恋人を寝取られ死刑を言い渡された騎士、魔女の温情により命を救われ復讐よりも成り上がって見返してやろう

灰色の鼠

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第1話 「寝取られて」

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 俺の名前はカリヤ・ゼロ。
 平民出身の王国騎士である。
 マグノリア王国の騎士養成学校の卒業後、王国の軍に所属する『聖狼の彼岸騎士団』に入団して多くの功績を残したことにより隊をまとめるほどの立場まで昇進した。
 しかし、周囲の貴族家系の騎士からは平民出身という理由で常時下に見られていた。

 新しく入隊してきた後輩たちからも訝しい顔を向けられるが、そんな態度を取るようであれば訓練を数倍も厳しくするだけだ。
 気に入らないのであれば除隊を申し出てくればいい、国民や国王陛下の平穏と平和を考えぬ自己中な騎士など必要ない。

 そんな堅物な俺でも人間関係を完全に諦めたわけではない。
 騎士団内では常に暗めな性格だが町に出て、平民の服装に袖を通せば普通の男子へと変貌する。

 今年で十八歳。
 若い時期ほど楽しめという父や母のアドバイスに従い、素性を隠し人々の営みによく紛れ込んでいた。

 いつもの毎日。
 いつもの日々の過ぎ去りに何ともない気持ちのまま町を歩いていた俺の元に衛兵がやってきた———





 魔獣が王都に侵入したとの情報が伝えられ、休暇であることを忘れすぐさま排除しようと魔獣を裏路地まで追い詰めてみせたが、偶然そこに少女が通りかかってしまった。
 固まって動けなくなり、逃げるよう何度も呼びかけるが無駄であることを判断すると俺は何としても彼女を守りながら魔獣との戦闘に突入した。

 魔獣の爪が俺の左目を切り裂き、痛みで硬直してしまったその僅かな隙を見計らって魔獣はこの場からの逃走を図る。
 しかし逃走先には動けなくなってしまった少女がいて、魔獣は構わず攻撃姿勢を作り彼女を吹き飛ばそうとしたその瞬間、火事場の馬鹿力で俺は魔獣に追いつき背後から全力で剣を貫くのだった。

 魔獣を倒した後に少女が無事かどうか確かめる。
 少女は返り血を浴びた俺を見上げていた。
 さすがにこの姿では怖がらせてしまう。
 すぐにこの場から離れて他の者を呼ばなくては、と一歩踏み出すが力が抜けてしまい倒れそうになる。

「大丈夫ですか?」

 華奢な体で少女に受け止められた。
 自分にも返り血がついてしまうことを心配せずにだ。
 小さくて温かく、女の子らしい優しく魅力的な香りのする彼女を思わず強く抱き寄せていた。

「ふぇ!?」という驚いた声を上げる彼女の名前はエドナ。

 貴族家系の令嬢らしいが家名を名乗らないエドナがどの家出身なのかを知らないまま俺は彼女と知り合ったのだった。




 ———




 あれから一年後。
 エドナとは恋人関係になった。
 彼女の年齢は十七歳。
 俺の二つ下で、そこまで歳の差はないのだが時々エドナが子供っぽくなるので、恋人というよりかは妹のように可愛がってしまう。
 彼女はなんというか、人懐っこいのだ。

 町を歩き回ればエドナに声をかける人が多い。
 人気者だ、俺と比べたら大違いである。

「私、カリヤ君と出会えたことを本当に幸運に思っています。神様がいるのならお礼を言いたいところです」

 隣で歩いていたエドナに告げられ、心の底から恥ずかしさが湧き上がる。

「お、俺も……エドナと会えたことを……」

「恥ずかしがっちゃって、可愛いんだから~」

「……うるさい、恥ずかしいものは仕方ないだろ」

 エドナに笑われてしまう。
 男は伝えるのが下手くそなんだよ、女性とは違って積極的になるには人一倍の勇気が必要になるから。

「大好きですよ、カリヤ君」

 上目遣いからの告白。
 トドメを刺された。




 ———





 国王陛下直々に仕える聖騎士になるため、日々の努力は惜しまない。
 朝から晩まで剣の素振りや稽古、夜には知識を養うための勉強に明け暮れていた。

 聖騎士試験は一ヶ月後。

 数百もいる騎士の中から選ばれるのは五人のみ。
 その一人になるため騎士団内で潰し合いが発生するのは珍しくはない。

「おい、カリヤ!」

 騎士団拠点の裏庭で歩いていたら、唐突に背後を蹴られていた。
 受け身を取ることも出来ず無様に倒れてしまう。

「いろんな実績を勝ちとって最近テングになってるみたいじゃねぇか。俺を差し置いてあんまし調子のってんじゃねぇぞ」

 見下ろしてくるのは聖狼の彼岸花騎士団の制服を着た団員のアベル・リスターン。
 入団当初からちょっかいを出してくる俺の同期だ。

「アベルか……相変わらずだな」

 性格は最悪だが実力と権力で成り上がった坊ちゃんだ。
 絵に書いたような暴君気質で自分の都合の悪いことがあればすべて金で解決するようなやつだ。

 だが彼は、努力をせずとも強い。
 世の中には存在するのだ、初っ端からスタートラインを飛び越えるような奴が。

「ああ? 文句でもあんのか雑魚が」

 威嚇されるが、俺は構わず告げた。

「いや……暇そうで羨ましいよ、他人に威張ることでしか時間を潰せないんだろ?」

 挑発をすると拳が飛んできた。
 知ってはいたが、あまりにも強烈すぎて全身に衝撃が駆け巡る威力に気絶しかける。

「弱ぇくせに俺に軽口叩きやがって! 図に乗ってんじゃねぇぞ! 親父に頼めばテメェの故郷を焼き払うことだって出来るからな、肝に銘じておけよ!」

 完全に信じてはいないが故郷にいる祖母と祖父、妹のことを考えると言い返すなんて愚かなことはできなかった。

 アベルも聖騎士試験を受ける一人だ。
 その資格が彼の実力にはあった。
 さらには裏表の扱いが上手く、目上の者には媚びて自分より下の者を裏によびだし脅すようなことをしている。
 それで立場を確立しているのだ。




 ———




 試験前夜の日。
 珍しいことにアベルに飲みに誘われた。
 会場はアベルの部屋。

 なんか怪しい気はしたが仲直りをしたいとのことらしい。
 心を入れ替えてくれたのなら文句はないし、むしろ断る理由もないので皆が寝静まりかえった暗い虚点の中、アベルの部屋を目指す。

 ………っ。

 アベルの部屋の扉が少し開いていた。
 その隙間から漏れる出す明かりを尻目にドアノブに手をつけようとした瞬間、中から女性のような甘い声が聞こえた。

「……あっ……ああんっ! ダメっ……そこ気持ちいいからぁ……」

 ドクン、と自身の心音がはっきりと伝わった。
 女性の声に聞き覚えがあったからだ。
 だけれど、そんなはずがない、信じたくない。

 心の中では拒絶していたが、真実を知りたいという衝動に体が無意識に動いていた。
 ドアをゆっくりと開け、中で行われている行為を直視する。

「へへ、なんだよ。ずいぶんと遅かったじゃねぇかカリヤくーん」

 そこにいるはずのない恋人のエドナ。
 彼女を抱きしめながらアベルは何度も何度も行為を繰り返し、俺に見せつける。

 えぐられた精神が肉体にまで影響を及ぼし、気がつけば過呼吸になっていた。
 深く呼吸を続けても酸素が行き届く感覚がしない。
 立っていられないほどのショックに、床に尻もちついてしまう。

「エドナ……そんな……どうして」

 呼ばれる名前に反応して振り返るエドナの表情は愉快爽快そのものだった。
 まるで全てが計画通りに進行した状況であるかのように。

「———それは後に分かりますよカリヤ」

 愛しい人を目の前で汚される光景に耐えきれず、俺はその場から逃げていた。
 吐くのを堪えながら、ただひたすらに。

 背後から迫りくる嘲笑いと悪夢から逃れるため、暗闇の中で嘆きながら走り続けるのだった。



 まさかエドナの告げた「後に分かること」が最大の厄災であることを、いま知る由もなかった。
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