11 / 13
第11話 「奴隷少女」
しおりを挟むルーディンの朝は早い。
鳥が鳴く前に、早起きをして支度をする。
冬は近かったが、あまり着込まずに動きやすい服装で部屋から出た。
魔王城の裏庭。
さらに奥にある訓練所にて一人、走り込みをしていた。
『忠信の契り』
魔族の間でしか存在しない感応的な現象。
主人となる者に忠誠を誓うことによって主人の能力が高ければ高いほど配下も影響を受け、成長する。
しかし主人の方は多大な魔力を消費するという代償もあるため、多くの契りを交わすときは注意をしなければならない。
ちなみにルーディンは魔王との『忠信の契り』を交わしていた。
おかげで肉体の方にも筋肉がついてきた。
一時間ほどの朝のルーティンを終わらせ、自室に戻る。鑑定眼で一番高い耐久力の高い服装を厳選して、着こなす。
魔族の衣服は特殊だ。
魔術で施されており、防御力の向上や魔力の維持に役立つ代物になっている。
さて、これからだが。
仕事がないわけではない。
新たな領主となる権限を与えられたのだ。
現在、人族の大陸がある方向にはいくつもの要塞や砦、人族からの防衛戦に使われていた土地があった。
しかし以前の敗戦もあって、いまじゃ要塞は廃墟と化していた。
「そういえば、サリエルのやつ奴隷の売買をこれから廃止化するといっていたな」
興味はあった。
奴隷というものは、あまり乗り気で買いたいとは思わないが忠信の契りの効果実験にもなるし良い機会なのかもしれない。
本日の目的は奴隷商。
―――
奴隷商人がニヤニヤと笑っていた。
近頃、利用してくれる客がいないせいか随分《ずいぶん》とうれしそうだ。
「安い、とりあえず戦闘能力の低い奴隷がほしい」
条件は簡単なほうだ。
弱い方が成長過程がわかりやすい。
奴隷商人からの笑顔が消え、今度は悩ましそうな顔を浮かべだした。
「ふむ……実験の被験者にでもつかうのですかな?」
察しの良い奴隷商人だが言い方が悪い。
「しかし、うちは買い取られた後のためにも事前に調教や教育を施しているのです……なので上品なものばかりですが」
知能の高い奴隷もなるべく避けたい。
忠信の契りは知識力にも影響を及ばせるため実験にならなくなってしまう。
「なんとかしてくれないのか?」
「あるには、ありますがお客様にご迷惑がかかるかと」
「気にするな、条件内に留まるのならなんでもいい」
奴隷商人がやれやれと呟きながら案内をしてくれた。
さらに建物奥、生臭さが充満《じゅうまん》する部屋の中にたどり着く。
「こちらの人間はいかがですかね?」
奴隷はおもに人間だ。
戦争の生け捕りや誘拐で奴隷商に売り飛ばされる。
覚えが早く、便利が売りであるとサリエルが言っていた。
そして紹介された奴隷は、衣服すら身に着けていない少女。
あばら骨が皮膚から浮かびあがり、腕もふつうより細い。
下半身もなにも履いていないせいでボロボロだ。
「買い手がいなければ廃棄予定でしたが……」
「買う、ちょうどいい」
即答だ。
ここまでひどい扱いを受けている子供を見過ごすことはできない。
廃棄予定であることも許せない。
人の命をなんだと思っているのか。
ここに来る前に、色々と考えこんでいたルーディンだったが奴隷商はやはりダメだ。
サリエルが奴隷の売買を廃止させようとする理由も理解できる。
奴隷商人に金を渡す。
値段以上なのか奴隷商人が驚いている。
釣りなんて受け取らず奴隷少女に近づく。
「………今日から俺がお前の主人だ、買ってやったからには役にたってもらうぞ」
「……ご、ご主人……ご主人ちゃま……」
言葉が不器用だ。
教育を受けてこなかったのだろうか。
あとで教えればいいことだ、いま気にすることではない
衣服を身に着けていないのでルーディンは上着を脱ぎ、少女に羽織らせた。
手を掴み立たせようとするが、すぐに少女は倒れそうになる。
仕方ないので軽々な体を背負いあげる。
少女は驚いた声を漏らすが、ルーディンが確認のために振り返るとと少女は手で口を覆い押し黙った。
不思議な行動をする少女を尻目に、奴隷商を後にした。
檻に閉じこまれている奴隷たちを見渡しながらルーディンは思った。
(かならず、いつか全員解放してやる)
純粋な善意からくる思考だった。
―――
奴隷少女の年齢は10歳。
薄い金色の髪で短い、赤い瞳。
名前はまだないので、どうすべきか考えるルーディン。
ぐうううう。
背中の方から音が鳴る。
奴隷少女は恥ずかしそうな顔をしていたが生理はしかたのないことだ。
とりあえずルーディンは食事のできそうな店を探した。
―――
あとがき。
奴隷少女の名前を募集したいので、ぜひ感想欄でお願いします。
由来や理由もぜひ解説していただけると嬉しい限りです!
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺おとば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

「異端者だ」と追放された三十路男、実は転生最強【魔術師】!〜魔術の廃れた千年後を、美少女教え子とともにやり直す〜
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
アデル・オルラド、30歳。
彼は、22歳の頃に、前世の記憶を取り戻した。
約1000年前、アデルは『魔術学』の権威ある教授だったのだ。
現代において『魔術』は完全に廃れていた。
『魔術』とは、魔術式や魔術サークルなどを駆使して発動する魔法の一種だ。
血筋が大きく影響する『属性魔法』とは違い、その構造式や紋様を正確に理解していれば、所持魔力がなくとも使うことができる。
そのため1000年前においては、日常生活から戦闘、ものづくりまで広く使われていたのだが……
どういうわけか現代では、学問として指導されることもなくなり、『劣化魔法』『雑用魔法』扱い。
『属性魔法』のみが隆盛を迎えていた。
そんななか、記憶を取り戻したアデルは1000年前の『喪失魔術』を活かして、一度は王立第一魔法学校の教授にまで上り詰める。
しかし、『魔術学』の隆盛を恐れた他の教授の陰謀により、地位を追われ、王都をも追放されてしまったのだ。
「今後、魔術を使えば、お前の知人にも危害が及ぶ」
と脅されて、魔術の使用も禁じられたアデル。
所持魔力は0。
属性魔法をいっさい使えない彼に、なかなか働き口は見つからず、田舎の学校でブラック労働に従事していたが……
低級ダンジョンに突如として現れた高ランクの魔物・ヒュドラを倒すため、久方ぶりに魔術を使ったところ、人生の歯車が再び動き出した。
かつて研究室生として指導をしていた生徒、リーナ・リナルディが、彼のもとを訪れたのだ。
「ずっと探しておりました、先生」
追放から五年。
成長した彼女は、王立魔法学校の理事にまでなっていた。
そして、彼女は言う。
「先生を連れ戻しに来ました。あなたには再度、王立第一魔法学校の講師になっていただきたいのです」
、と。
こうしてアデルは今度こそ『魔術学』を再興するために、再び魔法学校へと舞い戻る。
次々と成果を上げて成りあがるアデル。
前回彼を追放した『属性魔法』の教授陣は、再びアデルを貶めんと画策するが……
むしろ『魔術学』の有用性と、アデルの実力を世に知らしめることとなるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる