフレット殿、お前に協力しよう」





 ・不死身の国は国王陛下が息女を悪魔に捧げることで効果を保っている。

 ・いずれ犠牲にされる次の息女の近衛騎士に任命されたグリフレット、残酷な真実を知り国を裏切る。

 ・実はマグノリアの聖騎士でカリヤの妹とも接点があるため、本人からの手紙を送ってもらいカリヤを説得するのに使う。

 ・カリヤの協力を得る。
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