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第10話 「仲間からの殺意」
しおりを挟むS級相当の魔獣の討伐。
近頃、この魔獣によって諸国では多大な被害を受けていた。
そのせいか冒険者ギルドへの依頼は絶えなく続いている。
受ける冒険者は少なく、ベテランでも手が負えないとのこと。
アレク達はあえてその依頼を受注した。
魔王討伐部隊としてS級魔獣ぐらいは討伐せねば、このさき魔王すら倒せないだろう。
三人は自信満々だったが、グレイは緊張していた。
ルーディンは相変わらずである。
場所は王国近くの峡谷。
大勢の冒険者が追い込んだのだが、生存を脅かされることを悟り魔獣は足を踏み入れにくい峡谷へと逃げ込んだのだ。
これ以上の犠牲者を避けるためアレク達は峡谷の奥にある地下への入り口に投下されるのだった。
地中を進めば進むほど、空気が濁っていく。
体も重くなっていく。
三十分ほど歩くと広間にたどり着いた。
魔獣が待ち受け、五人が構える。
腕が四本、背中には触手。
全身真っ黒の巨大な魔獣だ。
死ぬかもしれないプレッシャーにアレクが顔を強張らせた。
グレイが泣きそうになっている。
「行くぞ!! ……………ッ!?」
戦いが始まった。
と思いきや、この場にいた全員が吹き飛んでいた。
あまりのも軽々しく、簡易的な攻撃でアレク達は瀕死に陥ったのだ。
一人を残して。
「手短に終わらせる」
手ぶらだ、武器すら持っていない。
それなのに無傷なのだ。
防御態勢がとれる状態ではないというのに。
魔獣は追撃をしかけない。
怯えていたのだ。
目の前の脅威に。
自分よりも遥かに小さいはずのルーディンという存在に。
予告通り、戦いはすぐに終わった。
あるはずのない武器、黄金に光る槍が出現したのだ。
ルーディンはそれを掴み、一歩踏み出し投擲《とうてき》をするだけ。
光のごとくの速さで槍は魔獣を貫いた。
魔獣はなにが起きたのかを認識することもなく絶命した。
槍が消滅すると同時にルーディンは瀕死の仲間たちの方へとふりかえった。
アレクは唖然と見上げる。
涼しい表情で佇《たたず》み自分を見下げるルーディンを。
湧いて出てきたのは嫉妬心。
どうして自分が倒れていて、この男は立っているのか。
アレクには認めがたい現実だった。
町がドラゴンに襲われた。
被害の拡大は早く、全土が動くほどの緊急事態になった。
アレク達も町で暴れ狂うドラゴンの元へと急いでいたが、到着と同時にルーディンはまた強大な敵であろうと涼しい表情で瞬殺した。
「我々の住処を守っていただき、ありがとうございます」
決まって感謝されるのはルーディンだった。
まるで自分の行動が当然かのようにルーディンはなんともない様子だ。
住民たちに囲まれお礼をされている。
顔も良いため女性たちに唐突の求婚もされるが、ルーディンは余計な見返りを受けとったりはしなかった。
熟《つくづく》英雄なのだ。
さらには姫との婚約。
アレクの嫉妬心は次第に殺意へと変わった。
どうしてあんな奴だけが特別扱いされるのか、どうして自分が惨めな気持ちになってまでルーディン如《ごと》きの陰になってしまうのか。
アレクだけではない。
ジリス、リューゲルも同じ気持ちだった。
グレイだけは違った。
むしろ尊敬してルーディンにはくっ付いていた。
ルーディンも彼女を拒むことな色々と戦いにおいての助言を与えていた。
どこまでも幸せで幸運な人間だ。
魔王を打ち破るはずだった、運命の日。
トドメをさそうとしたアレクは突如、凄まじい威圧によって行動を封じ込まれた。
ルーディンのせいであることを理解した途端に、深い憎悪が沸き上がった。
しかし、ルーディンが次に口にした言葉がアレクたちに最大の衝撃を与えた。
―――汝の覇道、見事であった。いずれまた剣を交えよう
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