魔王を生かしたことでパーティの密告によって死刑された英雄—じつは魔王に惚れられ蘇生してくれたので結婚し、順風満帆な人生を送りたいと思う—

灰色の鼠

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第11話 「奴隷少女」

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 ルーディンの朝は早い。
 鳥が鳴く前に、早起きをして支度をする。
 冬は近かったが、あまり着込まずに動きやすい服装で部屋から出た。

 魔王城の裏庭。
 さらに奥にある訓練所にて一人、走り込みをしていた。

『忠信の契り』
 魔族の間でしか存在しない感応的な現象。
 主人となる者に忠誠を誓うことによって主人の能力が高ければ高いほど配下も影響を受け、成長する。
 しかし主人の方は多大な魔力を消費するという代償もあるため、多くの契りを交わすときは注意をしなければならない。

 ちなみにルーディンは魔王との『忠信の契り』を交わしていた。
 おかげで肉体の方にも筋肉がついてきた。

 一時間ほどの朝のルーティンを終わらせ、自室に戻る。鑑定眼で一番高い耐久力の高い服装を厳選して、着こなす。
 魔族の衣服は特殊だ。
 魔術で施されており、防御力の向上や魔力の維持に役立つ代物になっている。

 さて、これからだが。
 仕事がないわけではない。

 新たな領主となる権限を与えられたのだ。
 現在、人族の大陸がある方向にはいくつもの要塞や砦、人族からの防衛戦に使われていた土地があった。

 しかし以前の敗戦もあって、いまじゃ要塞は廃墟と化していた。


「そういえば、サリエルのやつ奴隷の売買をこれから廃止化するといっていたな」

 興味はあった。
 奴隷というものは、あまり乗り気で買いたいとは思わないが忠信の契りの効果実験にもなるし良い機会なのかもしれない。

 本日の目的は奴隷商。





 ―――





 奴隷商人がニヤニヤと笑っていた。
 近頃、利用してくれる客がいないせいか随分《ずいぶん》とうれしそうだ。

「安い、とりあえず戦闘能力の低い奴隷がほしい」

 条件は簡単なほうだ。
 弱い方が成長過程がわかりやすい。
 奴隷商人からの笑顔が消え、今度は悩ましそうな顔を浮かべだした。

「ふむ……実験の被験者にでもつかうのですかな?」

 察しの良い奴隷商人だが言い方が悪い。

「しかし、うちは買い取られた後のためにも事前に調教や教育を施しているのです……なので上品なものばかりですが」

 知能の高い奴隷もなるべく避けたい。
 忠信の契りは知識力にも影響を及ばせるため実験にならなくなってしまう。

「なんとかしてくれないのか?」
「あるには、ありますがお客様にご迷惑がかかるかと」
「気にするな、条件内に留まるのならなんでもいい」

 奴隷商人がやれやれと呟きながら案内をしてくれた。
 さらに建物奥、生臭さが充満《じゅうまん》する部屋の中にたどり着く。

「こちらの人間はいかがですかね?」

 奴隷はおもに人間だ。
 戦争の生け捕りや誘拐で奴隷商に売り飛ばされる。
 覚えが早く、便利が売りであるとサリエルが言っていた。

 そして紹介された奴隷は、衣服すら身に着けていない少女。
 あばら骨が皮膚から浮かびあがり、腕もふつうより細い。
 下半身もなにも履いていないせいでボロボロだ。

「買い手がいなければ廃棄予定でしたが……」
「買う、ちょうどいい」

 即答だ。
 ここまでひどい扱いを受けている子供を見過ごすことはできない。
 廃棄予定であることも許せない。
 人の命をなんだと思っているのか。

 ここに来る前に、色々と考えこんでいたルーディンだったが奴隷商はやはりダメだ。
 サリエルが奴隷の売買を廃止させようとする理由も理解できる。

 奴隷商人に金を渡す。
 値段以上なのか奴隷商人が驚いている。
 釣りなんて受け取らず奴隷少女に近づく。

「………今日から俺がお前の主人だ、買ってやったからには役にたってもらうぞ」
「……ご、ご主人……ご主人ちゃま……」

 言葉が不器用だ。
 教育を受けてこなかったのだろうか。
 あとで教えればいいことだ、いま気にすることではない

 衣服を身に着けていないのでルーディンは上着を脱ぎ、少女に羽織らせた。
 手を掴み立たせようとするが、すぐに少女は倒れそうになる。

 仕方ないので軽々な体を背負いあげる。
 少女は驚いた声を漏らすが、ルーディンが確認のために振り返るとと少女は手で口を覆い押し黙った。

 不思議な行動をする少女を尻目に、奴隷商を後にした。
 檻に閉じこまれている奴隷たちを見渡しながらルーディンは思った。

(かならず、いつか全員解放してやる)

 純粋な善意からくる思考だった。




 ―――




 奴隷少女の年齢は10歳。
 薄い金色の髪で短い、赤い瞳。
 名前はまだないので、どうすべきか考えるルーディン。

 ぐうううう。

 背中の方から音が鳴る。
 奴隷少女は恥ずかしそうな顔をしていたが生理はしかたのないことだ。
 とりあえずルーディンは食事のできそうな店を探した。




 ―――

 あとがき。

 奴隷少女の名前を募集したいので、ぜひ感想欄でお願いします。
 由来や理由もぜひ解説していただけると嬉しい限りです!
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